既存店売り上げのマイナスが続く「いきなり!ステーキ」。運営会社ペッパーフードサービスの業績も厳しい状況だ(記者撮影)

急拡大から一転、“急ブレーキ”がかかっている――。

2013年12月の初出店以来、分厚いステーキを立ち食いするスタイルが人気で急拡大してきた「いきなり!ステーキ」。肉をオーダーカットするスタイルを武器に、高い原価率ながら、狭い店舗で顧客の回転数を上げることで、利益を確保するビジネスモデルで成長を続けてきた。

肉ブームに乗り、2017年ごろにはバブルとも言えるほどには行列を作る姿が都心のあちこちで見かけられた。運営会社であるペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長は「回転寿司のように『いきなり!ステーキ』も文化になる」と公言し、郊外のロードサイドにも数多く出店した。

実際、2014年末に30店だった店舗数は、国内外で2015年末に77店、2016年末に115店、2017年末に188店、2018年末に397店と急速に拡大。2018年11月には全都道府県への出店を達成した。飽くなき出店意欲は日本にとどまらず、2017年2月にはアメリカに進出し、2018年9月に現地のナスダックに上場も果たした。

直近10月は既存店売上高が41%減

破竹の勢いで成長を続けてきたいきなり!ステーキだったが、現在はその行く末に黄色信号が灯っている。


2018年4月に前年同月比でマイナスに転じた既存店売上高はその後も右肩下がりを続け、2019年10月には前年同月比41.4%減にまで至った(上図)。2018年のときに、すでに既存店売上高は前年を下回って推移していたことから、2019年の既存店動向は非常に厳しいと言える。

既存店売上高の急激な悪化に伴い、ペッパーフードサービスでは期初計画の目算が大きく外れ、業績が急速に悪化している。

2019年2月に発表された2019年12月期の当初の計画では、売上高が935億円(前期比47.3%増)、営業利益55.9億円(同44.8%増)と、大幅な増収増益を見込んでいた。それが第3四半期決算を発表した2019年11月には、売上高は665億円(前期比4.8%増)、営業損益に至っては7.3億円の赤字(前期は38.6億円の黒字)に転落する見通しを発表した。


出店スピードも失速している。当初は2019年に210店を出店する計画だったが、2019年8月時点で出店計画を115に縮小。2019年10月時点で、いきなり!ステーキは国内で487店舗にとどまっている。

2017年に進出したアメリカでの事業も失敗し、2019年に11店舗のうち7店舗で退店、2店舗はペッパーランチに業態転換。7月にはナスダックの上場も廃止した。

不十分だった商圏調査

いきなり!ステーキの業績が急降下した大きな原因は大量出店にある。

1つ目は出店を加速するため、出店地域の人口を調査しないなど商圏調査が不十分だった点だ。特に郊外の店舗では、車で来店するため商圏が広いにもかかわらず出店に邁進。家賃が低いため、店舗が近くて問題ないと考えていたが、結果として店舗同士で客を奪い合う事態が発生した。

所得水準が低い地方には高価な価格設定も仇となった。当初は1グラムあたり5円だったリブロースステーキは現在6.9円まで値上がりしている。いきなり!ステーキは300グラム以上を推奨しているが、その場合、ステーキだけで2000円を超えてしまう。結果として割安なランチの時間帯に行く顧客が多く、広い時間帯で顧客を獲得できていない。

肉ブームといきなり!ステーキの好調を背景に、類似業態の出店も増加した。肉業態の中でもステーキ店だけでなく1人焼き肉店などジャンルを変えた店舗も増えており、社内競合と社外の両方で競争は激化する一方だ。

2019年半ばからは出店にブレーキを踏んだものの落ち込みが止まらないのには、顧客の飽きもある。「いきなり!ステーキは回転寿司のように文化になる」と自信を持っていた一瀬社長だが、現在は社内で「2017年と比べて飽きられる、忘れられるのも少なからずある」と話しているという。

値引きキャンペーンを濫発

会社側も手をこまぬいているわけではない。近年は値引きなどキャンペーンを立て続けに実施。2018年9月に300店達成記念、同年10月にナスダック上場記念、2019年2月に400店達成記念、同年3月にも値引きを行った。


直近では創業6周年を記念した割引キャンペーンを実施(記者撮影)

2019年8月には「肉マネー」と呼ばれるいきなり!ステーキで使える通常還元率1〜3%の電子マネーでキャンペーンを実施、10倍のチャージボーナスが付き還元率は10〜30%にものぼった。その後も9月にお客様感謝祭、11月にもメニュー改定記念や6周年記念と銘打った値引きをしている。

しかしこれらの施策は月次動向や業績を見る限り、効果を見せていない。むしろキャンペーンの連発によって、2018年には57.1%だった原価率が2019年1〜9月には58.9%まで上昇(いずれも全社ベース)。原価率だけでなく店舗数増加による従業員数の増加を受け、2019年1〜9月の増収額は前年同期比で68億円にもかかわらず、同期間の販管費は前年同期比で44億円も増加した。

これまでいきなり!ステーキの退店はほぼ行ってこなかったが、一向に売上高が上向かない状況を受け、2019年11月には社内競合を解消するために2019年末から2020年にかけて赤字や赤字すれすれの44店舗を閉店すると発表した。

ただ、特に業績が悪いと言われるロードサイド店だけでなく、路面店や商業施設内の店舗も一定程度含まれる。加えて今回閉店が正式に決まった44店舗は、契約の都合上早期に退店可能というだけであり、今後も赤字店舗の閉店が続く可能性は十分高い。

手探りの状況が続く

直近では2019年11月から、ディナータイム時の定量カットを始めた。以前のディナータイムでは、顧客がカット場に行ってグラム単位で注文するスタイルだった。ただ300グラムでいくらとメニューで価格が明示されることで、顧客が懐事情と突き合わせやすくなり注文のハードルを下げると見込む。


ペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長。2019年3月から、一瀬社長自らが出演するTVCMの放映も開始するなど、販促に力を入れてきたが、厳しい状況が続いている(撮影:尾形文繁)

また、いきなり!ステーキの急失速を受け運営会社のペッパーフードサービスが代わりに注力し始めたのが、「ビーフペッパーライス」を看板メニューとする低価格ステーキ店ペッパーランチだ。2018年の1年間では17出店していたが、2019年には11月までで出店数が32まで増加している。いきなり!ステーキからの業態転換も一部で行われている。

あの手この手でいきなり!ステーキの業績改善を図るペッパーフードサービスだが、手探りの状況が続いている。打開策が見つかるまでには時間がかかりそうだ。