【郄橋 洋一】「桜を見る会」批判があまりに的外れな理由 確かに、改めるべき点はあるが

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「芸能人逮捕」との関係を言う人もいるが

野党は、今年4月に安倍総理が主催した「桜を見る会」について、税金の私物化だと追及する動きを強めている。と思っていたら、菅官房長官は13日の記者会見で、招待者の基準の明確化など全般的な見直しを検討するとして、来年の開催を中止することを発表した。野党が追及チームを立ち上げようとした矢先、安倍政権のリスク管理で機先を制する形になった。

それでも野党は、桜を見る会の前日に行われた「前夜祭」について、「会費5000円は安すぎる」「政治収支報告書に記載されていないのはおかしい」などと批判している。

どこまでも「疑惑あり」という野党の印象操作の感がある。15日の安倍首相による会見を聞くまでもなく、ホテルと交渉することを考えれば、5000円の会費は異常な廉価ともいえないし、ホテル代や交通費などで安倍事務所側の負担がないなら、収支報告書に記載する意味も乏しい。

ネット上では、沢尻エリカ容疑者の逮捕を受けて、「政府が問題を起こすと芸能人が逮捕される」と言う芸能人まで出てきたが、これが「問題」と言うべきかというそもそも論があるうえ、政治については常に野党が「政府与党の問題」に仕立てたいと奮闘しているし、一方で芸能人の逮捕は毎月のように起きているので、両者の間に因果関係があるという主張は無理があろう。

「桜を見る会」は、1952年から、例年4月に新宿御苑で行われる内閣総理大臣主催の公的行事である。その前身は、天皇主催で1881年から開催されていた観桜会だ。現在の「桜を見る会」は、総理が各界において功績、功労のあった方々を招き、日頃の慰労をするとともに、親しく懇談するための内閣の公的行事として開催しているものだ。

もちろん、民主党政権の時も行われている。これを批判し報道しているマスコミ関係者も数多く参加してきた。

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実は筆者は「桜を見る会」に参加したことがないが、参加者に聞くと、食べ物などのお土産が出るという。しかし、費用はせいぜい1000円程度だろう。

今年は、1・8万人が参加し、予算は総額5500万円という。一人当たり3000円程度だ。予算の多くは警備や会場費用に当てられるので、お土産代1000円というのは社会的儀礼の範囲だ。地元の後援会の人を招いたというが、交通費はそれぞれが負担すれば法的な問題はない。

筆者のように数字ばかり見る人間にとって、5500万円の予算を野党が一斉に「税金の無駄遣い」と非難するのは、会計の重要性原則からみれば的外れだ。

運営の杜撰さは改めたほうがいい

会計の重要性原則には、質的なものと量的なものがある。質的には問題となりうるが、「桜を見る会」にはこれまで60回以上平穏に開催されてきたという過去の実績もある。

量的には、国家予算100兆円の僅か0.00005%にすぎない。この程度の金額は、先日森ゆうこ議員が国会での質問通告を遅れさせ、霞が関官僚が残業せざるを得なくなったために被った1日の無駄金と同じだ。質問通告の時間厳守を維新の会のようにルール化すれば、国会会期が150日とすると、こちらのほうが100倍以上も有益だ。

ただし、前身の観桜会を含めれば130年以上も続いた歴史的伝統行事として、「桜を見る会」を国民が受け入れているかどうかがポイントである。

招待客には、政治家向けに一定の枠も設けられていたようであり、時代にふさわしいように再来年から簡素化・廃止という選択肢もあり得るが、ここは招待者の選定基準をしっかり見直し、歴史と伝統を受け継いでもらいたい。

この意味で、官房長官が記者会見で述べた招待客基準の見直しなどの対応は、時宜を得たものである。ここで一度立ち止まって原点に帰り、杜撰な運営を改めるほうがいい。

筆者が関係者に聞くと、招待客の入場時にはきちんとした身元確認もなされていないという。これは、セキュリティの観点からも問題がある。これでは、仮に招待者リストがでてきても、それが実際の入場者には必ずしも一致しないわけだ。

