まだイロイロ、もつれている…/原ゆみこのマドリッド

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「もう本大会の相手も決まるっていうのにね」そんな風に私が呆れていたのは金曜日、ユーロ2020のグループリーグ抽選を明日に控えながら、未だにルイス・エンリケ監督のスペイン代表復帰によるゴタゴタが収まっていないのを見た時のことでした。いえ、11月の予選ではマルタとルーマニアに合わせて12-0の大差で勝利。グループ1位突破、抽選の第1シード権を勝ち取った次の日にはサッカー協会のルビアレス会長が6月に不治の病に侵された3女の看病のため、辞任したルイス・エンリケ監督に代わり、代表監督を務めていたロベール・モレノ監督が退き、前任者が復帰することを発表していたんですけどね。

これまで10年近く、ルイス・エンリケ監督のアシスタントを務めていたロベール・モレノ監督が以前の役割には戻らないことも明らかになったんですが、その時はせいぜい、プロとして意見が合わなくなった程度の解釈で済んでいたものが、この水曜に復帰プレゼンをしたルイス・エンリケ監督がまた、よせばいいのに元部下を個人攻撃。ええ、8月29日に娘さんが亡くなった後、9月12日に自宅を訪れたロベール・モレノ監督から、「percibo que quiere hacer la Eurocopa, y que después, si yo quiero, volverá a ser mi segundo/ペルシーボ・ケ・キエレ・アセール・ラ・エウロコパ、イ・デスプエス、シー・ジョ・キエロ、ボルベリア・セル・ミ・セグント(彼がユーロで指揮を執り、その後、もし自分が望めば、第2監督に戻るつもりでいるというのを感じとった)」のだとか。

それを「desleal(デスレアル/不誠実)」と見なし、「La ambición desmedida/ラ・アンビシオン・デスメディーダ(度を超えた野心)」を持った人間にはいてもらいたくないと今回、ユーロに臨むコーチングスタッフから外した理由を話したんですが、木曜にはロベール・モレノ監督が記者会見を実施。こちらの言い分は「戻る気になったら、自分は席を譲ると告げるのが正しいと思って言ったところ、『Me parece perfecto, pero ya no cuento contigo; con el resto del staff sí/メ・パレセ・ペルフェクト、ペロ・ジャー・ノー・クエント・コンティーゴ、コン・エルレスト・デル・スタッフ・シー(完璧だと思うが、私はもう君を当てにしない。他のスタッフは続ける)』と返答され、大ショックを受けた」というもの。

いやあ、2人っきりの会談ですから、水掛け論になるのは当然で、協会とユーロ大会までの契約を結んでいたロベール・モレノ監督ですし、大事なお子さんを失くして1カ月も経たないうちに、ルイス・エンリケ監督が復帰する気になっているとは夢にも思わなかったでしょうし、それがちょっと態度に出ちゃったのかもしれませんけどね。そこをまたルイス・エンリケ監督が深読みしすぎてしまい、極端な結論に至ったのかもしれませんが、まあ部外者が推測できるのはその程度。何はともあれ、今はブカレストでの抽選会でフランスやポルトガルといった強国と同組にならず、アイルランンドが3月のプレーオフに回ったおかげで、3試合ともサン・マメス(アスレティックのホーム)で開催されることになったグループリーグをヒヤヒヤせずに楽しめるようになるといいんですが。

え、それより今週はCLとELのグループリーグ5節もあったんだろうって?その通りで火曜にはマドリッドの2強が試合に挑んだんですが、例のごとく、私はサンティアゴ・ベルナベウのスタンドでレアル・マドリーvsPSG戦を眺めながら、何せ、早い時間帯にあった同グループのガラタサライvsクラブ・ブルージュ戦が1-1の引き分けに終わったため、キックオフ前にマドリーの2位突破が決定したという事情もありましたしね。むしろロコモティブ・モスクワに0-2と勝ったレバークーゼンに勝ち点1差に迫られていたお隣さんの様子が心配で、オンダ・マドリード(ローカルラジオ局)の2元中継に耳を澄ますという中途半端なことをしていたところ…。

最近のマドリーは本当に強くなりましたよね。9月の1節でPSGに3-0と完敗した時の面影は微塵もなく、序盤から主導権を握ると、前半17分には先制点をゲット。バルベルデが折り返したボールを久々に先発に抜擢されたイスコが撃ったシュートはゴールポストに当たってしまったものの、いい場所にいたベンゼマがゴールにしてくれるんですから、頼りになるじゃないですか。いえ、42分にはエリア外に飛び出してイカルディを倒したGKクルトワがレッドカードを出されるという逆境もあったんですけどね。幸い、VAR(ビデオ審判)がその前にゲイェがマルセロをセンター付近で突き飛ばしたプレーを発見。それがファールとされたおかげでクルトワも退場を免れたなんて、この日はツキもマドリーサイドにあった?

