失敗を恐れず、挑戦し続けてきた。“開拓者”神谷 明×山寺宏一だからこそ言えること

1987年を皮切りに4度もTVアニメ化され、2019年には20年ぶりとなる新作『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』が公開。北条 司によるアクション漫画『シティーハンター』は、長いあいだ根強い人気を誇ってきた。

そのフランス実写版『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』が11月29日に公開。フィリップ・ラショー演じる主人公・冴羽 獠の吹き替えを担当したのは、山寺宏一だ。

神谷 明が獠を演じないことに、衝撃を受けた人も多いだろう。当の山寺も「神谷さんが獠をやらないのは絶対におかしい!」と思ったという。TVアニメの収録現場の中心に立つ神谷をいつも間近で見てきた山寺だからこそ、プレッシャーは大きかった。

一方、神谷は誰よりも『シティーハンター』を愛するがゆえ、“冴羽 獠を委ねる”という決断を下した。「獠を託すなら“山ちゃん”以外にいない」──。

そんなふたりから強く感じられた、信頼と尊敬。それぞれのやり方で声優という仕事の幅を広げてきた彼らだからこそ、通ずる思いがあるのかもしれない。

撮影/曽我美芽 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.

「冴羽 獠を演じられるのは、山ちゃんしかいない」と思った

本作で、冴羽 獠の吹き替えを担当することとなった山寺さん。オファーが来た際は、どのようなお気持ちでしたか?
山寺 「冗談じゃない!」と(笑)。神谷さんが演じない獠なんて、全『シティーハンター』ファンが許さないだろうと思いました。

僕も『シティーハンター』ファンですし、声優としても育てていただいた作品で、神谷さんが演じる獠をずっと近くで見てきたので……。「神谷さんが獠をやらないのは、絶対におかしい!」と思いました。
そんな山寺さんを後押ししたのは、神谷さんご自身だとうかがいました。
神谷 そうなんです。じつはオファーを受けたのですが、実写版というのは実際に俳優さんが演技をされていらっしゃるわけですよね。そこがアニメーションと違うので、まずはフィリップ・ラショーさんが演じる獠を拝見させていただいたんです。

そこで「これは今の僕では演じきれない」と率直に感じまして……。「やりたくない」ということではなく、年齢も考えて「無理してやってはいけない」と思ったんです。

大変ありがたいお話でしたが、そういった理由でご辞退申し上げました。「誰になるのかな?」って思っていたんですが、僕としては、どう考えても山ちゃん以外にいないんですよ。
山寺 いや、もう……(小声で)ありがたいです。
神谷 そうしましたら、山ちゃんがキャスティングされたということで。ちょうどその時期に『劇場版シティーハンター<新宿プライベート・アイズ>』(山寺さんは御国真司役で出演)の打ち上げがあったんですね。そこで、僕のほうからお願いしたという経緯があります。
山寺 「神谷さんも“山ちゃんがやるべきだ”とおっしゃっている」と聞いたときには、「いや、そんなことはない」と思っていたんです(笑)。だから、打ち上げで…後輩ながら失礼ですが、「絶対に神谷さんじゃなきゃダメですよ! 僕には無理です」って言おうと思っていたんですが。
神谷 言われる前に、僕のほうから「お願いね」って言ったの(笑)。「山ちゃんしかいないから」って。山ちゃんの気持ちはわかっていましたが、僕の正直な気持ちをお話して、背中を押した感じですかね?
山寺 はい。背中どころか、全部押していただきました(笑)。「とにかく面白い作品だから」って。
監督と主演を務められたフィリップ・ラショーさんは原作の大ファンだそうですね。
神谷 今作はフィリップ・ラショーさんが作り上げた獠なんです。動いている姿を観て、「これは僕じゃなくても大丈夫だ。だったら、山ちゃんにやってもらいたい」とも思えたんです。おそらく山ちゃんも、実際に作品を観て「あ、大丈夫だ」と思ったんじゃないかなと、僕は勝手に感じているんですが。
山寺 もし『シティーハンター』じゃない別の作品で、フィリップ・ラショーさんの吹き替えを担当するということでしたら、「声優として、ぜひやりたい!」と思うんですが……。ラショーさんの『シティーハンター』愛にあふれた作品ですから、心配はありましたね。
心配というと?
山寺 ラショーさんは神谷さんの冴羽 獠をずっと観てきて、その獠を好きになって、『シティーハンター』の実写版を作りたい!と思ったわけですから。

