あなたの会社は、社員をきちんと評価してくれる会社ですか?(写真:MediaFOTO/PIXTA)

「上司の評価に納得がいかない!」。そう怒った経験のある人は少なくないのではないでしょうか。トップ営業マンである田中さん(仮名)もそのひとり。

2019年度上期(2019年4〜9月)評価のフィードバック面談を終えた田中さんは、悔しそうに自身の評価シートを握りつぶして支店長室から出てきました。

「どうだった?」と同僚から投げかけられても耳に入らないようで、そのまま裏口から出ていってしまいました。

営業No.1の実績を上げた上期の評価は…

新卒入社5年目の田中さんは、2019年度上期、法人の新規開拓件数18件という実績を上げ、営業社員298名中1位の成績を残しました。

この結果を得るまでの努力は並大抵のものではありませんでした。前期末から戦略と行動計画を練り、休みの日も担当エリアをまわって対象となる企業の情報収集を行い、営業戦略の書籍を読みあさって準備をしたのです。

そして、4月からも、毎日誰よりも朝早く出社し、資料の準備や情報の整理をしたうえで朝礼が終わると同時に外回りに出かけ、誰よりも多く訪問件数をこなした結果得られた成果だったのです。

当然、評価結果のフィードバックを楽しみにしていました。その結果で冬の賞与額も決まります。ところが、支店長から伝えられた評価結果は『B』評価。S、A、B、C、Dという5段階評価の中の標準レベルという結果だったのです。

田中さんは、勇気をもって支店長に聞いてみました。

「なぜ今回は『B』評価なんでしょうか? 上期は新規開拓件数は営業の中で1番だったのですが……」

「おっ!そうだったな(バツが悪そうに)。その割には、お前目立ってなかったな……。今回は支店全体の業績がそこそこだったので、お前の評価も『B』にしておいたんだ」

田中さんは退職を決意しました。

どちらかというと、田中さんは自らアピールをすることもなく、黙々と仕事をこなすタイプの社員でした。今回の努力や行動もとくに上司に報告したりアピールすることもなく、ただただ求められた役割で支店に貢献しようと頑張っていたのです。しかし、支店長は田中さんの仕事ぶりに気づくことなく、結果もきちんと把握しないまま適当に部下を評価していたのです。

田中さんは、こうした会社に自分の夢や目標は託せないし、社員をきちんと評価できない会社そのものにも将来はないだろうと、会社を見限ったのです。

次は評価の仕組みが整っている会社がいい

これを機に田中さんは、次の会社はきちんと評価の仕組みが整っているところに転職しようと就職活動を行い、「あなたのキャリアアップを支援する評価制度があります」と募集広告を打ち出した会社に入社が決まりました。

社員50名程の小さな会社でしたが、その会社では入社した日に経営計画と経営理念や会社の方針や考え方、行動理念を明記したクレドカードを渡されました。そして、担当役員が丸1日、会社の沿革や歴史などに加えて、理念を定めた背景や意義、地域や社会とどう関わってきたかということを細かく教えてくれました。

2日目は、人事評価制度に関する説明です。どういう昇格体系があって、どんなキャリアプランが可能か、マネジャーや幹部社員になるにはどういうステップで昇進していく道があるのかがわかる仕組みになっています。これにそって最短で昇進してくパターンやこれまでの社員の標準のパターンなどのシミュレーション表も渡されました。

そして、それに連動した給与や昇給額、賞与の仕組みがあり、自分の成長に応じて年収もどうなっていくかが明確です。

また、会社が求める業務スキルや専門知識・技術などを学べるテキストやマニュアル、研修体制も整っていて、自ら積極的に学べば学ぶほど会社が求める人材へ成長することができることがわかります。

さらに、自分自身に求められる具体的な仕事内容とレベルが明確に記された評価基準を渡され、昇進するためにはどのようなレベルが求められるか、どういったスキルをどのようなステップで身に付けていけばよいのかもわかるようになっています。

研修を終えて田中さんは「この会社だったら、やればやっただけ評価され、実力も描いたとおりに高めることができそうだ」と自分自身の将来を託してみることにしました。

1年が過ぎ、田中さんは新しい仕事にも慣れ、必要なスキルもマスターしながら部門のマネジャーからはすでに頼りにされる存在になっていました。そして、評価時期、その会社では自己評価を上司に提出し、直属のマネジャーと営業部門長の2人で上司評価を行うという仕組みでした。

もちろん、フィードバックの面談もあるのですが、その前に上司2人が評価結果のすり合わせをし、田中さんの実績や今後の課題をあらかじめ把握し、面談の手順も話し合ったうえで面談が行われました。とくにマネジャーは、田中さんに対する面談のストーリーを事前に決めて面談に臨んでいるようで、手元のメモを見ながら話しています。タイミングを見ながら田中さんに意見を求めたり、納得度を確認しながら評価結果を伝えられました。

そして、田中さんが驚いたのは、評価を伝えただけではなくその結果を踏まえた次の半期に取り組むべき課題や役割が明らかになったということでした。しかも、その課題をチャレンジシートというシートに記入、マネジャーに提出し、そこから毎月面談を行いながら田中さんの課題への取り組み状況の確認とアドバイスがもらえるという仕組みまで整っていたのです。

これからの企業に求められていること

田中さんは自宅に帰ると、奥さんにも自分の評価結果と経営計画を見せながら会社の将来性を力説しました。その結果、家族も会社に対する理解と協力、応援までもらえるようになりました。

田中さんは、さらに1年後には自分自身が評価者、すなわちマネジャーとなって組織成長の原動力となって、家族や地域に貢献していこうと決意を新たにしています。

ここまでの話は、実際私が人材育成のコンサルタントとして体験した実例です。

会社がどこに向かっていくかを「経営計画」として具体的に示し、「人事評価制度」に落とし込み、「経営計画」を実現できる人材づくりを推進していく「ビジョン実現型人事評価制度」という仕組みを500社以上に導入してきました。

昨今、働き方改革が叫ばれていますが、残業の削減や休暇の取得など、ルールにしばられた改革を優先している企業が大半だと実感しています。これと並行して、業績を維持しようとすると生産性の向上が必須となり、その対策に躍起になっていますが、大きな成果があがったという事例はあまり聞こえてきません。

私は、本稿でご紹介したような社員一人ひとりを大事にし、個人の将来も一緒に考え、そこに向けた成長支援をしていくことが企業に求められていると考えています。会社が業績を伸ばすことが社員の人生を豊かにすることにつながる仕組みを整えるほうが、最終的には大きく生産性を向上させることができるというのが、私自身の体験から得た結論です。

こうしたことから、

・経営計画が明確に示されているか
・人事評価制度を通じて前述したような人材育成を行っているかどうか
・それらによって自分の5年後、10年後のキャリアが描けるかどうか

これらが長く安心して働けるかどうかを見極めるポイントだといえるでしょう。