真っ暗のなか練習から引き上げる大会3日目の鈴木愛(撮影:村上航)

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最終戦までもつれこんだ賞金女王争いは、鈴木愛が2017年以来となる2度目の戴冠で幕を閉じた。大きなプレッシャーがかかり、弱音、愚痴、いら立ちが募り、さらには様々な感情があふれるなか、これらを隠すことなく鈴木は偉業達成に立ち向かった。
渋野日向子の低く出すアイアンショット【特別動画】
一方、最終的には逆転ならず大会、賞金ランキングともに2位に終わった渋野日向子は、「女王はまったく考えていない」というスタンスをとり続けた。前週の劇的な優勝で1度潰えたかに見えた女王の可能性を再度引き寄せたが、最後は無欲で挑み、清々しい姿で女王に屈した。
そんな2人の対照的な思いが、同組で直接ぶつかり合うことはなかったが、大会2日目そして3日目と、冷え込んだ夕方の練習グリーンで見た光景はこれからも忘れないと思う。女王をかけた2人が、最後の最後までパッティング練習を繰り返し、真っ暗になるまで球を転がし続けていた。
言葉を交わすことはなく、互いの練習に没頭。無言でたがいの意地をぶつけ合う姿は見ているものの心を奪った。いずれの日も鈴木が最後の1人となり、クラブハウスのライトに照らされ帰路につく鈴木の姿にはグッときた。
上位選手はスタート時間が遅いため、ホールアウト時はすでに夕方のケースが多い。そこからすぐに練習を始めても、暗くなるのが早いため十分な時間があるとはいえない。ところが今回の鈴木は、比較的早めのホールアウト後、食事をとって先に体のケアを行い、ショット練習ののち、渋野がすでにパッティングを行っている練習グリーンへと向かった。
渋野は連日最終組の1つ前の組からスタート。ホールアウトも夕方で、練習開始はその直後。ショット練習、アプローチ練習を行い最後のパッティングドリルに入るが、ちょうどそのタイミングで鈴木が現れるという構図に、関係者や我々報道陣も注目せざるを得なかった。
今回は出場人数も少なく、冬の始まりの季節で日没が早いという要素が重なってのことだったが、この2人はなにも今回に限って遅くまで練習しているわけではない。夏の陽が長い時間でも、雨が降っていても、そして真っ暗になるまで練習に明け暮れる姿をこれまで何度も目にしてきた。
国内ツアーの初優勝がメジャーという点を含め、2人にはいくつか共通点がある。クラブ契約もともにPING。今季は2人とも米ツアーで優勝を飾っている。これはたまたまだろうが、2人とも中四国出身。比べれば比べるほど、共通点が出てくる。圧倒的な練習量で努力を重ねるのはなにも2人だけではないが、ツアー会場での練習量というくくりでいえば、この2人がずば抜けているのは誰の目にも明らか。そんな2人が今季最終戦、最終日前夜に暗闇のなかで練習に暮れる姿に、見ていて、どこか喜びを覚えた。
プレー中の鈴木は、眼光鋭いまなざしでピンを狙う。近寄りがたい雰囲気を感じさせるすごみがあると同時に、プレーが終われば1人の等身大の女子に戻る。ケラケラと笑い、周囲とじゃれ合いながら、柔らかな時を過ごす。そして、日課となっている練習グリーンでの特訓。そんなギャップがおもしろく、いつしかその練習を見届けるのも、こちらの日課になっていた。
夕方は記者にとっては原稿を書かなければいけない時間帯で、もっとも忙しい。それでも、練習の内容をメモし、時間を計り、練習終了後に話しを聞き、クラブハウスを出る選手を見送る。そんなことが鈴木の取材では当たり前となっていった。だからといって、それが記事になるかというと、ほとんどがならない。それでも、プロ根性を見せる鈴木の練習を見るのは、楽しみだった。
昨年あたりからケガの影響などもあり、遅くまで練習を続ける鈴木の姿を見ることは減った。それが怒濤の3連勝で2度目の賞金女王が見えた終盤で、再びその姿が練習グリーンに戻った。寒さが増していく中で、湯気が立っているのではないかと思うような意地のパッティング練習。“努力は裏切らない”を体現するこの姿が、2度目の栄冠に結びついたといっても過言ではない。
そんな鈴木の4歳年下の渋野。プロテスト合格後、初のレギュラーツアー出場となった3月の「ヨコハマタイヤPRGRレディス」練習日には、夕闇のなか黙々とパッティングドリルを行う渋野の姿があった。青木翔コーチから科せられたドリルが終わるまでは帰れない。海風が吹き付ける初春の土佐の練習グリーンで球を転がし続けた。目を細めながらカップインを狙う、すさまじい集中力に驚かされた。
その週、渋野は2日目を終えて首位と3打差の5位タイ。最終日は大山志保、鈴木という歴代女王とのラウンドで終盤こそ崩れたものの、6位タイでフィニッシュした。そのときの優勝は鈴木。ツアールーキーは鈴木に叩きのめされたが、その後の渋野は、ここぞという時に圧倒的な集中力を発揮し、見事にスター街道を駆け上がった。この日のラウンドは、渋野にとって大きな転換点だったように思う。
今季、一躍話題となった“バウンスバック”。以前からゴルフ用語としては存在していたものの、日本でここまで取り上げられたのは始めてだった。それも渋野のど根性魂からくる、ボギー後のバーディというプレースタイルの影響だ。“なにくそ”精神でバーディパットをねじ込み、ボギーを帳消しにする。そんな時の渋野の目は、一点しか見えていないように見える。研ぎ澄まされた集中力と、内に秘めた怒り。これらの結集がバウンスバック率1位という数字に現れた。
笑顔ばかりがフィーチャーされる渋野だが、集中しきっているときの渋野は目を細め、ギャラリーの声援に軽く応えるのみ。視線は次のホールへと向かい、獲物を捕らえる猛獣のような目つきに変わる。そして、ひとたびバーディを奪えば、満面のシブコスマイルでギャラリーを魅了する。そんなドラマがプレー中に何度も訪れるため、観戦する側もいっときも気が抜けず、あっという間に18ホールが終わってしまう。
パーオンホールでの平均パット数1位の鈴木と2位の渋野。獰猛とさえ思える攻めの姿勢でバーディを取り続ける2人。平均バーディ数1位は渋野で、鈴木は3位。ともに見せるアグレッシブな戦いは、見る者の心に深く刻み込まれたが、裏には、いつまでも球を転がし続ける2人の血のにじむような努力があることを忘れてはならない。だからこそ、ミスをすれば感情を表に出し、悔しがるのも当たり前だ。
そんな因縁の2人が奇しくも最後の最後で見せた練習グリーン上での沈黙のぶつかりあい。国内女子ツアーの中心選手として19年を引っ張ってきた2人は、来年もことあるごとに比較されるのは間違いない。軸足を日本に置きながら、ともにメジャーを中心とした海外試合のスポット参戦を増やしていき、8月に行われる東京五輪の代表の座を争うことになるからだ。
日本ツアーナンバー1の鈴木と、ナンバー2の渋野。見応えのあったガチバトルはいったん終焉を迎えたが、2月以降、その戦いはさらに熱を帯びることになる。そんな2人がそろう来年の開幕戦。きっとあっという間に訪れるだろうが、今からワクワクしながら待つとしよう。(文・高桑均)

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