11月上旬に閉幕した東京モーターショーで、マツダは市販予定の電気自動車「MX-30」を発表した。それに先駆け、MX-30の試験車両「e-TPV」に試乗してきた(筆者撮影)

10月24日から11月4日かけて行われた46回目の東京モーターショーのテーマは未来のモビリティ社会だ。本稿では電動化、中でもマツダが目指す電気自動車(BEV)とその先の電動化車両についてスポットを当ててみたい。

BEV投入の理由はCO2削減だけではない

東京モーターショーのマツダブースでは、「マツダ3」を筆頭にした第7世代商品群に混じり、BEV市販予定車「MX-30」が出展された。BEVとは、動力源となる電気を外部から充電してバッテリーに蓄え、その電気でモーターを駆動させ走行する車両のことだ。


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これが「電動化車両」になると対象車両が広がる。エンジン走行とモーター走行を適宜切り替えるいわゆる「ハイブリッド車」、エンジンで発電機を回して発電し、生み出した電力でモーター走行を行う「シリーズ式ハイブリッド車」、エンジンに48V系システムを追加して小さなモーター(オルタネーター)で走行を補助する「マイルドハイブリッド車」、タンクに充填した水素をFCスタックにより空気中の酸素と化学反応させ発電し、生み出した電力でモーター走行を行う「燃料電池車」などがそれにあたる。

昨今、地球環境保全の観点から電動化車両が注目されている。なかでもBEVと燃料電池車は走行時にCO2(二酸化炭素)を排出しないことから、次世代のパワートレーンとして有力視する声が大きい。そうしたなかマツダも今回の東京モーターショーでBEVを出展し市販化を目指すわけだが、理由はCO2削減だけではないという。 

マツダはBEVをはじめとした電動化車両においても、走る楽しさ、走る歓びを大切にします」。こう語るのはマツダの執行役員であり車両開発・商品企画担当の松本浩幸氏だ。正直なところ“走る歓び”といってもピンとこないかもしれないが、筆者なりに松本氏の言葉を解釈すれば、「パワートレーンが電動化されたとしてもマツダが目指している世界は内燃機関(ICE)車両と同じである」と同義ではないかとの理解に至った。

ところでBEVを購入候補として考えた場合、われわれは何を基準にクルマを選ぶだろうか。筆者なら車両サイズや車両価格をその筆頭に挙げる。さらに、バッテリー容量や充電方式、充電1回当たりの走行可能距離についても大いに気になる。加えて、災害時に役立つ外部電源供給システムの有無も評価基準だ。

一方、動力性能について選択肢は少ない。「BEVは速い」というイメージが定着しつつあり、さらに「BEVは静か」であるという評判もつくが、実際はそれ以上でも以下でもない。

日常走行ではそうそうアクセルペダルを全開にすることもないし、そもそも電力消費の点からすれば急加速は電力の無駄使いでマイナス面ばかり。静粛性についてもエンジン音がない代わりに高周波のインバーター音があるし、これまでエンジン音にかき消されていたロードノイズや風きり音がかえって気になるという指摘も多い。

動力性能に大きな違いを見出しにくい

もっとも、速さについて細かく観察すればテスラの各シリーズやポルシェ「タイカン」のようにべらぼうに速いモデルも存在するが、グローバルで累計43万1000台を販売した(2019年8月末現在)日産「リーフ」に対して誰もが思いつく走りのフレーズは、やはり「普通に速くて、普通に静か」となるのではないか。

逆説的にいえば、現時点におけるBEVの動力性能については程度の差はあれども尺度が同じであり、大きな違いを見いだしにくい。

東京モーターショーにマツダが出展した「MX-30」は、こうしたBEVの既成概念を運転操作という観点から覆す注目のモデルだ。筆者は「MX-30」の試験車両「e-TPV」に試乗することができた。

「人の感性に合わせた走行性能を突き詰めると、運転操作に対する反応時間の遅れに1つの答えがあることがわかりました。よって、マツダはBEVであっても速さだけを売り物にせず、運転操作に対する車両反応を内燃機関車両に近づける(≒BEVに遅れを付加する)ことでマツダらしさを演出しました」(マツダ車両開発本部副本部長の田中松広氏)。……さて、どんな乗り味なのか?