どうしても神谷さんの獠と比べてしまうでしょうし、神谷さんがこれまで作り上げてきた表現に「山寺は追いついていないんじゃないか」と思われてしまったら…とか、アニメのファンのみなさんに楽しんでいただけるのか…という心配がありました。
©Axel Films Production

「彼女は一体、何者なんだ!」沢城みゆきの“香”に驚き

できあがった吹替版をご覧になって、いかがでしたか?
神谷 いやもう、初めて試写室で観たときは大笑いしたんですよ。純粋にお客さんとして楽しませていただきました。
冒頭から「これぞ、まさに『シティーハンター』!」といった展開です。
山寺 僕も、ド頭のシーンから心を掴まれました。“あるもの”を鷲掴みにするシーンとかね(笑)。一方で、シリアスなところで獠がグッとカッコよくなるのは、本当に漫画やアニメそのもので、底抜けに面白かったですね。
獠のパートナーである槇村 香の吹き替えを担当されたのは、沢城みゆきさんです。
神谷 山ちゃんの獠と沢城さんの香がピッタリで。ずーっとコンビを組んでいたんじゃないかと思うほど息が合っていましたね。この作品のなかの獠と香を見事に演じられていて、何の違和感もなく作品に自然と入り込むことができる。「おふたりともスゴいなあ」と思いました。
山寺 いまだにプレッシャーを感じ続けていますが、神谷さんにそうおっしゃっていただいて少し安心しました。
神谷 アニメの獠と香のイメージを持って吹き替え版を観ても、違和感なくスッと入ってもらえると思います。僕が言うのもおかしいですが、自信があります(笑)。
山寺 (恐縮しながら)ありがとうございます。
山寺さんと沢城さんはこれまでも何度か共演されていますが、今回はいかがでしたか?
山寺 『シティーハンター』で獠と香を演じるなんて、始まる前は「一体どうなるんだろう?」と思っていたんですね。でも、始まってみたら、僕がみゆきちゃんに引っ張ってもらったところもあるなと感じていて。

僕は実際にスタジオのなかで神谷さんの獠と伊倉(一恵)さんの香を見ていましたが、みゆきちゃんは当時の収録現場にいたわけではないのに、見事に香を演じていて「スゴい!」と思いましたね。
神谷 でしょ!? 僕も「香だ!」って思った!
山寺 ビックリしましたね。「え? 伊倉さんがしゃべったの?」ぐらいの。別にモノマネをしているつもりはないと思いますが。彼女は一体、何者なんですかね?(笑)
神谷 本当にこれは、観ていただければわかります! 観終わる頃には「誰が獠や香を演じているか」なんてことも忘れて、楽しんでいただけるんじゃないかと思います。息をもつかせぬ展開で、次から次へと面白いことが起こりますから(笑)。
©Axel Films Production
©Axel Films Production

バカな一面を演じるために、自分をどこまで解放できるか

山寺さんは今作で冴羽 獠を演じられて、改めてどのようなキャラクターだと感じましたか?
山寺 僕が神谷さんの前で語るのも恐縮ですが……男の憧れですよね。

強くて、頭がよくて、でもドスケベで(笑)。いろんな面を持っている。そうやって描かれた獠を神谷さんが演じたことによって、さらにキャラクターができあがったように思います。「硬軟織り交ぜて」なんて単純な言葉では語ることができない、いろんな面があると感じますね。
神谷 役者としても一度はやってみたいキャラクターですよね。僕も、演じ手として初めて「自分でやってみたい。これは自分しかいない」と思えたキャラクターでしたから。後にも先にもそんなキャラはいないですね。
以前のインタビューでも、神谷さんはいろんな先輩方のお芝居を獠のなかに取り入れて、キャラクターをイチから作っていったとお話されていました。
神谷 山ちゃんにもお話しましたが……僕が入った劇団テアトル・エコーに、熊倉一雄さん(『ひょっこりひょうたん島』トラヒゲ役)、納谷悟朗さん(『ルパン三世』銭形警部役)、山田康雄さん(『ルパン三世』ルパン三世役)といった素晴らしい先輩方がいらっしゃって、直接指導を受けたり、見て覚えたりしたことが全部キャラクターに入っているんですね。

