2014年、ある防犯カメラ映像が警察により公開された。
ヒョウ柄の帽子に長い髪…この映像に映っている女は、ある事件の容疑者。

当時世間を騒がせた連続こん睡強盗犯。
声優アイコと名乗った人物…その衝撃の事件とは?

2013年10月。
その女はなぜか、駅に1人でいた。

話しかけてきた47歳の男性に「飲み足りない」といい、一緒に居酒屋へ。
自分は声優で、名前は「アイコ」だと言い…男性を誘惑した。

まんまと声優アイコの罠にハマった男性。
ホテルに向かう途中、アイコは突然栄養ドリンクを男性に手渡した。
すると、ホテルに着くなり…栄養ドリンクを飲んだ男性は眠った。

ドリンクには睡眠薬が入っていた。
翌朝、男性が目を覚ますと…女の姿はない。
そして眠っている間に、現金や時計などがなくなっていた。

実は同様の手口による被害が都内各所で十数件にものぼっていた。
被害者たちは共通する名前を口にしていた…それが『声優のアイコ』。
そう!あの女が盗んだのだ。

時には男性の自宅にあがりこみ、同様の手口で男性をこん睡状態にして盗みをはたらく。
その被害総額は275万円以上。

一方、手の込んだ犯行とは裏腹に被害男性と一緒に寄ったコンビニの防犯カメラ映像や被害者宅に残されたDNAなどから女はいとも簡単に逮捕された。

そして…その女の正体に日本中が驚くことに!
女の名は「神(じん)いっき」。彼女の映像が残っている。

短髪に低い声…その姿は男性のようだった。
実は神、自分の性別に違和感を覚え普段は男性として生活していたのだ。

そんな神は、男性の姿で映画に出演もしている。
男の心を持つ女がカツラなどで変装し男性を騙す。
そして自分を『声優アイコ』と名乗る。
その異様な犯人像にメディアもこぞって取り上げた。

単純な裁判のはずが…予想外の展開に!

そして裁判が始まった。
動機や奪った金品について明らかにする単純なもの…のはずだった。
ところが…頭を丸めて裁判に臨んだ神は…思いもよらぬ発言をする!

なんと映像やDNAなど決定的な証拠がある中、容疑を否認したのだ。
その後の裁判でも動機はおろか“事件自体の記憶がない”と主張し続けた。
一体…神は何をしようとしているのか?

そして、第4回公判。
ついにとんでもないことが起こる。

裁判官が神に名前を聞くと…こう答えた。

神『人間!僕ゲンキ!!』

その場にいた誰もが何が起きたのかわからなかった。
幼い子どものような話し方で、神は自分をゲンキと名乗った。

裁判官が生年月日を聞くと…。
幼い子どものような話し方のまま神は4月と答えた。

神の誕生日は12月27日…ふざけているのか?
結局、裁判は5分で閉廷した。その時!!

神『お兄ちゃんは悪くありません!』

突然の雄たけび…意味不明だった。
そしてこの出来事は裁判に大きな影響を与えることとなる。

第5回公判。神は意外な発言をする。
なんと、今度は罪を認めたのだ。そして…驚きの発言をした。

神『記憶はないのですが…僕そっくりの防犯カメラの映像など証拠があり…だから他の人格が犯行を行ってしまったことだと…』

他の人格とは?一体何を言っているのか?

犯人は解離性同一性障害だった

もし神が言っていることが本当だとしたら…それは「解離性同一性障害」と呼ばれるもの。
以前は「多重人格障害」といわれていた症状。
1人の人物の中に、複数の異なる感情や意識をもった人格が存在している状態。

その原因は過度な心や身体のストレスによるものとされ、幼少期に心に傷を負った体験などから、知らず知らずのうちに、別の人格が形成されることが多いという。
神にもそんなことがあったのだろうか?

