(画像提供/JR中央ラインモール)

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幅400mという超横長の敷地の食事付き賃貸住宅が2020年春に完成を予定している。学生を対象としていて、食事と管理人付きなところは、さながら“学生寮”。横長なのは、JR中央線の高架下を敷地としているためだ。騒音や振動も気になりそうなこの立地にJR東日本が住宅をつくるのはなぜなのか? 初の高架下賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」の詳細を探ってみた。

商業空間や保育園…高架下スペースは、もはや”遊休地“ではない

「高架下」と聞いてすぐにガード下の居酒屋を連想してしまった私だが、最近の高架下は、とてもそんな枠に収まる空間ではないらしい。

例えば、東急東横線中目黒駅と祐天寺駅の間に2016年11月にオープンした商業施設はその名も「中目黒高架下」。おしゃれなショップやレストランが軒を連ね、行列のできる人気店もあるというし、JR御徒町駅と秋葉原駅の間の高架下に展開する「2k540 アキオカ アルチザン」には、「ものづくり」をテーマに工房やショップ、カフェなどがそろっている。2020年初夏には、JR有楽町駅〜新橋駅間の高架下に「日比谷OKUROJI」がオープンを予定。さまざまなスタイルのバーなどが充実した新しい商業空間が誕生することになる。

また、JR東日本が進める「HAPPY CHILD PROJECT」では、子育て支援を通じた沿線活性化事業に取り組んでおり、駅型保育園のバリエーションとして、すでに高架下に複数の保育園を誕生させている。高架下は、すでに鉄道アクセスの良い商業空間やコミュニティ空間としての地位を確立しているのだ。

住居専用の用途地域だったことが高架下住宅誕生につながった

そんな高架下スペースに、今度は学生向け賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」が建設される。東京都による三鷹・立川間の連続立体交差事業で生じた長大な高架下スペース。中央ラインハウス小金井は、その一部であるJR東小金井駅とJR武蔵小金井駅間のスペースを利用する予定だ。

JR武蔵小金井駅とJR東小金井駅の間の高架下には、すでに「nonowa東小金井」「nonowa武蔵小金井」という商業施設や保育園があるが、住宅はなかった。なぜ、今回、住宅が誕生することになったのだろうか。JR中央線三鷹〜立川間エリアの開発を行う株式会社JR中央ラインモール開発本部の関口淳さんに聞いた。

「これまで、中央線三鷹駅〜立川駅間の線路高架化にあわせ、当社では、駅周辺部を中心に商業展開を行うほか、子育て支援施設や福祉・医療施設、地域交流を促す施設、広場・公園など沿線にお住まいの方々に対し、日々の暮らしをサポートするさまざまな施設の設置を進めてきました。そのような背景がある中、今回の建設予定地に関しては、大半が住居専用の用途地域(第一種低層住居専用地域)であったことから、都市計画との整合性と当社の使命とする中央線沿線の価値向上につながる計画を検討してきました。その結果、学生向けの住宅という切り口に至ったのです」(関口さん)

住宅を学生向けとしたのは、中央線沿線に大学キャンパスが多く、住んでいる学生も多いこと、また駅からの道が分かりやすく夜道が明るいことで、学生寮に求められる立地条件を満たしているととらえたからだとか。

東京都による三鷹・立川間の連続立体交差事業が行われ、2010年11月に約9kmに及ぶ長大な高架下スペースが生まれたJR中央線。武蔵小金井駅と東小金井駅の間にはすでにショッピングモールや保育園がある(画像提供/JR中央ラインモール)

高架下での生活に問題がないことは保育園が実証済み?!

ただ、高架下となると、ついつい気になってしまうのが振動や騒音。果たして住宅にふさわしいものなのだろうか…?

「振動や騒音については、現地を確認した上、高架下で開発した別の物件の状況を踏まえ、日常生活に支障がないと考え計画いたしました。また、今回の計画地の隣地(高架下)には保育園が既に設置されており、問題なく運営されています」(関口さん)

なるほど。住宅として初の試みではあるものの、すでに保育園の園児たちが高架下の空間で生活しているという実績があるわけだ。園児たちは、午後にはお昼寝だってしているはず。赤ちゃんも安眠できる環境と考えると、納得がいく。

なお、この物件の特色は、高架下という立地だけにとどまらない。北山恒、谷内田章夫、木下道郎という3人の建築家がL棟、C棟、H棟、それぞれの設計を担当することで、共用空間と居室のつながりやバランスについてコンセプトの異なるプランを展開。住み手である学生が、他学生とどのようにかかわるか、プライバシーにどの程度こだわるかといった志向に応じて、自分にふさわしいプランを選べるようになっている。

