船から降ろされる水揚げされたサクラエビ=10月23日、焼津市飯淵の大井川港(石原颯撮影)

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 日本一深い駿河湾の深海に生息するサクラエビが記録的な不漁に見舞われている。

 漁を統括する静岡県桜えび漁業組合は資源保護の観点から厳しい自主規制を敷いて操業。先月23日に解禁された秋漁でも春漁に続き水揚げ量は少なく価格の高騰が続き、地元の仲買人や飲食店は苦境に立たされている。自主規制を導入して1年。安定供給に向けた資源回復の兆しは見えてきたのか−。(石原颯)

 10月23日に行われた2年ぶりの秋漁。夕方に出漁した漁船が夜になると続々と帰ってきた。ただ、陸に揚げられたサクラエビはわずか。例年を大きく下回る2・5トンにとどまった。手応えを聞かれたある漁業者は「量が少ない。とれるときはもっととれる」と足早に立ち去った。翌日早朝に行われた競りの最高値は1杯(15キロ)12万4000円(税抜き)。加工業者らからは「うちは札を入れなかったよ」という冷ややかな声も聞こえた。初漁から2週間余りが経過するも水揚げ量は一向に向上せず、過去10年の秋漁の取引額が1杯平均2万〜5万円台で推移してきたのに比べ、同8〜9万円台で推移している。

 サクラエビは全国で駿河湾のみで水揚げされ、県が指定する120隻のみが漁を行う。その漁船は全て県桜えび漁業組合に所属。資源を一括で管理し、収入を均等に配分する「総プール制」と呼ばれる仕組みで操業されている。つまり、資源を回復させるも、枯渇させるも組合が手綱を握っているということだ。

 昨年の春漁で漁獲量が312トンと例年の半分にも満たなかったことを受け、組合は昨年の秋漁から自主規制を設け、今春以降も漁期の特性に合わせた規制を継続している。水揚げが少ないのは根源的に資源不足である上、一部海域を事実上の禁漁区とするなど、厳しい規制を課し、満足に漁ができていないという背景がある。

 自主規制成果は?

 サクラエビの寿命は15カ月ほど。前年の漁で自主規制すれば、その成果が見えてくるはずだ。

 サクラエビの資源調査などを行う県水産技術研究所によると、「回復傾向にあるといえる」(担当者)と明かす。組合所属の漁師らと協力して今年7〜9月に実施した産卵量の調査では好漁の目安の2倍となる545兆粒と推計された。これらが順調に孵化(ふか)し、成長すれば来春に産卵することになる。県桜えび漁業組合の実石正則組合長は「思いがけない数字でうれしく思う。(漁師らに)我慢してもらえた結果だ」と評価する。

 では来年の春漁は従来通りできるかといえば、そうは簡単にいかない。東海大海洋学部元教授の鈴木伸洋氏=同大非常勤講師=は「来春が非常に重要。そこで(大量に)とってしまえば元に戻ってしまう」と警笛を鳴らす。サクラエビの産卵は春漁末期の5月下旬から約半年。産卵前のエビを捕獲することになる春漁は「早期に打ち切るべきだ」と指摘する。

 国内では駿河湾のみで水揚げされるサクラエビ。地元経済の柱であると同時に観光の観点からも地域への影響は大きい。静岡経済研究所の調査で、県内のサクラエビ加工業者の組合に所属する59社のうち約4割が廃業を検討中という衝撃の結果が出ており、消耗戦の様相を呈している。地元経済の維持と資源保護−双方をにらんだ慎重なかじ取りが求められる。

 ■サクラエビ 体長4センチ程度の小型エビ。日中は水深200〜350メートルの深海に生息。日が落ちてくると水深20〜60メートルまで浮上するため、夕方から夜に漁が行われる。漁期は春漁(3月下旬〜6月上旬)と秋漁(10月下旬〜12月下旬)の2回ある。水揚げは国内では駿河湾のみだが、市場には台湾産のものも流通する。

 【記者のひとりごと】

 サクラエビ漁の中心となる由比地区では観光面でも“駿河湾の宝石”への依存度は高い。

 「(由比に)行ってもサクラエビはないと思われている」とこぼしたのは地物の海鮮を提供する「くらさわや」の店主、渡辺一正さん。“不漁”という言葉が必要以上に一人歩きし、観光客の減少につながっているという。高騰するエビを買い支えているのが地元飲食店ともいわれる。苦境の今こそ多くのひとが足を運び、由比の食文化を支えてもらえれば、地元関係者にとってこれほど励みになることはないだろう。