山ちゃんもそういった諸先輩方の現役時代を知っていますし、ほかにも「参考にしたい」と思うような人もいるでしょうし。ただ、最後は自分ですからね。山ちゃんが『アラジン』のジーニー役を演じているときにも感じたんですが……「好きにやってるな」って(笑)。
山寺 動物キャラやデフォルメキャラを演じるのは、自分では得意だと思っていますが、(獠のような)ひとりの人物の異なる人格を演じるのが難しくて。それを神谷さんは…パッとふざけてスッと真面目に戻っても、両方が冴羽 獠としてつながっているんですよね。

どうやったらそういったお芝居ができるのか、いまだに答えは出ていませんが、今回はラショーさんの演技になるべく寄り添うようにしたつもりです。

ただやっぱり、「でへ〜」っていう芝居は……どうしても、神谷さんの獠の声が聞こえてくるんです(笑)。
神谷 ふふふ。
山寺 神谷さんの演技をいつも間近で見ていましたし、真似をしていましたから(笑)。とはいえ、上っ面だけ真似しても神谷さんにも作品にも失礼だと思うので、少しでも近づきたいと必死にやったのが今回の作品です。
神谷 ラショーさんにパート2、3と作っていただいて、山ちゃんの獠にもっともっとアホな面を見せてほしいなあという思いがあります(笑)。

ビシッと締めるところは自分のなかの“理想的なカッコよさ”で演じることができますが、バカなところは“自分をどこまで解放できるか”なんですよね。僕も最初からできていたわけじゃなく、数年間の積み重ねで作り上げていきましたから。

そういう意味では山ちゃんにとって、これが『シティーハンター』冴羽 獠の初めの一歩であり、今後の俳優・声優人生の新たな礎になってくれるといいなと思いますね。

神谷 明がいなければ、『シティーハンター』は続いていない

『劇場版シティーハンター<新宿プライベート・アイズ>』を、親子二世代でご覧になるお客様も多かったようです。これほど長年『シティーハンター』が愛されている理由はどこにあると思いますか?
山寺 唯一無二の世界観じゃないでしょうか。アクションやサスペンス的な要素、それにエッチなところとか(笑)、いろんなものが内包されているエンタテインメントですが、ベースにはすごく温かいものが流れている人間ドラマである、というところだと僕は思います。
神谷 僕は、まずは原作の力だと思います。北条先生が作り上げた世界観とキャラクターの魅力ですよね。これに今の山ちゃんの話をくっつけると、答えになるだろうと思います。
山寺 さらに、そこに神谷 明さんという役者がいたことですよね。『ルパン三世』に山田康雄さんがいなかったらっていうのと同じように、『シティーハンター』に神谷 明さんがいなかったら、アニメは続いてなかったんじゃないかと思います。
神谷 それ自体はとってもありがたいことだなあと思いますが、不思議なのが、僕はほとんど自分で選んでないんだよね。
山寺 獠役には、どうやって決まったんですか?
神谷 オーディションで決まったの。『キン肉マン』(キン肉スグル/キン肉マン)も『北斗の拳』(ケンシロウ)も、『シティーハンター』も全部オーディションですね(笑)。
山寺 そうやってオーディションで決まった神谷さんが冴羽 獠を演じて、アニメシリーズが続いて、それが世界に出ていって、ラショーさんが作った今作があるんですね。
神谷 フランスの青年が『シティーハンター』のアニメを観て、「いつか自分で実写版を作って、自分で演じたい」と夢見て、それを実際にやっちゃうのがスゴいよね。しかも、これだけクオリティの高いものができるって。
山寺 そうですよね。
©Axel Films Production