また、中央に位置する専用カフェテリアでは、平日の朝・夕の2回、食事を提供。栄養バランスのとれた食生活をサポートするとともに、異なる棟の学生との交流も促す。カフェテリアに隣接する多目的ホールは、地域住民との交流も視野に入れた運営が予定されている。

L棟のコモンスペース(共用スペース)として、1階にはキッチン、2階にはライブラリーが。それぞれを経由して居室に入るつくりになっており、居室はごくごくコンパクトな空間となっている(画像提供/JR中央ラインモール)

C棟は、外部テラス(アウトサイド・コモン)を共用スペースとすることで、各居室の独立性を確保。居室内には、キッチン、バス(乾燥機付き)、洗濯機、電子レンジなどが備え付けられている(画像提供/JR中央ラインモール)

H棟は、大型ダイニングテーブルのあるラウンジ・コモン、ライブラリーのあるキッチン・コモンを共用スペースとして、中央のキッチン・コモンにつながる廊下から各居室に入るつくり。天井の高さを活かしたロフトも設けられている(画像提供/JR中央ラインモール)

中央に設けられた専用カフェテリアで、朝食と夕食を提供(食事代1万6000円/月・税別)。多目的ホールは地域との交流にも利用される予定だ(画像提供/JR中央ラインモール)

管理人付きの安心感と新築の希少価値、リーズナブルな家賃設定が好評

受付を開始した9月は、問い合わせも基本情報の確認といったものが多かったが、それでも9月21日〜23日の3連休だけで15件の問い合わせがあったそう。

「大学入学を控えた学生さんの部屋探しが本格化するのは、入試の結果が出る春がピークなので、今は、推薦の合格者や専門学校に入学する学生さんと親御さんが部屋探しに動き出している時期。他物件と比べてびっくりするほどの反応があるわけではないのですが、それでもすでに予約済みの学生さんがいます」(株式会社学生情報センター経営企画部広報室・寺田律子さん)

一番人気は、L棟のAタイプ。10平米強というコンパクトな間取りではあるが、新築で5万円台(共益費別)であることが決め手になっているのではないかとのこと。

「中央線沿線には新築物件が少ないので、新築という点は大いに魅力があるようです。加えて、日勤の管理人が居て安心という面も。自転車で通学できる距離に大学や学校が多い上に、離れた学校に通う学生さんにも、中央線沿線ならではの広域アクセスの良さが評価されています」(寺田さん)

なお、学生も親も、高架下の騒音や振動はさほど気にしていないのだとか。

「『それなりにうるさいんだろうなあ』ぐらいには思っていらっしゃるようですが、それがネックになるということはないようです」(寺田さん)

電車の本数が多い日中、学生は大学に行っていて部屋には居ないという理由もあるのだろう。隣に保育園があるという点で安心する親や学生もいるのではないだろうか。

L棟 Aタイプは、10平米台の空間に家具を効率よく配置。月額賃料5.2万円〜5.3万円、共益費1.5万円/月と、周辺よりリーズナブルな家賃設定だ(設備維持費400円/月、入館料[再契約料]12万円/年も必要・以下同様)(画像提供/JR中央ラインモール)

C棟 e4・e’4タイプは、専有面積15.94平米、ロフト面積4.93平米。月額賃料が7万円で、共益費1.5万円/月。最大3.5mの天井高を活かしたロフトがあり、大きめのワークデスクや収納力のある本棚、乾燥機付きのバスルームが特徴(画像提供/JR中央ラインモール)

H棟Aタイプは、10.44平米という専有面積ながらも、4.35平米のロフトを設けたことで、ワークデスクの空間などゆとりを確保。月額賃料5.9万円 〜 6.2万円、共益費1.5万円/月という設定になっている(画像提供/JR中央ラインモール)

鰻の寝床とは真逆の超横長な敷地という点だけでもユニークな上に、間口が広くて明るい空間は、学生用賃貸住宅の新しい形を提示しているように思える。ここに入居すれば、カフェテリアで朝晩、栄養バランスの整った食事ができるし、ライブラリーにある本を読み漁ったり、ラウンジでほかの学生たちと語らったり、多目的ホールでイベントを開いたりと、実に楽しい学生生活が送れそうな気がする。ああ、あとウン十年、若かったら私も……!

●参考
中央ラインハウス小金井
・ナジック学生マンション
(日笠由紀)