「スコア的に大敗すると、多くの批判に晒されることになる。しかしそういう時こそ、冷静な戦術的解釈が必要になる」

“スペインの慧眼”ミケル・エチャリはそう言って、日本代表がベネズエラに1−4と敗れた試合を振り返っている、

 エチャリは昨シーズンまで15年以上、バスク代表(FIFA非公認)監督を務めていた。その最後の試合が、昨年10月のベネズエラ戦だった。スペイン有数の戦術家は、ベネズエラを丸裸にし、ホームで4−2の勝利を飾っている。その言葉には説得力があるだろう。

「ベネズエラは日本戦の前半、ここ数年で最高のプレーをした。リーガ・エスパニョーラでプレーする、もしくはプレーしたことがある選手が多く、そもそもの質は高い。なにより彼らは前半、戦術的に日本を上回っていた」

 日本はなぜ大敗を喫したのか。


ベネズエラの強烈なプレスに、柴崎岳もたびたびボールを失った

「まず、日本はこのベネズエラ戦を”強化試合”と位置づけていたはずだ。多くの主力を外し、代表経験の少ない選手を抜擢。その点、不安定な部分があるのは必然だった。

 それを踏まえたうえでのリポートだと理解してほしい。

 これまでの日本は4−2−3−1に近い4−4−2でスタートするケースが多かったが、この日は4−4−2でスタートしている。トップのキャラクターもあったのだろうか。また、バックラインは代表経験が浅い選手ばかりだった。

 そして日本は、明らかに戦術的に後手に回っている。

 ベネズエラは4−3−3(4−1−4−1とも読み取れる)だったが、左サイドに起用したロベルト・ロサレスのポジショニングが特徴的だった。本来は右利きの右サイドバックであるロサレスを、高めの左サイドバックで起用することで、原口元気(ハノーファー)、柴崎岳(デポルティーボ・ラ・コルーニャ)の2人を引きつけ、前からのプレスの威力をそぎ取っていた。これによって、ベネズエラはアンカーのベルナルド・マンサーノが常に余る形になって、ビルドアップを容易にしていたのだ。

 日本はベネズエラの攻撃の構築を見抜き、前から差し込むべきだった。しかし、むしろ前からはめ込まれ、ボールを失う回数が増えた。

 日本も守備では集中していただろう。事実、何度かつつき返し、ボールを奪回している。ただ、戦術的に相手のほうがいいポジションを取っていることで、再び奪われ、カウンターを受けてしまう。ベネズエラのディフェンスが反則ギリギリだったこともあるのだが(主審はもっと厳しく笛を吹くべきだった)、激しい守備とカウンターによって、日本はラインが下がり、ディフェンスラインに人が余ってしまい、その前で楽にボールを持たれてしまった。

 そして8分、日本は左サイドからクロスを上げられた後、右でも拾われる。エリア内で1対1になると、ジェフェルソン・ソテルドに左足のクロスを許し、ファーポストでサロモン・ロンドンにヘディングで叩き込まれた。このとき、エリア内には7人も日本の選手がいたが、『エリア内では人が人につく』という原則を守れていない。日本は戦術的に後手に回っていたことで腰が引け、必然の失点だった」

 エチャリは論理的に失点を説明した。戦術的な不具合を解消できなかったことで、その後も日本は失点を重ねている。

「日本は先制された後、中島翔哉(ポルト)を中心に反撃を試みた。中島のプレーはベネズエラに怖さを与えていただろう。その証拠に、彼はかなりラフなディフェンスを浴びていた。それでも、ひるまなかった。パスカットから際どいミドルシュート。その流れでCKのキックを、佐々木翔(サンフレッチェ広島)の頭に合わせている。

 しかし、戦術的に状況が優位にあるベネズエラは、強度の高いプレーで再び挽回する。「スペースを作り、使う」という点でアドバンテージを作っていた。ひとりひとりがボールを奪い返し、キープするという強度も高かった。

 日本は攻められながら何度か奪い返すが、相手のプレスを受ける形で厳しい状態が続く。そして30分、混戦の中、植田直通(セルクル・ブルージュ)の中央への軽率なパスを自陣で奪われてしまう。相手にボールを運ばれた後、左サイドを完全に崩され、再びロンドンにクロスを合わされた。

 これでベネズエラが勢いづいた。33分、左サイドアタッカーのようにプレーしていたロサレスが右足で上げたクロスを、ファーポストでジャンヘル・エレラが競り合いに勝ち、折り返しを再びロンドンが決めている。局面の単純な高さで勝利したわけだが、そのベースは繰り返すが、戦術的優位性にあった。

 日本は38分にも失点した。これも端緒は自陣でのつなぎに苦しんだことだった。柴崎岳が前に出ようとしたところを激しい守備で奪われた。日本は後ろに人数は余っていたが、やはり人につけず、崩しを許してしまった」

 エチャリはそう言って、簡潔に試合を分析した。プロの世界で50年以上生きてきたエチャリは、冷静に、あくまでこれをひとつの強化試合として位置付けながら、こう続けている。

「後半になって、日本は布陣を4−2−3−1に変えた。中島をトップ下に置いて、前からプレスをかけるようになった。これで、ベネズエラはボールを下げざるを得ず、結果的に長いボールを蹴る機会が増えた。この点は、評価すべきだろう。

 私がベネズエラと戦ったときもそうだった。彼らは前に出てくる力は強いが、前に出られると、対応できないところがある。我々はスカウティングで彼らのプレーを研究し、分析していた。

 日本も、戦術的改善をもっと早く行なえていたらベターだった。ただ、改善した後半の戦い方は悪くはない。たとえば右サイドバックの室屋成(FC東京)が積極的に攻め上がり、いくつか際どいクロスを折り返していた。

 中島については、”ファウルでしか止められない”という雰囲気があった。実際、一番ひどいファウルを受けていた。チームとして戦術的に対等に立ち、もしくは優位に立ったら、そのプレーは生きるはずだ」

 そしてエチャリは肯定的にこう締めくくっている。

「日本のファンはすばらしかった。10分足らずの間に3失点という厳しい状況だったにもかかわらず、最後まで攻める姿勢を見せた日本代表の戦いを、みんなで後押ししていた。次の試合に期待したい」