現役時代、巨人、日本ハム、DeNAなどで活躍した林昌範氏【写真:編集部】

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1年目の秋季キャンプ、阿波野2軍コーチの言葉が翌年の1軍デビューにつながる

 林昌範です。各球団の若手が秋季キャンプで鍛錬の日々を過ごしています。この時期は個々の技術のレベルアップに時間を割くことができます。巨人では新たに就任した石井琢朗野手総合コーチのユニークな練習方法が取り上げられていました。打者ともう1人のサポート役の腰回りにベルトを巻き付け、1本のゴム製のチューブでつなげて、打者がスイングしてミートする際に本塁後方にいるサポート役がチューブを自らの方向に引っ張っていました。ティー打撃やロングティーで不安定な体勢の中、体幹を使う打撃練習で、こんな練習方法があるのだなと驚かされました。

 プロの世界で結果を出すために、創意工夫は選手にとって必要な要素です。私は高卒で巨人に入団しましたが、プロ1年目はファームで12試合に登板して防御率6.38。1軍での登板機会は当然なく、自分の無力さを知らされました。変化球でストライクが入らず、カウントを悪くして苦し紛れに投げた直球を痛打されることの繰り返し。当時は左腕を振ることだけしか頭になく、変化球をどう投げるかなどの意図がありませんでした。

 やるべきことに気づいたのは1年目オフの秋季キャンプで、阿波野秀幸2軍コーチ(現中日1軍投手コーチ)の助言でした。阿波野さんには「右打者の内角に投げるスライダー、フォークの精度を磨くように」と声をかけられました。これまではスライダー、ほとんど投げたことのないフォークをどのコースに投げるかなど考えていませんでしたが、この秋季キャンプでカウントを取るスライダー、ファウルを打たせるスライダー、決め球のスライダーの習得に励みました。

 フォークもカウントを取る球、空振りを意図した球と投げ分けるように心がけました。技術はまだまだ未熟でしたが、意識を変えたことで投球に幅ができました。僕は変化球がカーブ、スライダー、フォークと球種は少ないのですが、内外角を意識してスライダーを3種類、フォークを2種類投げ分けることで打者の反応も変わりました。ガムシャラに投げるだけではプロの世界では勝てません。翌年に1軍デビューして3勝を挙げられたのは、間違いなくこの秋季キャンプかあったからこそだと思います。

 10月下旬、中日の秋季練習中に阿波野さんが投手陣を集めて「内角」をテーマにした講義を行ったという報道を見て懐かしく感じました。各球団の首脳陣の金言には、選手たちが自分の可能性を開花させるヒントが詰まっています。この時期を「実りの秋」にして、1人でも多くの選手が来季は飛躍してほしいですね。(元巨人、日本ハム、DeNA投手)文/構成 インプレッション・平尾類