1983年に生まれた神。
神の証言によれば、小学生の頃から自分の性別に対し違和感を覚えていたという。

一方、その頃から家では父親からの虐待もあったと証言していて、自己防衛として
別人格が現れた可能性もある、という専門家もいる。

中学生で女性物の服を嫌がるようになり、髪も短髪に。
そして、20代の時に「自分の心は男だ」と明確に認識したという。

その後「性同一性障害」との診断を受け、2010年に乳腺を切除。
翌年、“いっき”と改名もしている。

男性として生きようとしていた神。
そんな状況から弁護団は別人格で行われた犯行ならば責任を問えないのでは?と主張したのだ。

こうして単純だと思われていた声優アイコ事件は複雑になっていく…。

この証言を受け、神の精神鑑定が行われた。
すると神は何かに集中するようにゆっくり目を瞑ると…子どものようになった!
それは、それまでの神とは全く違う態度だったという。

子どもの状態になった神は自分を『ゲンキ』と名乗った。
『ゲンキ』によると神の中には主人格の神以外にゲンキを含め3つの人格が存在するという。

1人は『ゲンキ』という4歳の少年の人格。
もう1人は男性の人格。
そして3人目は、女性の人格。

この女性の人格こそ「声優アイコ」と名乗り、事件を起こした犯人だというのだ。
そして弁護側の鑑定医は神を「解離性同一性障害」と診断。
事件についても別人格によるものと証言した。

1人の人間の中にある、複数の人格…一体どんな状態なのか?

10人の人格を持つ人物に取材

仰天ニュースはある人物に会った。
都内に住むharuさん。

実はharuさん、自身が解離性同一性障害であるとSNSで公表し、話題となっている人物。
なんと10人もの別人格が存在しているという。

主人格のharuさんのほかに「洋祐」、仕事中に出てくる「圭一」や女の子の「結衣」、
モチモチしたものが好きな「灯真」に数学が好きな「悟」、飛行機が好きな「はると」など、様々な人格がharuさんの中に存在している。

スタッフの取材の間にも様々な人格が現れた。
しかしそのどれもしゃべり方もしぐさも違う。

そしてこんなことも…主人格のharuさんはそれほどピアノが弾けなかったが、ピアノが得意な灯真の人格が出るといとも簡単に弾く。

その人格によって能力にも差があるという。
haruさんはもちろん、多くの解離性同一性障害と診断された人が犯罪に走る事などない。

そして、この症状について本人は…
「誤解の無いように広めていけたら嬉しいが、そういう病気もあるんだな、くらいに思ってもらえたらいい」と語っている。

裁判を動かした「ある矛盾」

一方で、裁判で多重人格を主張した神いっき。
こん睡強盗は、別人格によるものなのか?
もし、犯行が別人格によるものだった場合、法律はどう裁くのか?

そんな中、裁判所が呼んだもう1人の鑑定医はあくまで神に“別人格が存在する可能性”は認めつつも、犯行時に関しては神本人の人格で行ったと判断したのだ。

それには裏付けがあった。

2014年2月。
この日、声優アイコによる6件目の事件が起きていた。

夜11時頃出会った2人。
その時の被害者は20代で35万円分の金品を奪われている。

この事件について神はこう説明している。
事件があったこの日、神は1人で出かけた。

そのワケは…事件の一週間前。
SNSを通じて仲良くなった友人から「東京に転勤する」とメールがきていた。

神は、その友人と食事する店を探していたという。
その後、神は1人で飲み…見知らぬ人たちと意気投合。

そのうち眠ってしまい、明け方に目を覚ました時にはなぜか歩道橋の上にいたという。
その間の記憶はない…と証言していた。

つまり、神が眠りにつき、声優アイコに人格が交代。
神の意識がないまま、女性物の衣装に着替え、こん睡強盗を実行。

その後、元々神の着ていた服に着替え歩道橋で人格が戻り、神は意識を取り戻したという。
しかし!とんでもない矛盾が発覚する。

それは事件当日の神のSNSの記録だった。
なんと、夜11時以降に主人格・神いっきとしてあのSNSでの友人とメッセージのやり取りをしていたのだ!

そう!それは声優アイコの人格だったはずの時間!!
さらに被害者の男性に、神がやりとりしていた友人の話をしていたのだ!
それは「別人格」による犯行だから記憶にないと、主張する神にとって大きな矛盾点だった。

両鑑定医とも神自身に解離性同一性障害の可能性はあるとしたものの、
犯行時においては神本人の人格で行ったものと裁判所は判断し、責任能力があると結論付けられた。

そして2017年4月28日、懲役10年の判決が言い渡された。