大手コーヒーチェーンで4位につけるタリーズが、着実にファンを増やしている。店舗数はスターバックスの半分以下だが、シンプルなメニューと店づくりが人気だ。経済ジャーナリストの高井尚之氏が、王者の背中を追うタリーズの取り組みに迫った――。
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メニューにある「クラシックパンケーキ ラムレーズンバニラ」 - 筆者撮影

■業界4位だが確かな支持を得て拡大中

カフェをテーマに業界を取材して、大手チェーンの話に及ぶと、まずは「スターバックス」の動向になる。それほど存在感は高い。

最新の売上高・店舗数ともに競合を圧倒し、2019年2月28日、東京・中目黒にオープンした「スターバックスリザーブ ロースタリー 東京」は都内の新名所となった。

さらに7月4日には、東京・浅草寺「雷門」脇に、「スターバックス コーヒー 雷門店」も開業。現在は外国人観光客も目立つが、江戸っ子の“心のふるさと”とも言えるこの場所への出店は、スタバ1強時代を象徴する。

国内のカフェチェーンで500店を超えるのは、以下の4ブランドだが、さまざまな消費者を取材すると「実はタリーズが好き」と話す人も目立つ。

「スタバとタリーズが近くにあれば、私は迷わずタリーズに行きます。飲食の味もよく、メニューも客層も“主張する系”が目立つスタバより気が楽で、居心地がいいですから」 (広島県在住。20代の女性会社員)

数年前に聞いた話で、興味深く思っていたが、最近も次のような声を聞いた。

「地元にはないが、出張先の朝食ではタリーズを利用します。店の雰囲気とパンメニューが好きですね」(石川県在住。40代の女性会社員)
「コンビニで買えるコーヒー飲料もタリーズが一番おいしいと感じています」(埼玉県在住。40代の男性カメラマン)

今回は、地道な人気を保つ「タリーズ」の取り組みを考察したい。

■東京初の“河川敷カフェ”をオープン

11月9日、「隅田川マルシェ」という1日限定イベントが開催された。江戸時代には「大川」とも呼ばれ、浮世絵にも登場する名所に沿って行われた催しだ。両岸に「花川戸会場」(台東区)と「吾妻橋会場」(墨田区)が設けられ、希望した出店者がフリーマーケットを運営。他に、大人の乗船料500円で回る「ワンコインクルーズ」なども開催された。

主催側(隅田川マルシェ実行委員会・イワタ マサヨシ委員長)は「隅田川を中心とした水辺のにぎわいを創出し、新しい文化圏を構築するソーシャルマルシェ」を掲げ、東京都建設局河川部、台東区、墨田区が後援。

すぐ横に店を構える「タリーズコーヒー隅田公園店」も協力した。ちなみにスタバの「雷門店」からは徒歩約10分という近距離だ。

「ここは、当社の経営理念で掲げる『地域社会に根ざしたコミュニティーカフェとなる』を目指し、6年前にできた店です。東京都の水辺に関する条例が改定された2013年、都内初の河川敷のカフェとしてオープンしました」

広報担当の山口さほりさん(タリーズコーヒージャパン広報室)は、こう説明する。こうした「地域の景観に合った店」はスタバが全国で積極的に展開しているが、実はタリーズも着実に進めているのだ。人々の憩いの場となる公園内の店なので、関連自治体はもちろん、近隣住民とも話し合いを続け、徹底して景観維持や環境への配慮を行ったという。

「例えば、堤防沿いにある店舗には、特別な軽い木材を使いました。経年変化で建物の間伐材成分が土壌や河川に染み込まないよう、耐久性と軽量性を両立させています」(山口さん)

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サカナの形で壁面をディスプレーした「タリーズコーヒー隅田公園店」(東京都台東区) - 筆者撮影

建築後も、タリーズの担当者は定期的に都や区、地域住民との会合に参加する。当日は子どもたちに描いてもらった絵を貼り付け、壁面に大きなサカナを作った。取材当日は晴れて暖かく、散策日和となり、青い空とピンクのサカナのコントラストが鮮やかだった。

■スタバと1年違いで上陸、親会社は伊藤園

コーヒー業界に「シアトル系カフェ」(シアトル系コーヒー)という言葉がある。

一般には、従来の喫茶店で提供されるドリップコーヒー(コーヒー豆を焙煎・挽いた後で抽出)ではなく、エスプレッソをベースにする。ミルクを加えたメニューでも、ドリップ+ミルクが「カフェオレ」、エスプレッソ+ミルクが「カフェラテ」と呼ぶことが多い。

