以前にもこの連載で書いた通り、ニューヨークのブルックリンに住むようになって4年がたつ。最初の2年半くらいは、会話も成り立たなくて、友達も全然いなかった。毎日、早朝に起きて、仕事に行き、深夜に帰宅。週末は家族とだけ過ごすような日々だった。

3年目くらいから、少しずつ自分の考えを話せるようになった。日常会話ができるようになってくると、俄然生活がおもしろくなってきた。ちょうど子どもも成長して、学校へ通うようになり、朝学校へ送った後、数時間自分だけの時間というものができるようになると「行きつけ」と呼べる場所がほしくなった。

今、俺の行きつけは自宅から10分ほど歩いたところにあるレコードショップだ(ごめんなさい。店名は教えたくない!どうしても知りたい人はインスタからメッセージください@dagforce_y0)。周囲には駅もランドマーク的なものもない、少し不便な場所にあるそのお店は、地元の人やレコード好きがチラホラくる程度の、いわゆる穴場だ。

元デザイナーでレコードコレクターの夫婦が営むお店らしく、棚や壁には厳選されたレコードが並び、こだわりのオーディオ機器に繋がれたスピーカーからは、いつもセンスのいい素敵な音楽が流れている。通りに面した入り口部分には、とても大きなガラス窓があり、朝の心地よい光が、店の中ほどまで差し込んでいる。店内は、天高が3メートルほどあり、奥行きは20メートルほどある。黒く塗られた天井とは対象に、スペース全体を白壁が囲み、幾つかの観葉植物おかれている雰囲気のいいお店だ。

レコードショップだけど、俺が購入するのはもっぱらコーヒーとチョコチップクッキーだ。

ある日、俺は店主のブライアンに、築地の吉野家で見かけた“店員と客”の話をした。俺が牛丼を食べていると、別の客が店に入って来て、席に着いた。しばらくすると、つゆぬき・ねぎだくの牛丼が客の前に出てきた。その間、客と店員は何も会話しなかった。ドラマの居酒屋シーンで見るような「大将、いつもの!」すらもなかった。

「ブライアン、そういう客を日本では“JOREN”と言うんだ」

そのエピソードを話してからというもの、俺がお店に行くと黙っていても、ブライアンがコーヒーとチョコチップクッキーを出してくれるようになった。毎回、小さな声で「JOREN」と呟きながら。

以来、俺はニューヨークに自分の居場所ができたと感じて、とってもうれしい気持ちになった。息子の学校からも1ブロックの距離なので、週に2日朝9時に学校に送ってから迎えに行くまでの3時間ほどの間、そのレコードショップで過ごすようになった。

窓際のベンチに腰掛け、ゆっくりとコーヒーを飲み、チョコチップクッキーを食べ始めると、脳の扉が開いたかのように、ワクワクしながらポジティブでおもしろいアイデアが湧いてくる。で、ワクワクがとまらなくなって、ノートに書きだす。日常の中でどんなことがあっても、なぜか全部吹っ飛んで気持ちがリセットされる。そんな時間は、俺にとって一番重要な“何か”を補給してくれる。

いつもありがとう、明日も行きます。

Have a nice time!

DAG FORCE/Rapper

1985年生まれ。NYブルックリン在住のラッパー。一児の父。飛騨高山出身身長178cm。趣味は、音楽、旅、食べること、森林浴。 NY音楽生活の中で気付いた日々是ポジティブなメッセージを伝えていきたい。

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