副業に向いている職種と、向いていない職種の違いはなにか? (写真:Fast&Slow/PIXTA)

会社員の「副業解禁」が進む中、「いったいどんな仕事を副業に選べばいいのだろう?」と悩む人も多いはず。副業に向いている職種と、向いていない職種の違いはなにか? 元マイクロソフト社長にして、書評サイト「HONZ」の代表でもある成毛眞氏の新著『一流になりたければ2駅前で降りなさい』の一部を再構成してお届けする。

副業としてやるのなら、楽しみと喜びを感じられる「ものづくり系」が私のおすすめだ。副業も楽しみがなければ、ただの苦行にすぎない。

やってはならないのは、飲食店である。経営するのも、ここで働くのもとてもじゃないがおすすめできない。検討していた人がいるなら、副業プランは速攻で練り直しをしなくてはならない。

なぜ、飲食店の経営はダメなのか。

プロ野球選手が現役を引退すると、焼肉屋などの飲食店を経営すること、経営までいかずとも、店長を任されることも多い。これはきっと、現役時代に野球以外の業界で付き合いがあったといえば飲食関係くらいであるがゆえなのだろう。

また、飲食店経営“くらい”なら自分でもできそうだと、軽く見ているせいもあるのではないか。しかし実際には、飲食業ほど大変な業界もない、と私は思っている。

まず、プロが多すぎる。チェーン店のアルバイトは別として、飲食業はその道一筋のプロがひしめく世界だ。とくにバーなどはそうで、バーテンダーは若い頃からカクテル作りだけでなく、客との会話、2杯目のすすめ方、泥酔客のあしらい方などを身をもって学んでいる。踏んでいる場数は、われわれが想像するよりはるかに多い。バーでなくともそうである。

そうした世界へ、ほかの仕事しかしていなかった人がひょいっと入ったところで、絶対にかなうわけがない。やる前から負け戦。そんなものに挑むのはチャレンジャーではなく命知らずだ。

そして、飲食店は休めない。定休日は設けられるが、それもせいぜい週に1日だ。副業なら週に1日だけ、例えばバーを昼間だけ借りてカレー屋とする「間借りカレー」のようなことができるかもしれないが、しかし、それも気まぐれでは続かない。

飲食店は、急な用事はもちろんのこと「今日はライブがあるから」「今日は飲みに誘われたから」といった理由で休むことは許されない。わざわざ足を運んだ店が臨時休業をしていたら、それでもう、その客は2度とやってこない。超人気店なら話は別だが、それはほんの一握りだ。飲食店を経営する、自分で店を切り盛りすることには、こうしたリスクがついてまわる。さらに、食材は生鮮食品であることも注意しなくてはならない。

来客数は、その日の天候、周囲で行われるイベントに左右されることが多いが「なぜか激混み」「なぜかボウズ(=客数ゼロ)」ということもある。

食材は、そうした波にあわせて仕入れなくてはならないし、足りなければ機会損失、余れば食材の無駄になる。これもまた、素人にはコントロールが難しい。プロですら頭を悩ませるところなのだから、当然のことといえる。

副業を選ぶなら「飲食店」以外を

確かに、料理はものづくりだし、それを食べて喜んでもらうのはうれしいことではある。しかし、これだけのリスクがある。飲食店を経営することは、寄り道どころかいばらの道へまっしぐらなのだ。

さらに、飲食店で働くこと、ひいては接客業として働くこともすすめられない。飲食店での接客は、究極のBtoCビジネスだ。経験者はよくわかるはずだが、そこにはいろんな常識を持ったいろんな客がやってくる。

その中には、言語的な意味でなく、倫理的な意味で話が通じない人もいる。そうした人たちも客なので、無視することはできない。これは想像以上にストレスで、副業で楽しむつもりが本末転倒になりかねない。なので、副業そして兼業をするなら、飲食店以外から選んだほうがいい。

飲食店がダメなら、では、どんな副業・兼業をすすめるかというと、今この瞬間に限れば、例えばこんな「越境EC」だ。

2018年、日本を訪れた外国人観光客は3000万人を超えた。この数字は過去最高である。日本人より外国人のほうが多い観光地もすっかり珍しくなくなった。この調子では、2020年の東京五輪でも、会場では外国人客の姿が予想以上に目立つだろう。前回の東京五輪との最大の違いは、もしかするとそこかもしれない。

外国人観光客が求めているもの

日本を訪れる外国人観光客はどこから来ているのかというと、トップ3は中国、韓国、台湾で、街に簡体字とハングルが増えるのも当然だ。観光地では、英語はできなくても中国語はできる売り子もいるはずだ。