なにより、こうした問題で国会の時間が費やされるのは国民にとって好ましくない。

さらに、実は筆者らにとっても、今回の決定は朗報だ。最近の本コラムで、筆者は森ゆうこ議員ら(国民民主党)のとんでもない国会質疑と、原英史氏の自宅住所を公開するなどの暴走について書いている(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68348)。そのたびに原氏らは抗議しているが、謝罪もない。「桜を見る会」への追及によって、森議員の問題がフェードアウトするおそれもある。

こうした点から、森議員らの「逃げ得」を許さないためにも、今回の「桜を見る会」の見直しはいいタイミングであると思う。

それよりも国会で議論すべきこと

今国会では、補正予算など国民生活に直結した緊急課題をもっと議論してほしい。筆者は、野党がマイナス金利を利用して「100兆円基金」を提案し、インフラ整備や研究開発投資などを主張してくれたら評価するが、そうした議論が行われないことに落胆していた。すると、11月7日の参議院財政金融委員会で、渡辺喜美議員の質疑があった。このような議論を今国会でもっと広げるべきだ。

渡辺議員の質疑をインターネット動画から再現すると、重要な箇所は以下の2つだ。まずはマイナス金利の活用である。

○渡辺喜美君 例えば、この前首里城が焼けましたけれども、例えば8年国債、8年債を出すと、これ11月1日現在、ちょっと古いんですけれども、マイナス0・3%ですね、8年債はね。で、仮にゼロクーポンとすると、これを1兆円出すと、発行収入は、8年間ですから8、3、24、240億円、1兆240億円。このうち1兆円を8年間塩漬けにして8年後の償還財源とすると、首里城再建に240億円の財源ができてしまうということですよ。こういう具合に、国債発行が将来のツケにならないどころか、今現在の世代のギフトになるということがあるんですね。

(中略)いまだに2%が達成されていないのは、もうはっきり言って増税のせいですよ、これは。だから、もうこれは補正予算でもって、まず国債発行枠、授権枠を広げると。後はマーケット相手にやればいいじゃないですか。どうですか、大臣、補正予算。

○国務大臣(麻生太郎君) 御意見として伺っておきます。

つまり麻生大臣は、マイナス金利で国債発行すると首里城再建の財源作りになるという具体例まで出し、ゼロ金利まで国債を無制限発行するという渡辺議員の提案について「意見として聞いておく」と発言せざるを得なかった。この答弁はつまり、「ロジカルには渡辺議員の意見を否定できないが、今は勘弁してくれ」という意味だ。政府への攻めどころである。

本来であれば、日銀はもっとマイナス金利のメリットを政府に説明すべきだ。しかし、財務省出身の黒田総裁は積極的でなく、むしろ消極的にすら見える。2017年11月のスイスでの講演で黒田総裁は、金利の引き下げは金融機関収益に問題を与えるので引き下げには下限があるとする「リバーサル・レート論」を引き合いに出したのだ。

この理論は、筆者から見れば、マイナス金利でも国債増発しない財務省のような非合理的主体の存在を前提としているようだ。そうした非合理性がなければ、そもそも金利がマイナスになりにくい。マイナス金利なら、国債増発を財務省にやらせた上で、こうした新理論を議論すべきではないか。

地方創生にも活かせる

なお、このマイナス金利の手法は地方創生のためにも活用できる。地方自治体は、財政投融資制度を使って国から借入をできる。その際、国から地方自治体への貸出金利は財務大臣が決める。

財政投融資制度で国は儲ける必要はないので、この貸出金利は調達金利と同じである。国は財政投融資資金を財投債という国債で調達できるので、地方自治体への貸出金利はマイナスにしてもいいはずだ。そうすれば、マイナス金利のメリットを地方自治体も享受でき、地方創生の助けにもなる。

国から地方自治体への貸付枠は、特別会計予算の予算総則19条に定められている。今年度は2・9兆円だ。ただし弾力条項があるので、補正予算なしでその半額の1.4兆円までは増額できる。いうなれば、財務大臣が国から地方自治体への貸付金利をマイナス(財投債金利と同じ)にすれば、すぐにも地方自治体はマイナス金利のメリットを受けられる。

