11月4日まで開催された東京モーターショーに出展された次期ハスラーのコンセプトモデル(撮影:尾形文繁)

10月24日から11月4日まで開かれた東京モーターショー。電機やIT業界など異業種も巻き込んだ総力戦を展開し、来場者は130万人と前回2017年の77万人から7割も増えた。そんなモータショーでプレス向け発表のトップバッターを飾ったのがスズキ。中でも目を引いたのが次期「ハスラー」のコンセプトモデルだ。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

今回、スズキがお披露目した「ハスラー コンセプト」はコンセプトを名乗りながらも、発売間近とも思える完成度合いだ。ハスラーといえば、2013年の東京モーターショーで初代が発表され、軽×ワゴン×SUVという今までにないジャンルを切り開いたクルマだ。発売当初は国内で月販1万台を達成するなど、人気車種の仲間入りを果たした。

初代ハスラーの特徴は「遊べる軽」をキャッチフレーズにビビッドな色合いと丸みを帯びたデザイン、軽自動車に似合わない走破性と車内の広さ。マイナーチェンジや限定車種投入を積極的に行い、遊び心を存分に刺激してきた。

武骨さを取り入れたデザイン

そんなハスラーの次期モデルとして披露された今回のコンセプトモデルだが、初代からいったい何が変わったのか。これまではエクステリアを中心に「かわいさ」を前面に出してきたハスラーだが、今回のコンセプトモデルはフェイスには丸みがあるものの、全体として角張った「武骨さ」を取り入れるなど雰囲気を刷新。ビビッドな色味は残ったが、全体としてはアウトドア向け路線が前面に出ているのが特徴だ。


2014年1月に発売された初代ハスラー(写真:スズキ

スズキの鈴木俊宏社長は「(ハスラーコンセプトは)少し角ばらせてみてはどうかな、というのはあった。だが、デザイン的にはハスラーのアイコニックなところを引き継いでいて、『いいね』との評価をいただいている」と両立に自信をのぞかせる。

こうしたアウトドア向けのデザインは、スズキの人気車種「ジムニー」に通ずるものがある。この点について、ハスラーコンセプトの開発を担当した竹中秀昭チーフエンジニアは、「ジムニーを買う人は基本的に本物志向。あくまで軽自動車であるハスラーとはターゲットが違う」と強調する。


かわいさにも磨きをかける次期ハスラー(撮影:尾形文繁)

追求するのは「かっこよさ」だけではない。「かわいさ」にも磨きをかける。オプションとして、車体に柄を追加できるステッカーも発売する。これを使うことで、簡単に車体デザインを変えて遊べる、というものだ。「これまでもハスラーは限定車やマイナーチェンジを積極的に行い、ほかと被らない個性的な車になるようにしてきた。それを強化する」(竹中氏)。

競争激しい国内の軽自動車市場

目下、国内の軽自動車市場における競争は激化の一途をたどる。移動手段としての意味合いが強い安価な小型車は、価格勝負となることが多い。スズキは過去にダイハツとの苛烈な販売台数争いを繰り広げたが、利益の健全化を優先しこの戦いから撤退。近年は広い車内空間などに強みを持つホンダの「N-BOX」が車種別で販売トップをひた走るほか、メーカー別ではダイハツがトップを維持する。

スズキは長年、アルトやワゴンRなど、どちらかといえばデザインの個性が弱い車を主力としてきた。安さが求められてきた小型車市場ではある種、当然のことだが、ニーズが多様化する中で、いかに個性を打ち出せるかがスズキの課題でもあったのも事実だ。

また、競争の軸がCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に移り、各自動車メーカーのリソースが逼迫する中、協調領域も増えている。スズキは業務提携先のトヨタと、今年8月に資本提携に踏み切った。互いの独立性を担保しつつ電動化技術などで共同開発を進める一方、トヨタ傘下のライバルであるダイハツとの差別化は欠かせない。それだけに競合にはないデザイン性や実用性が強みのハスラーは貴重な存在だ。


スズキの鈴木俊宏社長は次期ハスラーについて「月販1万台を目指す」と話した(撮影:尾形文繁)

初代ハスラーは2014年1月の発売から約6年にわたり、マイナーチェンジのみでフルモデルチェンジがなかった。国内の一部販売店からは「デザイン性で当たった車種のフェイスを変えて、売れなくなるのが怖いのではないか」との声も聞かれた。

こうした声を踏まえると、次期ハスラーで打ち出した姿形は大きな決断と言える。鈴木俊宏社長は「経済状況もよくないので、(初代ハスラー発売当時の)月販1万台を目標としたい」と話す。ハスラーのような個性を前面に出したクルマが、今後のスズキの行く末を左右しそうだ。