センセーショナルなタイトルに思いを巡らせてしまう映画『“隠れビッチ”やってました。』は、女優・佐久間由衣の魅力がいかんなく詰まった1作だ。劇中、主人公を演じた佐久間は、喉の奥が見えそうなほど大きな口を開けて笑い、泣き叫び、酔いつぶれ、ときに鼻さえほじる。そんな佐久間について、共演の森山未來はインタビューで「エネルギーがすごく瑞々しかった」と優しく評した。

イラストレーター・あらいぴろよの同名コミックエッセイを映画化した『“隠れビッチ”やってました。』は、清楚に見せながら計画的に男を次々に落としていく荒井ひろみ(佐久間)が、図らずも本物の恋に落ちてしまい自分自身と向き合うことになる成長を描いた物語。森山は、ひろみの職場の上司・三沢光昭役で、失恋した彼女の話を聞いているうちに、いつしか上司と部下以上の関係に踏み込んでいく男となった。

佐久間と森山に、初共演の感想からリアル“隠れビッチ”的な女性についてまで、とことん話してもらった。

――ひろみは、承認欲求が非常に強い女の子です。見事に演じられていた佐久間さん、一筋縄ではいかなかったのではないでしょうか?

佐久間 最初、お話をいただいたときは、タイトルの「ビッチ」というワードがかなり強烈だったので、台本を開くのにドキドキしていました。でも、読んでみたら「ビッチ」から受ける言葉の激しさというよりも、心情の激しさがある子だったので、挑戦してみたいと思ったんです。いざ現場に入ったら、すごく楽しかったんですけど、思っていたよりも大変でした。

森山 由衣ちゃんみたいな人が、今回の映画では……それこそね、いっぱい走ったり叫んだり、怒ったり笑ったり泣いたりとか、喜怒哀楽もアクションも激しかったよね。でも、本当にこのテンションで、3年の間に600人もフッていたらマジでやばいですよ。

佐久間 (笑)。

森山 そのポテンシャルが映画の中にあったから、それが怖かったです、僕は(笑)。

――森山さんは、一見普通そうに見えるけれど実は普通ではないような三沢を、三木監督に熱望され、演じられました。

森山 ありがたいですね。ひろみは男を手玉にとっていって、好きになった安藤(小関裕太)との恋が終わったあたりで三沢と親密になっていく。三沢とはいわゆるゲームみたいなことは起こらなくて、そこには理由があるだろうなと。それと同時に、最初に脚本を読んだとき、三沢も何かしらの問題を抱えているんだろうなと思ったんです。ひろみとの共依存的な関係性を感じました。なので、ただただひろみに痛めつけられている存在ではなくて、彼自身もそういう存在と対峙することを求めてしまう人なんだろうなあ、と。

――後半のひろみと三沢との関係は、程度の差こそあれ、まさに「共依存」の表現がしっくりきます。

森山 ひろみに関わらず、誰しもがやっぱり持っていると思うんです。これだけ複雑な人間社会で生きていて、1つのキャラクターだけでは生ききれない。それは仕事をするにしても、家族と関わるにしても、恋人と関わるにしても、ある程度、相手によって自分自身の角度を変えていく。言い回し、態度、表情など、細かなことを変化させながら生きているからこそ、この人間社会が成立しているんじゃないかな。

ひろみの場合は、彼女自身のトラウマの中で、極端にその振り切ったアプローチになっているというか、端的にいうと依存症ですよね。ひろみにとっての男性に限らず、ギャンブルであれ、お酒であれ、ドラッグであれ、依存症になったときに出る脳の物質って、どれに対しても同じようなものが分泌されると聞いたことがあります。

――佐久間さんご自身は、ひろみをどう見ていたんですか?

佐久間 未來さんもおっしゃっていたみたいに、ドキドキすることとか、買い物嗜癖でもそうだと思うんです。エモーションが女の人は特に強いので……ひろみって、隠れビッチをやっていた頃は、楽しかったと思うんです。そのときは。シェアハウスで暮らしているコジや彩がいくら忠告してくれても、その声は聞こえなくて。いざいろいろなことを経て、三沢さんと出会い、ひとつのものに依存したときに、「あれ?」と自分の本質に向き合うことになるんですよね。私はひろみのことを、このままじゃダメだから変わりたいとも思うだろうし、でも時間はかかるのかな、と受け止めていました。

森山 ひろみは、男性に「好き」と言わせるまでのプロセスをアドレナリンを出して楽しんで、「好き」と言われた瞬間に、ゲームに勝利する。そして、その後に「振る」ということを自分の生きる糧にしているわけで。現実にも、振る舞いとして八方美人的な意味で「ビッチだね」っていう人、見ていたら大体わかるよね?