もっとも、今国会で折角補正予算を出すのであれば、この際、特別会計予算の予算総則も見直して、50兆円程度の枠を設定し地方創生に充てたらいいだろう。

財務省は「マイナス金利の貸付は法的にできない」と詭弁を弄して抵抗するだろうが、筆者は大蔵省時代に、今の財政制度の制度設計をした経験がある。

そのときには「中興の祖」といわれたものだが、その筆者からみれば、調達金利と貸付金利を同じにするというのは伝統的に財政投融資がやってきた手法であり、この手法を継続するのは法律上もまったく問題ない。

公共投資を3倍以上に増やせる

次は、今の公共事業採択時の割引率の問題だ。再び渡辺議員の質問を見てみよう。

○渡辺喜美君 国交省に聞きますけど、何でこんな御時世に、金利がマイナスなのに、BバイCの割引率は4%なんですか、教えてください。

○政府参考人(東川直正君) 事業評価におきます費用便益分析につきましては、外部有識者会議での議論を踏まえまして、公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針を平成16年2月に国土交通省が策定しております。議員御指摘の社会的割引率の設定を含む国土交通省における統一的な取扱いを定めさせていただいているところでございます。

その指針の中におきましては、社会的割引率でございますけれども、10年物の国債の実質利回りや海外の費用便益分析における設定状況などを勘案して、全事業統一的に4%と設定したところでございます。

○渡辺喜美君 あのね、国交省の資料は、当然これは公開されていますから、私も見ましたよ。4%の根拠、何て書いてあるかというと、国債の実質利回りが参考値として用いられていると。国債の実質利回りというのは、10年物とすれば、名目利回りからGDPデフレーターを割り戻した後の数字ですよ。これ、いつ頃の資料だって、見たら、これ平成14年頃、今から15、6年前じゃないですか。今、数字はどうなるんですかって聞いているんですよ、私は。4%ってあり得ないでしょう。いかがですか。

○政府参考人(東川直正君) 社会的割引率を4%と設定いたしましたのは平成16年のマニュアルでございまして、その際には14年から16年の時点での議論をしたところでございます。最近、学識経験者の方からは、4%は実質金利と懸け離れているために実態と合っていないのではないかという意見もある一方で、割引率を変えると過去の事業との比較ができなくなるというような意見もあるところ、様々な意見があるところでございます。社会的割引率の妥当性につきましては、学識経験者などで構成される公共事業評価手法研究委員会などにおきまして今後も引き続き議論してまいりたいと考えております。

これもいい質疑だ。渡辺議員が公共事業のB/C(費用便益分析)の割引率4%問題を指摘したら、国交省は「15年ほど見直していないが、有識者で議論する」と言わざるを得なかった。

先日の本コラムでも指摘したように、割引率4%は今の金利環境では高すぎて、日本の公共投資を過小にしてきた。まともに見直すと、採択可能な公共事業は今の3倍以上に増えるだろう。これは、ここ数年間6兆円程度で推移してきた建設国債について、20兆円以上は発行できることを意味する。

建設国債とは、財政法4条1項の但し書きの規定により発行される国債だ。その上限枠は、毎年の一般会計予算の予算総則6条に定められている。

B/Cの割引率を見直すことによって、公共事業の採択が増えたら、その分の建設国債を発行できる。そのためには、一般会計予算の予算総則6条を見直す必要がある。是非とも、今国会で予定されている補正予算に取り込んでもらいたい。

「MMT」よりも効果的な方法

さらに、マイナス金利を生かして、マイナス金利部分だけの利益を受けるのもいいが、折角のチャンスであるので、インフラ整備や研究開発投資のために100兆円程度の基金を設けるのも、将来投資となるので日本経済のためには時宜を得た政策だ。

ちなみに、これまでの話は最近はやりのMMT(現代貨幣理論)とは無関係だ。一部の野党でMMT(現代貨幣理論)がもてはやされているが、その思想を説明するよりも、実務的にはロジカルに割引率を見直した方が、公共事業の拡充には早道である。

この割引率問題を直さずにMMTなどの思想に走るのは、本質からズレているといわざるを得ない。MMT思想をいくら主張しても、実務においては割引率を是正しないと公共事業を行うことはできないのが真相だ。