写真撮影/出合コウ介

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高齢者世帯が増加するなか、高齢者宅の空き室を低家賃で大学生に賃貸し交流する下宿サービス「京都ソリデール」が注目を集めている。高齢者の住まいには、高齢者が集うシェアハウス、シングルマザーとシニアによるシェアハウスなどシニアの知恵袋を次世代につなげる、シニア同士の生きがいを育んでいる、シニアの見守りを兼ねたさまざまな住まいの形が登場しています。京都府が2015年度から取り組む、下宿サービス「京都ソリデール」の住み心地とは? 実際の生活を高齢者、学生の両方にインタビューしました。

親でもなければ親戚でもない。だから、「口を出さないという気遣い」

ケース1/Yさんと谷口洋将くん(佛教大学・社会福祉学部2年生)

昭和45年に建てられた京都の趣のある住まいを15年前に購入したYさん。縁側に腰掛けて美しい日本庭園を谷口くんと一緒に眺める(写真撮影/中島光行)

賀茂川近くにお住まいのYさんと谷口洋将くん。Yさん宅の2階の一室を谷口くんが使い、家賃は光熱費込みで3万円。キッチンや冷蔵庫、トイレ、お風呂は共同、キッチンが空いていたら谷口くんはたまに自炊もするという。「月に一度くらい、一緒にご飯を食べることもあります」(谷口くん)

2階の1室を使う谷口くん。隣の部屋にも下宿人がひとり。個室以外はすべて共用になっている(写真撮影/中島光行)

Yさんが「京都ソリデール」を知ったのは、通っていた古典クラブ(京都府SKYセンター)の機関紙に掲載された広告だった。「説明会で話を聞いて、2階に部屋が2つも空いてることやし、使ってくれるんやったらいいわと思って。行政がやってるから、変な子は来ないやろ」と笑った。寂しかったわけでも、若い子が好きなわけでもなく、Yさんはすんなりとこの制度を受け止めた。「でも、友達は『私はできへん』ゆうてたなあ(笑)」(Yさん)

キッチンも共有で、冷蔵庫は上段が他の下宿生、中段が谷口くん、下段がYさんと分けている(写真撮影/中島光行)

ステキな中庭でお茶するYさん(写真撮影/中島光行)

佛教大学の社会福祉学部に通う谷口くんは、兵庫県明石の実家から2時間かけて通っていたが通勤ラッシュに心が折れて、一人暮らしを模索。そんなとき、1年生のゼミの授業の一環で「京都ソリデール」を紹介された。「大学の近くはマンションの相場が高くて6万円オーバー。ソリデールは、学校に近いところに住めて、家賃が安いと飛びつきました。社会福祉学部ということもあり、高齢者の方と触れ合うことは、自分の見聞を広げるのにも役立つし、何より面白そう!」

通常の「募集」「応募」という不動産や下宿と違うのが「京都ソリデール」。京都府から依頼されたマッチング事業者が間に立ち、学生、高齢者それぞれと面談し、「この人たちなら大丈夫」という方同士の面接を重ねて、双方が合意してから下宿スタート、というプロセスを踏む。お互い、誰でもいいわけではない。Yさんと谷口くんの場合、マッチング事業者の京都高齢者生協くらしコープがマッチングを担当。Yさん宅で面接後、谷口くんは両親とも訪れ、その場で決めたという。「Yさんの印象が自分がイメージしていた高齢者=お年寄りという感じでもなく、厳しい規則があったら無理!と思っていたらそれもなく、ラクな感じでしたね。近くに賀茂川のケヤキ並木もあり、すごくいい場所。両親もやりたかったらやればいいと後押ししてくれました」。一方、Yさんは「今回で3人目。たぶんいい人に決まってるやろ」と、笑顔で谷口くんを受け入れた。現在、Yさん宅には谷口くんとは別に、もうひとり下宿生がいる。

ルールは「うちに帰らないときは連絡する、勝手に出て帰って、寝る」ことだけ。「生活しながらルール考えよ」というフレキシブルさで、お風呂は閉まっていたら使わない、ご飯は炊きたい人が炊いて、誰でも食べてよし。「なんか珍しいカブトムシとか飼っているみたい(笑)。といっても観察するほど熱心でもないなあ。若い男の子はいっぱい食べるのかと思ったら、なんやカロリー計算とかしよる(笑)。最初は他人と暮らして自分の暮らしを乱されたくない、深入りしたくないと思っていたけど、一緒にいてたら不安がなくなってるなあ」とYさんが言えば、谷口くんも、「何かあったら助け合う安心感はある。世代が違う人と暮らしたことなかったので、いい経験になります。友達は『よーやるわ』と言いますが、友達が思うほどハードルは高くなく、窮屈さ、不便さは感じません」。谷口くんは、2時間の通学時間から開放された分、土日のゼミ活動で地域の高齢者宅を訪問したり、介護福祉士の実務経験にカウントされる特別養護老人ホームでアルバイトをしたりと、専門の福祉に邁進中。「高齢者の方に話を聞いてニッコリ笑って、僕はやっぱり人が好きなのかなーと思っているところです」

