新宿・歌舞伎町にある、ゲイのカップルがオーナーのカフェ「ロイトシロ」の店内は女性や子ども連れでいっぱい。来店客は「ゲイであることは隠すことではない」「オープンになってきているのはすごく良いことだなって」と話す。LGBTへの理解が広まってきた今の社会を象徴するような雰囲気だ。そんな中で迎えた1日の世界エイズデーは、HIV/エイズの正しい理解を促すと同時に、LGBTの理解を深めるイベントに変わりつつある。

 その一方、エイズ発症の元となるHIVの新規感染者の約70%を占めているのが、男性間の性行為接触によるものだ。AbemaTV『AbemaPrime』では、この問題について取材した。
 

■「コンドームの減りが悪いなと感じている」

 都内某所にあるビル。1階はフリースペースになっており、そこで意気投合した相手がいれば上の階へ。2畳程度に仕切られたプレイルームにはマットレスが敷かれ、ティッシュ、ローションが置かれている。中には鎖で吊るされた革製のブランコがある部屋もあった。このフロアでは、男性間の性行為が行われることがあるのだ。

 「商売にも影響してくるのでなかなか声を大きくして言えないが、色んな方が声をあげてくださればと思っている」。今回、オーナーが取材を受け入れてくれたのは、危機感とも言うべき切実な理由があったからだ。「コンドームの減りが悪いなと感じている。医学や薬が進歩していることもあって、“死ぬ病気じゃないし”と、危機意識が薄れていっていると感じる」。

 フレディ・マーキュリーが来日の度に足を運んでいたことでも知られる、新宿2丁目の老舗ゲイバー「九州男」。常連に話を聞くと、「周りにも生でガンガンする人はいる。僕は受け身側だが、生で求められることは結構ある」(30代)、「やっぱり生が気持ちいいからだと思う。その時が良ければいいと。言ってしまえば、うちらには守るものがない。家庭もないし、別にそのまま亡くなってもいいという人が多いと思う」(30代)、「まさか自分の身近に迫っているとは思っていない」(20代)と明かす。

 かつきママは「やっぱり酒の勢いで、欲望のままにいっちゃってることはあると思う」。また、30年来という60代の常連客は「昔は“最近来ないけど、どうしたの?”と聞くと、“エイズで病院に”という時代もあった」と振り返った。
 

■「その瞬間を楽しむ生き方だから」

 コンドームを使わない理由について番組が聞き取りを行ったところ、「男女と違って妊娠も結婚も考えなくていい。肉体関係を持つハードルが低い」「アプリなどで出会うのが簡単な時代。1度きりの相手だからケアに気を使わない」「その瞬間を楽しむ生き方(中には、キャリアだと知っていてもコンドームをしないというゲイもいるという複数証言も)」といった声もあった。

 実際、HIVが体内で増殖するのに必要な酵素の働きを抑える薬を服用する「抗レトロウイルス治療」の結果、HIV感染者と非感染者の男性同性愛カップル972組のコンドームなしの性交7万6088件で、HIV感染がゼロだったという研究結果も出ているほか、毎日1錠服用することでHIV感染を90〜100%防ぐことができる事前予防法「プレップ」も登場している(WHOも認める予防法だが、日本では未承認)。
 

 そんな最新医療の効果も踏まえた上で、毎週金曜の夜、新宿2丁目界隈のゲイバーにコンドームを無料デリバリーする取り組みを13年前から続けているのがNPO法人「akta」の岩橋恒太理事長だ。「薬や治療法も進んできているし、費用の支援も充実してきている。そしてHIVは大変な病気じゃないよという情報も出回っているので、若い子たちは全く知らないか、知っていても楽観視している。ここを変えていかないと、感染者数を減らしていくことはできないと思う」。

 反面、予防や啓発、研究開発などに使われる国の予算は平成22年の69億500万円から減少傾向にあり、令和元年は44億8600万円となっている。「国際的に見て日本のエイズ対策費は十分ではない。一般の人への理解を広げることも大事だが、男性間のセックスによって流行していると分かっているわけだから、そこへの対策をしっかりとすることがもっと必要ではないか。ただ、エイズの恐怖を煽ることで、みんなが検査に行くようになったり、HIVのことを話せるようになったりするかというと、むしろそれが排除につながる可能性もある。すでにHIVを持って生きている人たちが3万人以上いる中、その人たちの人権についての問題も踏まえることが重要だ」。

 また、日本で唯一だというゲイ専門の婚活相談所を運営する株式会社リザライの飛田要一代表は「真面目な出会いを求めている方に来て頂いて、ご入会手続きをすると同時に身分証明書を提示してもらっている。ネットとかアプリの掲示板と違うのは、この本人確認をするというところだ」と話す。登録者は500人を超えており、ここで出会ったパートナーとの関係が長続きすることで、危険な性行為が減るのではないかとの狙いもあるという。
 

■社会的孤独に目を向け、学校教育の充実を

 ゲイのライフスタイルを発信するWEBマガジン「GENXY」の上地牧人編集長も「80年代後半〜90年代後半に爆発的に流行り、そこから30年ほど経過しているが、この20数年には、“危険だ”という啓発だけだった。それが医療の発達や社会的な後押しなどポジティブなニュースが増えてきたこともあって、この2、3年では“エイズになっても安心だよ”と、心理的なハードルを下げる方に切り替わってきた。HIVに感染した方とエイズを発症した方を合わせると、むしろこの2年くらいは減少傾向にあるといえる。ここからいかにスピード感を持って減少に持っていけるかが我々の課題だ」と話す。

 「学校の授業でコンドームの使用について学ぶのは、主に避妊の文脈だ。そのため、HIVや他の性感染症について、よく分からないまま大人になる方もいらっしゃる。そうした学校教育でのベースの上に安心啓発があるべきだ。我々のような小さなメディアやNPOの善意に任せるのには限界がある。やはり予算を使ってカバーしていくことが重要だと思う」。

 その上で上地氏は、「異性間でも性感染症になりやすい人は風俗店で働いていたり、家出をしていたりする方が多いと思う。ゲイにおいても、みんなが2丁目に行っているわけではないし、乱れている人ばかりではない。しかし、乱れている人には、居場所がないといった悩みを抱えている方も少なくない。だからこそゲイに限らず、社会的な孤独に悩む人たちに目を向けるべきだと思う」とした。

 ノンフィクション作家の石井光太氏は「LGBTが社会の中でだんだんと認められてきて、活動の幅を広くしていった。それに比例してHIVに対する啓発活動が縮小しているのではないかという実感がある。感染者数も、あくまでも自己申告に基づくものなので、現実的にはそれよりも多い可能性がある。やはりこれからの啓発活動について、もう一段階考えていかなければならない」と指摘。

 リディラバ代表の安部敏樹氏も「エイズと言われると、昔の報道や教育のこともあって“不治の病”“死に至る病”というイメージがあるので、検査に行くのが怖くなると思う。その結果、検査に行かず、感染の可能性を抱えたまま生活してしまうことになる。予防や検査の呼びかけと同時に、早く対処すればなんとかなりますよ、ということも周知していくことが必要だ」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:減らない新規感染者 HIV/エイズの現状と最新医療