メーカー直資系ディーラーによる地場資本系の統合が目立つ

 街なかには、さまざまなメーカーの系列ディーラーが存在する。世の中の結構な数のひとたちは、このような新車ディーラーを「メーカー本体組織の一部」と勘違いしているひとが多い。しかし実際は「系列ディーラー」と前述したように、別会社として存在し、メーカーから看板を借りメーカーから新車を仕入れて販売する、販売代理店的存在だ。

 新車ディーラーには「地場資本系」と、「メーカー直資系」のふたつに大別することができる。前者は地元の名士(大地主など)や、もともと根付いていた有力企業の経営者、有力整備工場などがオーナーとなり、ディーラーを経営している。後者の場合は、メーカー本体とは別会社となるものの、資本関係や人的交流(メーカーからの出向など)の関係がある、メーカーの子会社的立場とのディーラーということになる。

 日本の新車ディーラーは、メーカーとの販売代理店契約を結ぶ際に、各都道府県の全域やその一部などで専売できるケースがある一方、都市部を中心に同一地域内にメーカー直資も含み、複数の資本の異なるディーラー(販売会社)が存在するケースもある。

 日本は少子高齢化に歯止めがきかないことなどもあり、新車販売市場は縮小傾向が続いている。そのなかで新規の免許取得人口も減少、さらに都市部では「クルマ離れ」が顕著となり、今後もバブル期のような勢いに戻ることはまず考えられない。

 そこで最近は、都道府県横断的にメーカー直資系ディーラーが、新車販売を展開するケースが目立ってきている。たとえば、東京にあるもともとメーカー直資系ディーラーが、埼玉や群馬の地場資本系ディーラーを統合し、東京、埼玉、群馬でひとつの販売会社として店舗運営を行い、新車販売を行うことで効率化をはかっているのである。地場資本系ディーラーでも、他県の販売会社を買収し、複数の都道府県で新車販売ビジネスを展開するケースはあるが、メーカー直資のそれはやはりスケールが異なる。

メーカー直資系はコストが削減できる分値引きは大きめ

 前述した例でいけば、3つの都県で新車販売をするのだから、スケールメリットがかなり多くなる。工場からの配車などの物流や在庫管理コストなど、スケールが大きければ大きいほど、コストを押さえることもでき、当然仕入れる新車の量もかなり多くなるので、仕入れ値的な部分でも、調整がきいているとの話もあり、そのようなコスト削減の恩恵として、値引きアップに反映されていると考えていいだろう。つまりメーカー直資系ディーラーのほうが、値引きアップを引き出しやすいとされるのが一般的となっている。

 またメーカーと資本関係があるので、ときには新車販売実績を優先し、採算をある意味度外視した販売促進をしてくることもある。つまり、地場資本系ではしっかり利益を確保しながら販売していかなければならないので、車種や期間は限定されるものの、メーカー直資のディーラーとは提示される値引きで大差がついてしまうことがあるのだ。

 購入時の値引きをより期待したいというならば、メーカー直資系ディーラーがやはり魅力的といえる。

ディーラーとの深い付き合いを望むなら地場系が有利

 ただ、そんなに良いことばかりではない。メーカー直資系ディーラーには、メーカーから出向してきてセールスマンをやっているひとがいる。このようなひとたちはディーラーにいながらにして、メーカー本体に籍があるのが一般的。そのため短いサイクルでメーカー本体に戻ったり、メーカー直資ディーラー間を異動するケースが目立っている。いまどきは、新車販売セールスマンも新入社員時を除けば、退職は以前よりはるかに少なく定着率が高い。そのなかで、メーカー直資系ではメーカーから出向してきたセールスマンが担当になると、すぐに担当セールスマンがいなくなることが多いので、長くその店とつきあうということが難しくなる可能性が高い。

 メーカー直資系ディーラーは、店舗の規模が大きいケースも多いので、そうなると、新車販売と購入後のアフターメンテナンス窓口が完全に異なることにもなりかねない。新車販売業界では、はるか昔から担当セールスマンがいなくなると、単純なメンテナンス客という扱いになりやすい。担当セールスマンがいれば、いざ何かあっても直接連絡して対処してもらうことも可能だが、担当セールスマンがいなければ、いちいち杓子定規にサービスフロントに話を通さなければならない。新車販売担当から見れば「客であって客にあらず」というような立場になってしまうので、結果的にあまりいい買い物をしたという気分にはならないだろう。

 単純に値引き条件だけを追い求めるならば、メーカー直資系ディーラーが効率的だが、値引きはそこそこでいいから、セールスマンや店と長くつきあっていきたいとなると、地場資本系ディーラーとなる。

 しかし、これはあくまでも一般論。直資系ディーラーでも人間的つきあいは可能だし、地場資本系が必ずしも人間的付き合いがより深くできるかと言えばそうでもない。ただし、今後は販売現場での人材不足が深刻化し、市場規模もさらに縮小していくので、メーカー直資系だけでなく、各地域の有力地場資本系ディーラーが、都道府県横断的にディーラーを統合して店舗運営を進めていく傾向はより強まっていくことが考えられる。

 新車販売の利益だけでは新車ディーラーを経営していけないのがいまの新車販売の世界。スケールメリットを追求していかないと、ディーラー存亡の危機的状況となっているといっても、けっして大げさではないのである。