シアトル系の代表が「スターバックスコーヒー」で、「タリーズコーヒー」もそうだ。米国シアトルで、スタバは1971年、タリーズは1992年に創業された。日本に上陸し、1号店を開業したのは1996年(スタバ)と1997年(タリーズ)の1年違いで、1999年に日本1号店を開業した「シアトルズベストコーヒー」(米国の1号店は1970年)とともに、当時は“シアトル系御三家”とも呼ばれた。たが、その後、シアトルズベストは伸び悩んだ。

タリーズを日本に誘致したのは、日本法人創業時の松田公太・元社長(元参議院議員)だ。同氏の印象が強いが、現在、資本関係は一切ない。2006年から伊藤園のグループ企業となり、現在の代表取締役・荻田築会長は、伊藤園の元副社長・副会長を歴任した人物だ。

同グループとなって13年。伊藤園の自動販売機の中にはタリーズの飲料があるなど、親会社のブランド力も背景に拡大。長年増収増益を続ける“孝行娘”だ。

安定した人気の秘密を、筆者は「基本の徹底」と「奇をてらわない」姿勢だと考えている。具体的に説明しよう。

■舌をかみそうなメニューも少ない

カフェの基本となる「コーヒー」は、タリーズでは、担当者がコーヒー生産地に直接出向いて生豆を調達する。産地のブランドやグレードなどにこだわらず「ユニークで際立った特徴がある」といった条件で、カッピングによる味と香りの評価で選ぶという。こうして調達された豆を国内の工場で焙煎する。その豆を店内で淹(い)れるのは社内のバリスタ(コーヒー抽出者)だ。

「ご注文後にバリスタが半自動式マシンで1杯ずつ丁寧に抽出します。コーヒー粉の重量、抽出時間、抽出量など細かいルールがあり、ボタンを押せば出てくる飲料ではありません。品質維持やスキル向上のねらいもあり、毎年バリスタ競技会も実施します」(山口さん)

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タリーズコーヒージャパン広報室の山口さほりさん - 筆者撮影

引いた視点でタリーズの活動を見ると、スタバへの意識がチラ見えする。例えば従業員をスタバは「パートナー」、タリーズは「フェロー」と呼ぶ。バリスタ競技会は両社ともに約20年前(ほぼ同時期)から行い、その名称は前者が「アンバサダーカップ」、後者が「バリスタコンテスト」だ。

このように、時にミステリアスな表記をするスターバックスに比べ、タリーズはメニューでも比較的分かりやすく、舌をかみそうな表記は少ない。例えばフードメニュー「小エビの明太子パスタ〜白ワイン仕立て」、ドリンク「カプチーノ」や「ハニーミルクラテ」などは中身がイメージしやすい。定番のコーヒー豆の名称は「ハウスブレンド」だ。

こうした姿勢は、「お〜い お茶」ブランドが有名な伊藤園の影響も受けていると思う。

■学生からは「行ったことがない」という声も…

一方で課題もある。例えば若い世代の利用頻度は、スターバックスに比べてタリーズは低い。メインの顧客(25歳〜39歳)が約35%を占めるのに対し、25歳までの利用者は約25%にとどまっている。

今月、筆者は、ある国立大学の学生から「スタバはよく行くけど、タリーズは行ったことがない」という声をいくつか受け取った。学生への訴求をどうするかはさておき、次世代を担う若者の利用度が高いほうが、ブランドへの親近感につながると思う。

また、タリーズのパンやパスタといったフードメニューへの評価も、ずばぬけて高いわけではない。決して低評価ではないが、競合はフードメニュー強化に乗り出している。例えばスタバは「プリンチ」というブランドで、自家製ベーカリーに力を入れ出した。ドトールのパンメニューには根強い人気があり、プロントは昔からパスタメニューが充実している。

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人気の「チキンと彩り野菜の瀬戸内レモンパスタ」 - 筆者撮影

タリーズの「本日のコーヒー」は現在12種類もあり、各店が自由に決められるという。そうした気どらない訴求も人気の秘密だが、筆者は、もう少しティーメニューに注力してほしいと思う。このあたりは親会社の伊藤園と試行錯誤もできるのではないだろうか。

■茶系飲料にも力を入れれば強みを生かせる

11月1日にオープンした東京・渋谷駅前の商業施設「渋谷スクランブルスクエア」には、大手から個人店までのカフェチェーンが多く出店した。施設内の9階には「タリーズコーヒー」があり、10階には伊藤園が運営する「ocha room ashita ITOEN」(オチャ ルーム アシタ イトウエン)という店もあり、高価格な茶系飲料を提供する。11月8日に視察した時は、両方の店ともに繁盛していたが、まだご祝儀相場段階だろう。

昭和から平成を経て、圧倒的にコーヒーを好む人が増えたが、消費者の中には「実はコーヒーが苦手」という人もいる。スタバの陰に隠れがちなタリーズが、コーヒーの陰に隠れがちな茶系飲料により注力すれば、「強みを生かす」取り組みになりそうだ。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト 高井 尚之)