実家ではご飯を炊いた経験がなかったが、今は炊いているという谷口くん。Yさんがつくってくれた和菓子を食べることも。「僕はナッツがダメで洋菓子アレルギー。これ、特養(特別養護老人ホーム)ではウケがいいです(笑)」(写真撮影/中島光行)

下宿との大きな違いは距離感。「子どもや孫じゃないから、『ちゃんと勉強している』とか言わなくてもいい、聞かなくてもいい。ニッコリ笑ってくれる。それだけで、いい」とYさん。谷口くんも「親戚ではないけれど、知っている人という感じ。あれこれ聞かれないし、いい距離感だと思います。誰でもいいわけじゃなくて、Yさんだから大丈夫だったんだと思います」。近くに住むYさんのお子さんも「見てくれて、ありがとうございますと言いたい。一人暮らしで何かあったら谷口くんから連絡してもらえるのがうれしいです」と安心されているようだ。

(写真撮影/中島光行)

格子戸に趣のある庭園と、京都らしいステキな日本家屋(写真撮影/中島光行)

「高齢者に何かあったときは、自分が対応するという覚悟」も込みで

ケース2/岩井さん夫妻と藤本慎介くん(同志社大学大学院・総合政策科学研究科)

庭の「ふじばかま」や「ほととぎす」は岩井さん(夫)が丹精こめてつくったミニ里山(写真撮影/出合コウ介)

岩井さん夫妻と藤本くんの場合、お互いに決めるまでに、1週間のお試し期間を設けた。「藤本くんの前に来られた女子学生の方は、ご両親と一緒に面接させていただいたのですが、どうも料理や門限まで面倒を見る昔ながらの下宿と思ってらっしゃるようで、そこまではできないからとお断りして。しっかり話をしないとダメだと思い、藤本くんの場合は1週間の期間を設けました」。藤本くんは、「1週間は気を使いすぎず、僕の悪い部分、例えば掃除しないところなどもしっかり見せました(笑)。玄関やキッチン、トイレも別々だし、お互い生活のリズムを崩したくない。たまに時間が合うときにしゃべるくらいの距離感がいいね、と話が落ち着きました」。岩井さん(妻)は「あまりにも掃除していないときは、私がたまに藤本くんの部屋を掃除してるけどね」と笑って教えてくれた。

(写真撮影/出合コウ介)

(写真撮影/出合コウ介)

玄関とキッチン、トイレは別々とかなり恵まれた環境。「最初は自炊していたけど、今はあまりしてないですね(笑)。DIYが得意な岩井さん(夫)は、キッチンスペースを広げてくれたり、生活に不便なところを直してくれます」(藤本くん)。岩井さんの祖父の代は金襴の織り屋さんで、もともと母屋、中庭、離れ、工場が建ててあったという。「昔は機の音がしてたんですよ」(写真撮影/出合コウ介)

このあたりは織物の職人の町で、岩井さんの家系も、もともと織り屋さん。自身はリフォーム会社を経営しており、それを辞めたときに事務所だった場所を改装。「玄関や水まわりが住まいとは別にあったので、民泊や民宿なども考えていました」。そんなとき、情報紙「リビング京都」に掲載されていた「京都ソリデール」に興味を示し、京都府から説明を受けた。「別々に生活できるので、決まればいいし、決まらなければ民泊や民宿にしてもいいかなって思って」と気軽な感じだったという。

ふたりの朝は早く、朝7時半におばあちゃんをデイサービスに送り出し、その後仕事に出かける。「お風呂だけ共有なので、藤本くんの『ただいまー』、私たちの『お風呂どうぞ』が日常会話になっています。台風のときなど何かあるときは、みんなで集まりましたね」(岩井さん(妻))(写真撮影/出合コウ介)

藤本くんは、総合政策科学研究科でまちづくりや地域の関係性などについて学んでおり、大学院のNPOと行政等の協働実践演習の授業で、「京都ソリデール」を担当する京都府の職員・椋平芳智さん(京都府建設交通部住宅課)と知り合い、今では「京都ソリデール」を推進する学生メンバーだ。「最初は高齢者と住むことにイメージがつかなかったのですが、大学に近いところに住みたいと思って。光熱費込みで2万5千円と家賃が安いのも魅力ですし、この新しい体験が何かしら研究につながっていくだろうと。何より話のネタになる(笑)。もう勢いです!」

朝早い岩井さん夫妻、夜遅い藤本くんと「生活のリズムがまったく違うんです」と藤本くん。まちづくりプロジェクトで家庭菜園を地域に根付かせる活動をしているので、「自分でもやらないと」と、岩井さんの庭の片隅で家庭菜園にチャレンジし、岩井さんから手ほどきを受けるなど、普段から交流しているよう。「一番最初につくった小松菜とラディッシュは、知識もなくやったものだから大失敗」と藤本くん。「少し採れておひたしにしたけど、小松菜の『こ』くらい。めちゃ小さかった」と岩井さん(妻)は笑う。また、町内会にも参加し、地蔵盆もお手伝い。「僕はマンション暮らしだったので、回覧板も新鮮で。地域の和に入れてもらえるのもうれしいですね。自治会という組織のあり方も勉強させてもらってます」。地域の人とかかわってみた感想は?「世代ならではのノリみたいなものがあって、それを習得してスムーズにコミュニケーションが取れるようになりました。思ったより人間同士というか、ちゃんと人を見てくれてるな、って思います。若いとか高齢者とか、枠組みをつくっているのは自分たちで、それをとっぱらってみると基本的な人づきあいができる、ということが分かったのも収穫です」