佐久間 わかりますね。

――密かに共感できる女性が多いから、成り立つ映画だとも思います。

森山 そう思いますよね。

佐久間 思います。私、このお仕事をしているのが理由かはわからないんですけど、人のこと、「きっと本質はこうだろうな」と見えてしまう癖というか。人と向き合うだけで観察もするし、コミュニケーションを取っていくうちに、近くにいたら気付くと思います。

森山 でも逆に、隠さないで「ビッチだな」と言われる人も面白かったりしない? 今日び、どんどんいなくなっている気がする。“隠れ”が多いから、周りにどう思われても「私はこうありたい」、「俺はこうありたい」という人のほうが、迷惑かもしれないけど、人間のアクみたいなものが濃くて良いと思うけどなぁ。得るものも失うものも多いだろうから、そのリスクを背負っていく感じが、僕は魅力的だなと思いますけどね。

――恋愛対象的な意味で“隠れビッチ”がいてアプローチされても、森山さんは見抜くのでまったく引っ掛からないですか?

森山 どうなんでしょう。 気づかないうちに、引っ掛かっているんじゃないですかね。わかんないですけど、まあ、そんな簡単に手に入るって、そもそもあんまり思ってないかな。

――初共演となりましたが、お芝居をしてみての印象はいかがでしたか? 先ほど森山さんから、佐久間さんが本気で“隠れビッチ”だったらやばい、みたいなお話もありましたが。

森山 由衣ちゃんはとにかく真面目というか、本当に笑顔が素敵だし、この人がマジでビッチなのかって……。

佐久間 ええー(笑)。

森山 思ってない、思ってないよ(笑)。でも、その真っすぐさが、後半にくる暴力的な瞬間や、感情がこじれていく過程にも、より痛々しく反映されていくのかなと。ハナから何か抱えているというよりも、ストレートにそういう感情が「今こう出ている」というのが由衣ちゃんからすごく感じられたので。三木さんが引っ張っていったのもあると思うんですけど、そのエネルギーがすごく瑞々しかったですね。

佐久間 三木監督は、映画で観たときに、映像でわからなかったら「わからない」とされる方だったので、とにかく「思っているだけじゃダメなんだ」というのはすごく言われていたんです。「思っているのは当たり前、伝えるためにどう表現するのかを、もうちょっと考えろ!」と、厳しく言われていたので。

森山 これは個人的な感想だけど、俺は、変化しなくても全然良かったと思った。どういう順序で撮っていったかは知らないですけど、冒頭から「このナチュラルさで、ひろみがどんどん壊れていったら面白いだろうな〜」と思いながら見てた。別に三木さんを批判しているわけではなくて、単純に僕が想像しただけですよ。由衣ちゃんの元々のプレーンな感じが活きるようにというか、ナチュラルで本当に“ビッチ”とも気付けないような所謂“隠れビッチ”な人が、ナチュラルなままにすごく上手に、いろいろなことを駆使しながら最終的に壊れていったら「マジこえーな」と勝手に思っていました。

――佐久間さんは、森山さんとご一緒してみていかがでしたか?

佐久間 未來さんとお芝居させていただくシーンは、死ぬほど緊張していました。このお仕事をさせていただいてから、一番、共演して緊張する方でした。たくさん空回りもしましたし、出来なかったこともいっぱいあるので、後悔はしていませんが、反省点はいっぱいあって。いざ「撮影、始まります」となるときに、もうガクガクで。本当に緊張してお芝居していたなと、今でも思い出せるぐらい感覚として残っています。

森山 何にもしてないのになぁ(笑)。

佐久間 たぶん私が勝手に「緊張感を持ってやらなきゃ」と思ったんだと思うんです。それと、今まで様々な映画、舞台など出ていらっしゃる作品をずっと拝見していて、生き方がお顔立ちに出ていらっしゃるなと思っていて、実は、まじまじと観察もしていました。

――緊張しながらも、観察して、何かを吸収されたりしましたか?

佐久間 それしかなかったです。これまで、未來さん自身が「発信する」役柄が多い気がしていて、今回はひたすら受け身に徹されていました。三木さんにも、未來さんのことを「たくさん観察しな」、「いろんなこと、自分の中からやってみな」とずっと言われていたので、何をやっても受けてくださいました。本当に貴重な時間でした。(取材・文=赤山恭子、撮影=iwa)

映画『“隠れビッチ”やってました。』は、2019年12月6日(金)より全国ロードショー。

出演:佐久間由衣、村上虹郎、大後寿々花、小関裕太、森山未來 ほか
監督・脚本:三木康一郎
原作:あらいぴろよ
公式サイト:kakurebitch.jp