『ヒマつぶしの作法』(東海林さだお/SBクリエイティブ)

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 NHKのチコちゃんは、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と言いますが、はたしてボーっと生きることはいけないことなのでしょうか? 「退屈な時間をムダに過ごしてこそ毎日は楽しい!」「人生なんて長い長いヒマつぶし」をテーマに掲げる1冊が、『ヒマつぶしの作法』(東海林さだお/SBクリエイティブ)。東海林さだお氏は、40年超のロングランである『タンマ君』や「丸かじり」シリーズなどで知られる漫画家、エッセイスト。本書は、作家活動60年分の単行本・文庫本収録の作品から、作家活動60周年記念として「ヒマつぶし」をテーマに選りすぐりを再編集し、いとうせいこうさんとの対談を収録したものです。

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■ルンバを眺めるだけでも十分時間つぶしできる!

 東海林さん並みに、「ヒマつぶしに精通している」というのが、タレント、ミュージシャン、作家として活躍する、いとうせいこうさん。いとうさんは、「ベランダー」と名乗り、ベランダで行う自由な「植物生活」を探求しています。

 この2人の共通のヒマつぶしは、「ルンバの物語を妄想するヒマつぶし」。「ルンバは人の心をつかむ何かがある」と語るいとうさん。「観察しているだけで時間が過ぎちゃう」と返す東海林さん。見ていないときにサボっている「ズルンバ」があればいいのにと盛り上がります。

 会社勤めの経験がないという東海林さんは、部下としてルンバを採用しようと考えたそう。6万円以上という価格は、「初任給として考えると高いが、昇級はないので終身給与額と考えれば安い」と判断。ルンバは明るい性格のようで一安心したものの、部下をどう見守ればよいのか、厳しく指導するべきかと、機械相手に思惑やら策謀やらメンツやら沽券やらで、妄想だけでヘトヘトに…。

■社交の訓練のために「社交ダンス」に挑んだものの

 社交は苦手という東海林さん。道でバッタリ知人に会うだけでも動揺するのに、「いいお天気ですね」と天候問題まで出されると、さらにうろたえてしまうそう。じゃあ社交の訓練をしようと思い立ち、社交といえば…という発想から「社交ダンス」に挑戦!

 美人でミニスカートの先生にドギマギしつつ、肝心の社交のレッスンの成果は? というと、ホールの周りを7周したものの、「どお?」と自分から女性に手を差し出すことはできなかったそうです。

■ふと思い出したことをしたためる「ど忘れ書道」でヒマつぶし

 ど忘れしたことを、思い出したときに筆ペンでスケッチブックに書くのがいとうせいこうさんの趣味だそうです。思い出せた喜びを込めて言葉を添えて書くそうですが、いとうさんが一番盛り上がったのが「ジョン・健・ヌッツォ」と書いたとき。

「オペラ歌手です。特に興味はないんです。でも興味がないのに書いているこの清らかな透明感。お金もかからない」

 単なるど忘れとそれを思い出すことが趣味という、「何の役にも“立たせない”純粋趣味」を楽しんでいることを、東海林さんは称賛します。

 寅さんに出てきそうな旅館に泊まってみる、深川発ではとバス観光の旅、コインランドリーで洗濯、温泉の素で豪遊する――など、何気ないものごとを思いもよらない角度から観察し、楽しみを見出す東海林さんならではの「ヒマつぶし」を、おなじみのイラスト付きで楽しめる本書。自分もヒマつぶし用の趣味が欲しい? そんな人のために「あなたの趣味を考えてあげます教室はどうかな?」――東海林さんのヒマつぶしアイデアは尽きません。

文=泉ゆりこ