後半の頭から、PSGは「中盤を沢山走る必要があったから、最初から出るとそういうプレーができるかどうか心配があった」(トゥーヘル監督)ネイマールを投入してきたんですが、形勢はほとんど変わらず。それどころか、このままではgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)が始まるんじゃないかと思える程、マドリーの独壇場が続いていたんですが、そのフラストレーションもあったんでしょうかね。23分にはベルギー代表の同僚、ムニエから強烈なタックルを見舞われたアザールが右足首のネンザで交代。ピッチにはベイルが入ったんですが、CLを見に来るファンとリーガのファンは層が違うのと、皆がゲームに熱中していたため、先日のレアル・ソシエダ戦よりpito(ピト/ブーイング)が少なかったのは良かったかと。

ちなみにようやくマドリーが追加点を入れたのは34分のことで、こちらもベンゼマがマルセロのクロスをヘッドしてdoblete(ドブレテ/1試合2得点のこと)を達成。でもその後、すぐだったんですよ。36分にはバランのバックパスをクルトワに届く直前に奪ったエムバペが1点を返すと、その2分後にもドラクスラーのシュートがセルヒオ・ラモスに当たって戻ってきたところをサラビアが撃ち込んでゴール。あっという間にPSGが同点に追いついてしまったから、ビックリしたの何のって。

いやあ、後でルイス・エンリケ監督に代わってもユーロ行き逃したくないか、フランス勢で唯一、ミックスゾーンで話していた殊勲のサラビアも「Keylor Navas ha sido el mejor del PSG/ケイロル・ナバス・ア・シードー・エル・メホール・デル・ペーセーヘー(PSGで一番良かったのはケイロル・ナバスだった)」と言っていたように、それまではCL3連覇を成し遂げた古巣を訪問したGKの八面六臂の働きばかりが目立っていたんですけどねえ。マドリーの気が緩んだ際に生まれた2回のチャンスを確実に仕留め、2-2の引き分けをもぎ取ってしまったとなれば、PSGのファンたちがフォンド・ノルテ(ゴール裏北側)の3、4階席から、転がり落ちそうになるぐらい大喜びしていたのは当然だったかと。

まさにサッカーにとって、決定力がどんなに大事かの証明のようでしたが、私が身をつまされていたのはもちろん、トリノで戦っていたアトレティコせい。だってえ、前半ロスタイム、サッリ監督まで、あとで「指導者としてまず言えるのは、『そんな場所から蹴って何してるんだ?』ということだ」と呆れていた程、角度のないゴールライン際からのFKをディバラに直接決められて、その1点を最後まで返せず、1-0で負けてしまったんですよお。それも昨季、3-0で逆転敗退を喰らったCL16強対決2ndレグのようにユベントスに押し込まれていた訳ではなく、クリスチアーノ・ロナウドにだって、ほとんどチャンスを作らせなかったにも関わらず、ただただゴール日照りのせいだったなんて…。

そう、後半ロスタイムにコレアがゴール前に入れたラストパスをモラタが逃してしまったシーンなど典型的で、13回もシュートを撃って、そのうち2つしか枠内に飛ばないんですから、一体どうしたらいいのやら。まさに「En el fútbol, cuando no eres contundente en las áreas, todo lo demás no sirve/エン・エル・フトボル、クアンドー・ノー・エレス・コントゥンデンテ・エン・ラス・アレアス、トードー・ロ・デマス・ノー・シルベ(サッカーではエリア内でガツンといかないと、他はまったく役に立たない)」というシメオネ監督の言葉通りですが、だからって、「Muchas veces se criticaba que jugábamos mal y ganábamos y ahora jugamos bien y no ganamos/ムーチャス・ベセス・セ・クリティカバ・ケ・フガバモス・マル・イ・ガナバモス・イ・アホラ・フガモス・ビエン・イ・ノー・ガナモス(何度もウチはいいプレーをしないで勝っていると批判されてきたけど、今はいいプレーをして勝てない)」と、コケのように開き直っていいとはとても思えませんって。

