大石内蔵助が遺した『預置候金銀請払帳』という史料等をもとに、赤穂藩のお金の流れを読み解く(※画像はイメージ)

写真拡大 (全2枚)

 11月22日に公開された「決算!忠臣蔵」は、過去幾度となく映像化されてきた忠臣蔵の中でも異色の一作だ。タイトルからもわかる通り、この映画で徹底的にこだわったのは「お金」。従来の忠臣蔵ではほとんど考慮されていなかったが、「お家取り潰し」=「倒産」ととらえ、また「討ち入り」=「新規プロジェクト」と考えれば、お金の問題は避けて通れないことは自明の理。

 映画の中では、堤真一演じる大石内蔵助が思いもよらぬ出費に頭を悩ませる姿がユーモラスに描かれている。

【画像】豊臣秀吉のすごいプレゼンとは?

 この映画の原作が、山本博文東京大学教授の『「忠臣蔵」の決算書』。同書で山本氏は、大石内蔵助が遺した『預置候金銀請払帳(あずかりおきそうろうきんぎんうけはらいちょう)』という史料等をもとに、赤穂藩のお取り潰しから討ち入りまでのお金の流れを読み解いている。

大石内蔵助が遺した『預置候金銀請払帳』という史料等をもとに、赤穂藩のお金の流れを読み解く(※画像はイメージ)

「この史料は、神奈川県箱根町にある箱根神社に所蔵されているものであるが、討ち入りまでに使用された経費『総額697両』の個別の使途内容とその金額が記されているという非常に貴重なものである。

 そもそも同史料は、四十七士を率いた大石内蔵助が、討ち入り直前に亡君浅野内匠頭(たくみのかみ)の正室瑤泉院(ようぜんいん)へ向けて提出した、いわば討ち入り計画の『決算書』とも言うべき位置づけの文書であったことが、他の史料から裏付けられる」(同書より。以下引用はすべて同じ)

 記述は実に細かい。

忠義だけでは首は取れない! 討ち入り費用総額「700両」(約8400万円)一級史料で読み解く、歴史的大事件の深層。『「忠臣蔵」の決算書』山本博文[著]新潮社

「長刀(1本) 金1両(約12万円)」「1カ月の飲食費(1人分) 金2分(約6万円)」「潜伏先の家賃(4人住まい) 銀24匁(約5万円)」「江戸・上方間の旅費(片道) 金3両 (約36万円)」「同志の薬代(朝鮮人参代) 金2分(約6万円)」等々。

 この几帳面さのおかげで、現代の我々でもこのプロジェクトのコスト面を知ることができ、また映画を楽しめるというわけだ。

 映画ではこうした出費を原作本に忠実に描いているが、では大石は何に一番お金を使ったのか。山本氏は、本の中で軍資金の使途内訳を次のようにまとめている。%は全体に占める割合である。

「仏事費        127両3分  18.4%
 御家再興工作費     65両1分   9.4%
 江戸屋敷購入費   70両     10.1%
 旅費・江戸逗留費 248両     35.6%
 会議通信費     11両      1.6%
 生活補助費    132両1分   19.0%
 討ち入り装備費   12両      1.7%
 その他       31両1分2朱  4.2%」

 仏事費は、浅野内匠頭の供養のためのものである。また、御家再興工作費は、赤穂の遠林寺の僧侶を江戸に送り込んだ費用など。この二つの合計で27%を超えている。

「つまり、全く初期の段階で、軍資金の4分の1以上を使ったのである。

 次に必要となったのは、江戸の同志の暴発を抑えるために、上方の同志たちを江戸へ送る旅費や江戸の逗留費である。さらに、江戸の拠点として屋敷を芝に購入するために70両もの大金を使い、討ち入り計画以前に、6割以上のお金が消えた」

 予算の多くは、日々の生活を維持するためや、通信費、交通費に使われたことになる。このあたりの事情は実は現代ともよく似ているといえるかもしれない。自衛隊でも予算の半分近くは人件費等だとされている。

 史料からは、はやる同志たちをなだめつつ、浪人となった彼らの生活も支援しなければならない内蔵助の苦悩や叫びのようなものまで伝わってくるようだ。

 映画のコピー、「討ち入り、やめとこか!」はまさに彼の本音だったのかもしれない。

デイリー新潮編集部

2019年12月4日 掲載