酒のラベルを巡り、著作権バトルを繰り広げていた「八海山」

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 日本酒は麹、水を用いて米を発酵、分解させることで作られるが、左党が手に取るための“外見”も重要だという。酒のラベルを巡り、著作権バトルを繰り広げていたのは「八海山」。お相手は、天皇陛下とも関わりのある著名な篆刻(てんこく)家だった。

【写真】許可されていないバッグ

「夫の芸術作品が勝手に安っぽいものに利用されることが本当に許せないんです」

 そう語気を強めるのは、篆刻家・古川悟氏の妻、香奈枝さん(59)だ。

「夫が作品にかける労力と時間は並大抵のものではありません。それがあんな風に使われるなんて……」

 怒りの矛先は「八海山」の製造で知られる新潟県の老舗、八海醸造株式会社。その概要に触れる前に、まずは古川氏についての説明が必要だろう。

酒のラベルを巡り、著作権バトルを繰り広げていた「八海山」

 古川氏は1929年、新潟県の上越市に生まれた。20代で印章を作成する篆刻に出会い、95年には、当時皇太子だった天皇陛下の蔵書印を手掛ける。他にも田中角栄元総理の雅印や東京大学総長印などで知られ、98年に没するまで、その世界で数々の作品を残した人物である。

 その古川氏が八海醸造の先代、南雲和雄社長と出会ったことが今回のトラブルの発端となった。

 香奈枝さんが続ける。

「79年、夫が知人に紹介され、自家用酒のラベルを作ってくれと言われたのです。また、82年には“良い酒には良いラベルがないと売れない”と言って商業用としてラベルデザインを依頼されました。90年も同様で、それぞれ違う作品を渡しています。いずれも、酒のラベルとして使う約束でした」

古川悟氏

 ところが、古川氏の没後、それらが“酒”以外に使われるようになる。

「現在まで、Tシャツやトートバッグ、お店ののれんや果てはまんじゅうなどに使われていたことが分かりました。私は何度も担当者に“約束と違う”と伝えたのに、はぐらかされるばかりだったのです」

“著作権はない”

 事例は他にもある。2002年には古川氏の代表作である「金剛心」を使いたいと、現在の3代目社長である南雲二郎氏から依頼され、

「その時も同じ条件で日展出品の『金剛心』の控えをお渡ししました。ですが、翌年、実物が送られてきて、驚きました。それには作品を縮小した鑑賞用レプリカがこちらの許可なく付録となっていたのです」

 結局、純米大吟醸「金剛心」として同社から発売されてしまう。

「作品をお渡しする時、一部で金銭などをいただいたこともありますが、勝手な使用が過ぎます。しかも抗議すると、“そちらに著作権はない”という内容証明までが届くのです」

 香奈枝さんの代理人である秋田一惠弁護士は、

「目的を偽り、作品を承諾なく使用している以上、著作権法違反に該当します。今月13日には酒のラベル以外での使用・販売を禁止するための仮処分申立を東京地裁に提出しています」

 さて、当の南雲社長に事の経緯を尋ねると、

「よくわからない。仲良くやっていたつもりだけど」

 作り手に対する軽視が窺われるご見解。Tシャツやトートバッグなど、売り物への使用には謝礼を支払うべきではないか。まさか、著作物も勝手に“分解”していいとお思いなのだろうか。

「週刊新潮」2019年11月28日号 掲載