ただ、救いはアトレティコが最終節にロコモティブ・モスクワにワンダ・メトロポリターノで勝てば、たとえ、レバークーゼンがユベントスに勝っても2位でCL決勝トーナメントに行けるということなんですが、待ったをかけられないのはこの日曜、午後9時(日本時間翌午前5時)からのバルサ戦。何せ、翌水曜にはカンプ・ノウにドルトムントを迎えた試合でルイス・スアレス、メッシ、グリーズマンがとうとう揃い踏み、3-1の勝利でグループ首位突破を決め、いよいよ調子に乗ってきましたからね。

リーガ前節のグラナダ戦でもやはりゴールが入らず、引き分けている間に首位の彼らとの差が勝ち点3に開いてしまったのもありますし、もうこうなったら、「Somos especialistas en paciencia y trabajo/ソモス・エスペシアリスタス・エン・パシエンシア・イ・トラバッホ(ウチは辛抱強さと努力することにかけてはスペシャリスト)。ゴールと共に偉大な試合ができる時はきっと来る」というシメオネ監督の言葉を信じるしかない?

そんなアトレティコにはヒメネスの負傷がまだ治らず、連続出場しているフェリペとエルモーソの両CBの疲れや、水曜にゴールデンボーイ賞(イタリアのスポーツ紙が選ぶ21才以下の最優秀選手)を受賞したものの、ケガが治ってから、まだ才能の煌めきを見せてくれていないジョアン・フェリックスがどこまで力になってくれるのかが心配だったりするんですが、さて。向こうはドルトムント戦で太ももをケガしたデンベレが全治10週間、ブスケツが累積警告で出場停止となりますが、きっと当日はグリーズマンへのブーイングが凄いんでしょうね。

そして木曜には弟分のヘタフェがトルコでトラブゾンスポル戦に挑み、いやあ、午後4時55分という変な時間のキックオフだったため、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)でチャンネルを合わせてくれるようにウェイターのオジさんに頼むのもちょっと、恥ずかしかったんですけどね。前半はすでに敗退が決まっている相手に合わせてリラックスムードが過ぎたものの、後半5分にはケネディのクロスをマタがクルリと回転してシュート。これで入った1点で0-1と勝ったんですが、同じ勝ち点で並んでいたクラスノダールもバーゼルに勝ったため、来年もELでプレーできるかどうかは12月12日、コリセウム・アルフォンソ・ペレスでの直接対決の結果次第に。

その前には日曜にレバンテ戦も控えていますし、1月のスペイン・スーパーカップのせいで、1、2回戦を免除となった兄貴分たちとは違い、ヘタフェには12月第3週のミッドウィークにも3部のエル・パルマルとのコパ・デル・レイがありますからね。ハードスケジュールが続いて可哀そうなんですが、大変なのはお隣さんのレガネスの方が上かも。というのも彼らもこの日曜、アギーレ監督に代わって3試合目を迎えるんですが、今度の相手は前節にアトレティコを追い越して3位に立ったセビージャ。しかも木曜にはローテーションしながらも得意のELで、これも2年前、アトレティコがCLグループリーグ敗退する原因を作ったカラバフを2-0で破り、5連勝で6回目の優勝に向けて驀進中となったら、最下位の彼らに一体、何ができる?

それでもマドリッド勢を応援する私としては奇跡を信じたいところですが、今週末、一番気楽に見られそうなのは土曜午後1時(日本時間午後9時)からのアラベスvsマドリー戦。いえ、アザールは全治10日となって、延期されていた12月18日のクラシコ(伝統の一戦)には間に合いそうという状態なんですけどね。ベンゼマがのっていますし、ベイルやロドリゴもいるため、沢山ゴールが見られそうなのが何よりかと。5試合ぶりにビニシウスも招集されましたしね。唯一、注意が必要なのはナチョのリハビリがまだ終わらず、バランも打撲でお休みとなるため、これまであまり出番のなかったミリタオが今季、合計13得点を挙げているルーカス・ペレスとホセルの好調前線コンビと対決しないといけないことですが、今のチームは撃ち合いで負けなさそうなのがいいですよね。【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。