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いびつな失業率

韓国の経済指標を見ていると、やや違和感を持つことがある。

その一つが労働市場に関する数字だ。

韓国景気は明らかに減速しているはずだが、完全失業率が幾分か改善している。

特に8月の改善幅は大きかった。

通常であれば、景気が減速するのであれば、雇用環境は悪化し失業率は高まることが多い。

ところが韓国の指標をみると、景気が減速して失業率が低下している。

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その背景には、文政権が高齢者の短期雇用を増やしていることが影響しているとみられる。

それと反対に、働き盛りの若い世代では雇用状況は明確に悪化しているようだ。

若年層の失業率はかなり悪化しているといわれている。

そのため、韓国の労働市場はかなりいびつな状況になっていると考えられる。

若年層には不満がたまりやすいことが想定される。

また、30〜40代の雇用状況は、消費を中心に経済全体に大きく影響する。

今後、韓国経済の減速に伴い、中小企業などには更なる下押し圧力がかかると、国民の間に不安や不満が蓄積することが考えられる。

「失業率低下」の実態

1月、韓国の完全失業率は4.4%だった。

それ以降、完全失業率は多少の変動を伴いつつも低下している。

しかし、完全失業率の低下は、韓国経済の実体を適切に表しているかというとやや疑問符が付く。

雇用増加のかなりの部分が、文政権による高齢者の雇用促進策によって、ある意味、かさ上げされているとの見方もある。

完全失業率とは、労働力人口に占める完全失業者の割合をいう。

完全失業者とは、就業しておらず、職があればすぐに働くことができ、求職活動をしている人のことを言う。

この定義をもとにすると、完全失業率の低下は、働く意欲を持つ人が職を得、経済の活力が徐々に盛り上がりつつあることを示唆する。

年初来、韓国では60歳以上の雇用が増加基調となってきた。

政府の資料によると、1〜3月期、韓国全体で雇用者数は前年同期比2.8%増加した。

増加の要因として、全就業者の11%程度を占める60歳以上の就業者が約16%増加したことが大きい。

政府が子供見守りなど、ごく短期の就労機会を提供し、年後半に入っても60歳以上の雇用は増加している。

通常、60歳を超えると、徐々にリタイアする人が増える。

更に、韓国の経済は減速が鮮明だ。

対照的に、就業者全体の約50%を占める30〜40代の就業者は減少傾向にある。

これは輸出減少などを受けた韓国経済の減速と整合的だ。

経済の基本的な仕組みや景気動向を考えると、年初来の完全失業率の低下は持続的なものとは言いづらい。

「雇用情勢」の不安

今後の展開を考えたとき、韓国の雇用情勢は不安定に推移する恐れがある。

昨年7月、文政権は、残業時間を含む週間の労働時間の上限を68時間から52時間に短縮した。

これは、政府主導による最低賃金の大幅な引き上げとともに、韓国企業の経営を圧迫してきた。

来年1月、韓国の中小企業(従業員50〜299人)にも週52時間労働が適用される予定だ。

労働時間の短縮を控え、中小企業経営者からは、政府主導で最低賃金が引き上げられたうえ、労働時間が短縮されると十分な収益を確保することが難しくなるとの懸念が表明されている。

「更なる負担には耐えられない」というのが彼らの本音だろう。

政府はそうした懸念に配慮し、一部企業に労働時間の延長を認める特例措置などを検討しているようだ。

ただ、左派政権下で労働争議が激化する中、経営者に配慮した政策がどの程度の効果をもたらすかは不透明だ。

世界的なサプライチェーン寸断から、韓国の輸出が更に減少し、景気減速が深刻化する可能性もある。

加えて、賃金コストの増加と操業度の低下などから、企業が収益確保のために追加的に人員を削減しなければならなくなることもあるだろう。

文政権の政策スタンスは、企業の活力を高め生産性の向上を目指すという主要国の発想とは異なっている。

経済の専門家の中には、文政権が財源を用いて高齢者などの雇用を増やし、それに押し出されるようにして若年層など他の世代の雇用が失われていると指摘する者もいる。

韓国労働市場の先行きは楽観できない。