彼らは日本土産として何を買っているのだろうか。彼らの多くが買っているのは、富士山のペナントやゲイシャの人形ではなく、もっと小さくて手軽なものだ。

例えば、原宿駅前のマツモトキヨシへ行ってみると、彼らがどんなリップクリームを買い、目薬を買い、日焼け止めを買い、洗顔フォームを買っているかがよくわかる。なので、私ならこうした人気商品の購入代行を仕事にするだろう。ECで売りさばくのだ。

今、日本から海外へはECで1兆2000万円ほど売れている。そのうちの大半はアマゾン経由だ。その辺でも買えるものなのになぜアマゾンでと思うものがあったなら、それは海外向けの可能性が高い。

原宿のマツモトキヨシまで行かなくても、近所に大きめのドラッグストアがあるのであれば、何の問題もない。文房具も人気だ。書いても消せるフリクション、書き心地のいいジェットストリームなどのボールペンが大人気。これも、何本か買ってみてその機能にほれ込んだ外国人は、次も同じものがほしいと思うに違いない。

相変わらず人気なのは食品サンプル。専門店に行かなくても、今は100円ショップなどでも手に入る。100円ショップと言えば、原宿・竹下通りにあるダイソーは完全にインバウンド仕様になっていて、1階はワンコイン・スーベニアの見本市だ。もちろんそこにも食品サンプルを使ったキーホルダーなどが目白押しである。この店は店内撮影がOKで、SNSですぐに共有されるのだろう、100円ショップというよりはお土産屋、観光地と化している。

ただし、こういったものはもう、ほとんどがアマゾンで売られている。とはいえ、英語での解説が充実しているわけではないので勝機はある。

ガチャも目のつけ所だ。最近のガチャは300円から500円で、割と頻繁に入れ替わる。定番がなく、季節ものばかりのようなイメージだ。すると、帰国してから自分の大好きなアニメキャラなりなんなりが発売されて、歯がみする人もいるだろう。だったら、代わりに回してあげればいい。期間限定と言えばユニクロのコラボTシャツなどもそれに当てはまる。

「日本通」を対象にしてもいい

もう少し値が張ってもいいのなら、一見さん外国人観光客はあまり知らない、でも、日本通なら知っているものを対象にしてもいいだろう。

例えば、タオル。ホテルで今治タオルのよさに気付いた滞在者もいたはずだ。ほしいと思う人もいただろう。しかしタオルは案外かさばる。そこで代行だ。アマゾンにも今治タオルはたくさんあるが、英語で解説されているかというと話は別である。

このビジネスのポイントは、日本にいれば当たり前に買えるけれど、「一度外に出てしまうと買うのが難しい商品」に絞るところにある。ただし、これらは日本にいれば誰でも容易に買えるので、すぐにライバルが増えて、競争過多になるだろう。そこで、仕入れにあたっても寄り道的思考が必要になる。

家に盆栽がある、という人はあまり多くないかもしれない。盆栽というとよさがわからない、おっさんのもの、手入れが大変など、ネガティブなイメージを持つ人もいるだろう。それは仕方のないことだ。枝振りなどと言われても、評価基準がわからない。しかし、どれが好みかくらいはなんとなくわかるだろう。

そしてもっと大事なのは、好まれそうな盆栽を、育ててしまうことである。実は盆栽は今や海外で人気で、日本でよりも欧州などの海外で、あのワビサビの世界が評価されている。

海外で「盆栽」が人気な理由

その盆栽の一大産地が、埼玉だ。近頃、埼玉といえば次の一万円札の肖像に選ばれた渋沢栄一の出身地として、さらには映画『翔んで埼玉』の舞台として知られるが、実は盆栽のホームタウンとしてもその知名度を上げつつあるのだ。


寄り道はさておき、盆栽がなぜ海外で人気なのかというと、その世界観、小さいのに“大木感”があるからだが、やはり育てるノウハウが海外にはないことが大きいだろう。つまり、クールな盆栽がほしければ、日本で育てられたものを買うしかないのである。

これは農作物一般にもいえることである。日本の米はうまい、日本のイチゴはうまい、日本のぶどうはうまい、日本のさくらんぼはうまい、日本のメロンはうまい、日本の枝豆はうまいと気が付いた人たちは、日本でそれらをふんだんに食べ、母国に帰ってからも渇望する。だから輸出ビジネスが潤うのだ。