失敗はたくさんして当たり前。挑戦することを恐れないで

おふたりとも音楽ライブを行ったり、テレビ番組に出演されたりと幅広く活躍されていますが、最近は若手の声優さんたちも声のお仕事だけでなく、いろんなことに挑戦されています。声優の仕事の幅が広がっていることについてはどのように感じていますか?
神谷 僕は素晴らしいことだと思っていますね。いろいろな場を提供されるということは、ある意味“自分が試される”ということでもありますが、先輩の立場として言わせていただくと、チャンスはどんどん掴み、活かしていってほしいと思うんです。

今その仕事に辿り着ける人はいいですが、なかなか辿り着けない人もいる。そういう意味では、今活躍しているみなさんが起爆剤となって、後輩たちの仕事の場をさらに増やしていってほしいですね。
山寺 いろんなことをやるのはいいことだと思いますね。僕も、僕のことを面白がって声をかけてくださる仕事は、できるだけやっていきたいと思っていますから。
神谷 僕もまったく同じ! 「面白そう!」って、僕らは何でもやってきたから今があるんですね。ただ、なかには怖がる人もいるんです。
新しい挑戦に不安を抱くこともあるのでしょう。
神谷 でもね、怖がることはない! やっぱり、人生って挑戦じゃない? いろんなことにどんどん挑戦していってほしいと思う。今度、ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』に宮野真守くんや三森すずこちゃんを始めとした声優が出ますけど(※取材が行われたのは10月中旬)、素晴らしいと思いますね。

メジャーになっていくと、それだけプレッシャーもリスクも多いと思いますが、そんなことを気にしていたら何もできないから。
山寺 失敗はたくさんして当たり前ですからね。
神谷 山ちゃんも『ものまねグランプリ 秋のガチランキングSP』に挑戦していましたもんね。優勝したのを観ていました。
山寺 ありがとうございます(照)。
山寺さんの活躍で、後輩のみなさんが活躍できる場が広がったとも捉えられます。
神谷 本人に課されるものは本当に大きいと思いますが、それをこなしていくのはスゴいよねえ。そうやって山ちゃんが声優の可能性をどんどん広げていってくれるんだから、後輩は欲を持って、それに続いていかなきゃ。

大きなステージで歌を歌ったり、ラジオをやったり、みなさん頑張ってらっしゃいますが、やれることはまだまだあるからね。

だから、臆病にならないで。だって僕や山ちゃんが、今でもまだ「それいけ!」ってガンガンやっているわけだから(笑)。どんどん後に続いてほしいし、僕たちよりも活動の範囲を広げてくれている若手もいるので、本当に頼もしい限りですよ。声優っていうのは夢のある仕事ですから、夢をもっともっと具現化していってほしいと思います。
神谷 明(かみや・あきら)
9月18日生まれ。神奈川県出身。A型。劇団テアトル・エコーに研究生として所属していた1970年に声優デビュー。主な出演作に、アニメ『キン肉マン』シリーズ(キン肉スグル・キン肉マン)、『北斗の拳』シリーズ(ケンシロウ)、『シティーハンター』シリーズ(冴羽 獠)、『名探偵コナン』(初代・毛利小五郎)など。
山寺宏一(やまでら・こういち)
6月17日生まれ。宮城県出身。A型。1985年に声優デビュー。主な出演作に、アニメ『それいけ!アンパンマン』(めいけんチーズ、カバオくん、2代目・ジャムおじさん)、『新世紀エヴァンゲリオン』(加持リョウジ)、『ルパン三世』シリーズ(2代目・銭形警部)など。ジム・キャリー、ブラッド・ピッド、エディ・マーフィ、トム・ハンクスなど数々の洋画で吹き替えも担当。1997年より18年半にわたって『おはスタ』(テレビ東京系)の司会も務めた。

映画情報

映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』
11月29日(金)ロードショー
https://cityhunter-themovie.com/
©AXEL FILMS PRODUCTION - BAF PROD - M6 FILMS

サイン入りプレスプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、神谷 明さん×山寺宏一さんのサイン入りプレスを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年11月28日(木)18:00〜12月4日(水)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/12月5日(木)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから12月5日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき12月8日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
  • 本キャンペーン当選賞品を、インターネットオークションなどで第三者に転売・譲渡することは禁止しております。
  • 個人情報の利用に関しましてはこちらをご覧ください。
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
記事への感想・ご意見、お問い合わせなどは こちら までご連絡ください。