試験車両である「e-TPV」では、身体とクルマの一体感を強調するために、多方向環状構造ボディ/モーターペダル/Gベクタリングコントロール(GVC)、この3点に的を絞りBEVを筆頭にした電動化車両向けに新規開発した。

多方向環状構造ボディーは、マツダ3から採用されている新しい骨格をベースに、車体フロア部分に配置する角型のリチウムイオンバッテリー(総電力量35.5 kWh/総電圧355V)のケースを骨組みとして活用し剛性を高めながら、フロアとの結合部分の形状にも工夫を凝らして設計された。


試験車両「e-TPV」を試乗する筆者(写真:マツダ

モーターペダルは、マツダが考えた造語で正体はアクセルペダル。見た目には普通のアクセルペダルと変わらないが、ドライバーや同乗者の視線や姿勢の変化を抑える緻密なトルクコントロールを得意とし、さらにドライバーの踏み込むペダル操作量や踏み込む速度に応じて擬似的なサウンドを発し、トルクの向きと大きさを実感させる。

GVCは、すでにマツダの各モデルに実装されている機構だが、e-TPVでは電気モーターの強みを活かして作動領域を大幅に増やしている点が新しい。これまで効果を出しづらかったアクセルペダルを戻した場面(例/下り坂)でも、モーター回生制御を活用しGVC効果を持続させている。

従来のBEVとはまったく異なる走り

試乗コースはノルウェー・オスロ郊外の山岳路。自然の地形を生かしたカーブが右に左に連続する。E-TPVは乗り始めてすぐに、従来のBEVとはまったく異なる走りをみせた。失礼を承知で言えば速くない、いや“遅い”とも感じられた。初めての試乗コースとあって慎重なアクセル操作をしていたのは事実だが、BEVにありがちなゆっくりアクセルを踏んでいるのにドンと加速するような演出はまるでないのだ。

ただ冷静になってみると、これこそ慣れ親しんだICE車両での運転操作であることに気づく。じんわりとアクセルを踏めば、じんわり加速する。この当たり前のことがBEVでかなうことが新しいのだと痛感した。

高速道路に入り今度はモーターペダルを最後まで踏み込むと、105kW(約143PS)/265Nmというモータースペックどおりの加速を披露した。こうしてグッと踏み込めば一般道路で感じた緩慢さは消え、相応の速さを実感できる。少なくとも20km/h→100km/hまでの加速力において不満はなかった。「定格出力は厳しい欧州基準に設定してありますし、最大出力に関しても余裕がかなりあります」(マツダ パワートレーン開発本部主査の大久晃氏)という。


試験車両「e-TPV」を試乗する様子(写真:マツダ

一般道路、高速道路と走り込んでみて、大げさではなく筆者の愛車であるND型ロードスターで慣れ親しんだ加減速特性に極めて近いと感じた。BEV特有のドンとくる加速を抑えるために、これまで多くのBEVで無意識に行っていた繊細なアクセルペダル操作。これがe-TPVでは必要ないから疲れない。

さらに、モーターペダルの擬似的なサウンドには力強さを感じるだけでなく、加速や減速に対する車速コントロールが容易になることもわかった。こうした新しい取り組みは、この先に増えてくる他社の電動化車両との差別化にも大いになりうるマツダならではの操作感だ。

BEVが唯一の回答ではない

ご存じのとおり、世界中でCO2に対する規制は強まっている。欧州で2020年1月にスタートするCO2排出量目標95g/km、アメリカでのZEV規制の強化、中国におけるNEV規制がそれだ。さらに日本においても、2050年までに乗用車のCO2をはじめとした温室効果ガスの90%を削減する長期ビジョンなどが示されており、自動車業界がクリアしなければならない課題は数多い。


筆者と「MX-30」の試験車両「e-TPV」(写真:マツダ

そうしたなかで、電動化車両のうちとりわけBEVは、世界各国での規制や課題に対する1つの解として期待されている。しかし、“すべからくこの先はBEVのみ”という解釈はやや早計だ。リチウムイオンバッテリーに使用するコバルトなどレアメタルの大量採掘、高効率な全固体電池の早期開発、自然エネルギーによる電力確保などの課題があるからだ。

解決にはこの先30年程度は必要であると言われている。よって現時点、BEVが環境負荷低減に向けた唯一の回答ではない。既存の内燃機関車両と共存を図っていくことが求められ、それには当然、電動化車両が含まれる。さらにこうした共存により、国と地域のエネルギー事情に応じた電動化がスムーズに行え、その先に“環境負荷低減”と“移動の質向上”の両立が望めるBEVの世界が見えてくる。

マツダでは2020年以降に、このBEVをベースにロータリーエンジン(新規開発で1ローター方式)を組み合わせた、レンジエクステンダーBEV/プラグインハイブリッド/シリーズ式ハイブリッドシステムの登場を計画しているという。