光の粒から電子に情報を移し替える「量子中継器」。緑色の基盤の中央部に直径1万分の1ミリ以下の「小部屋」があり、そこに電子が1個閉じ込めてある=大阪大産業科学研究所

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 「スマホでサクサク動画が見られるようになる」「あらゆるものがネットにつながる」。

 そんな次世代通信技術「5G」が注目されている。商用サービスが国内外で2020年にも本格化するが、これまで以上に大量の情報が通信網を行き交うことになるだけに、情報漏洩(ろうえい)の不安も大きくなる。

 そこで、安全性が高い通信方法として期待されるのが「量子通信」。原子や分子といったミクロの世界を支配する「量子力学」の原理を使う方式だ。光の粒の一つひとつに情報を載せて通信する。

 現在、通信網を行き交う情報は暗号化されているが、スパコンをはるかに超える性能を持つ「量子コンピューター」に代表されるような、暗号を破れる技術が現れる可能性が高い。

 なぜ、量子通信は安全なのか。大阪大産業科学研究所の大岩顕教授は「光の粒に載せた情報は原理的に解読不可能。読み取ろうとした瞬間に情報は消えてしまう」と説明する。

 ただ、実用化に向けた技術的なハードルは高い。その一つが「中継器」の開発だ。

 ネット回線に使う光ファイバーには、光を増幅して遠くに伝える中継器が一定間隔で用意されている。情報を伝える光は、長い距離を進むうちに弱まるからだ。

 だが、量子通信では、光の粒に載せた情報を増幅できない。そこで、大岩さんは情報をいったん、電子の粒に載せ替えて通信距離を伸ばすことを研究している。量子通信の通信距離は200キロ程度まで実証されているが、ほかにも多くの課題があり、米欧中を中心に基礎研究が続く。

 「実用化まで先は長いが、情報通信の安全の観点では量子コンピューターより先に、量子通信とそのネットワーク化を実現させる必要がある。そうでないと社会の混乱が避けられませんから」と大岩さん。「矛」より、まずは「盾」の開発を、というわけだ。(嘉幡久敬)