(写真撮影/出合コウ介)

ほうれん草やサラダ菜を育てる藤本くん。「間引き方、育て方などを教えてもらってます。帰ったら野菜をのぞきに行き、よく岩井さんとしゃべってますね」。岩井さんの里山にはチョウチョもよくやってくる(写真撮影/出合コウ介)

スマホで情報交換!岩井さん(夫)は丹精込めた里山の花やチョウチョを写真におさめてコラージュしている(写真撮影/出合コウ介)

岩井さん夫妻のお宅には要介護5のおばあちゃんがいらっしゃる。「以前、母が『あーーー』と叫んだことがありました。これは介護をしていたらよくある話で、藤本くんがどう思ったのか不安でした」と岩井さん(妻)。藤本くんは一瞬びっくりしたようで「どうしていいか分からず、あとで『大丈夫ですか?』と声をかけました。あれでよかったんですかね」と問うと、岩井さん(夫)は「あとで声をかけてくれたのがよかった」とおっしゃったのが印象的だった。「高齢者と暮らすと、こういうこともある」という現実と経験、一緒に暮らす高齢者が何かあったときには、自分が対応しないといけないという覚悟。これも込みで、「京都ソリデール」なのだ。

2016年度から事業開始した「京都ソリデール」。「住む」+αを生み出す制度への成長に期待

左から、京都ソリデールの活動をする学生メンバーの和田さん、マッチング事業者の片木さん、学生メンバーの西原さん、京都府職員の戸川さん、岩井さん夫妻、藤本くん、京都府職員の椋平さん(写真撮影/出合コウ介)

京都府の少子化・人口減少対策の総合的戦略として策定した京都府地域創生戦略に基づく新しい住宅施策として、高齢者宅の空き室に低廉な負担で若者が同居・交流する次世代下宿「京都ソリデール」事業が創設されたのが、2015年度。「2015年度に国内外の先行事例を調査し、2016年度から京都市内で事業開始。マッチング事業者へ業務委託、京都の地域メディアを使った広報や公民館や大学での説明会などから高齢者、大学生の希望者を募集しました」(京都府職員の椋平さん)

その後、2017年度に北部、南部地域へ、2018年度には中部地域へと拡大した。2019年9月30日の時点で、27組(2017年3月末:4組→2018年3月末:8組→2019年3月末:21組→令和元年9月末:27組)マッチング、応募は2016年度:高齢者11世帯 大学生等17人、2017年度:高齢者22世帯 大学生等30人、2018年度:高齢者32世帯 大学生等31人となっている。その反響は?

「希望する高齢者や大学生の同居成立が、少しずつ、そして着実に増加傾向にあります。作業療法学(認知症分野)の教授、高齢者福祉学(社会的孤立対策分野)の准教授からも評価いただき、テレビ・新聞・業界紙等などの取材も増えていますね。(2018年でテレビ5回、新聞5回、業界紙2回)。高齢者と学生の間にマッチング事業者が入りますが、同居成立が今後増えていくことを考えると、それに対応できるマッチングシステムが必要になる。事業者間の交流促進も今以上に必要になってきますね。また、将来的には民間が主体となり、業務を実施するカタチへの移行を検討しています」(京都府職員の椋平さん)

マッチング事業者の応用芸術研究所の片木さんは、「高校を卒業したての大学生にソリデール制度の活用は難しいかもしれません」と語る。岩井さんが最初に断った女子学生のように、下宿や里親をイメージしているとうまくいかない。ある程度「自立」して初めて成り立つシステムなのだ。「マッチングするポイントは立地や条件はもちろんですが、高齢者の得意とすること、学生が学んでいることをしっかりとヒアリングすることが大切です。岩井さん(夫)はリフォーム会社を経営していただけに、DIYが得意で庭いじりが大好き。藤本くんは街の生活に入り込むことが専門学だし、家庭菜園を地域に根付かせるプロジェクトをやりたいと思っていたからこそ、岩井さんと藤本くんはマッチングできたと思います」

空室を活かしたい高齢者と、一人暮らしの高齢者を案ずるその子どもたち、経済的に厳しく、かつ経験を積みたい学生。そんな人々を、事業者が十分なヒアリングを行って繊細にマッチングする「京都ソリデール」。行政主導から学生自身も「京都ソリデール」を広める活動に参加し、大学近くに住みながら、高齢者と交流しながら、地域や学業にコミットする。次世代下宿とは、「ひとつ屋根の下に住む」から、「住む」+αの効果を生み出す制度への発展ではないだろうか。そんな志が感じられる「京都ソリデール」、今後の動向にも注目したい。

●取材協力
京都府
(高村多見子)