空前の好景気に沸いた関西のホテルだったが、ここへきて過剰供給が裏目に(記者撮影)

インバウンド特需に沸いていたはずの関西で、ホテルの業績に陰りが見え始めた。

ホテルに特化した不動産投資信託(リート)のいちごホテルリート投資法人が9月に発表した2019年7月期決算(2019年2〜7月)によると、同法人が大阪市および京都市に2棟ずつ保有するホテルの「RevPAR」が前期比でそれぞれ19%減、16%減に沈んだ。

RevPARとは、平均客室単価に客室稼働率を掛けたもので、ホテルの代表的な経営指標だ。同法人が保有する国内ホテル19棟の平均RevPARは前年同期比3%減で踏みとどまっており、関西の落ち込みが色濃くにじみ出た。

ホテルや住居に投資するインヴィンシブル投資法人が10月に発表したホテル運用実績でも、大阪と京都の弱さがにじみ出た。

ホテルマイステイズ新大阪コンファレンスセンター」や「ホテルマイステイズ堺筋本町」のRevPARは19カ月連続で前年同月を下回る。「ホテルマイステイズ京都四条」も、改装期間を考慮しても2017年から下落基調が続く。国内ホテル54棟(変動賃料)のRevPAR(2019年1〜6月)は前年同期比3%減と、やはり関西の弱さが足を引っ張った。

5年で3万室増

軟調の要因は、インバウンド需要を当て込んだホテルの過剰供給にある。訪日外国人は2012年頃から増え始め、当初ホテルの稼働率や単価はみるみるうちに上昇していった。とりわけ関西は押し寄せる観光客に対してホテル数が相対的に少なかったため、国内随一の活況を呈したのだ。

すると需要を嗅ぎつけたホテル業者はもちろん、デベロッパーや投資ファンドなどもホテル開発に参入。この5年間で客室は京都市内で8000室、大阪市内に至っては2万2000室以上も増加した。2019年以後も多数の開発計画が控える。

もくろみどおり、訪日外国人数は増えた。大阪府に訪れた訪日外国人は、2014年の376万人から2018年には1142万人まで伸びている。だが、ホテルはそれを上回るペースで供給されていった。「ダイワロイネットホテルズ」ブランドでホテルを展開する大和ハウス工業の藤沢茂夫・流通店舗事業推進部営業統括部長は、「一昨年くらいからホテル市況に陰りが見え始めた。宿泊客が減ったというよりは、ホテルが増えて競争が激化した」と話す。


あおりを受けるのは、いわゆるビジネスホテルと呼ばれる宿泊主体型のホテルだ。星野リゾート・リート投資法人は平均客室単価が約9万2000円の「星のや京都」が好調を維持する一方、約1万2000円の「ホテル・アンドルームス大阪本町」は振るわない。

関西のホテルで単価や稼働率に下落の兆しが見て取れたのは昨年からだ。だが、2018年は6月に大阪府北部地震、さらに9月には関西空港を水没させた台風21号という特殊要因があったため、市況の悪化は一過性のものと思われていた。

ところが、今年に入っても業績低迷から脱せず、いよいよホテル業者は焦りをにじませる。「(自然災害に見舞われた昨年と比較しても)稼働が稼げない恐怖感が芽生えた。ほかのホテルの動向を見極めつつ、(価格を)見直さざるをえない」(いちごホテルリートの岩坂英仁・執行役ホテルリート本部長)。

新規に開業するホテルはオープンセールという形で安値を提示するため、負けじと周辺のホテルも価格を下げていく。ホテルの予約が旅行代理店から価格比較サイトへと取って代わられたことも、価格のたたき合いに拍車をかける。

人件費高騰が追い打ちに

宿泊料金という実入りが減る反面、運営にかかる経費は上昇が続く。2018年度の旅館・ホテル客室係の有効求人倍率は大阪府で7.3倍、京都府で7.7倍。各社は客室清掃員などに外国人労働者を投入しているものの、人手確保のための賃金上昇圧力は強まる一方だ。

シーツやタオルなどのクリーニングを行うリネン業務の費用も上昇している。ホテル向けにリネン業務を行う「綿久リネン」の奈良粼貴弘・営業本部課長は、「(増加するホテルに対して)クリーニングを行う工場のキャパシティーが追いついていない。案件によっては受注を断らざるをえない」と話す。

同社は協力会社に作業を委託したり、ラインを新設したりしているが、増やした受注能力がすぐに埋まる状況だ。リネン業務はもともと単価が安く抑えられていた面もあり、「外注費が大きく値上がりした」と話すホテルもある。

用地費や建築費も高止まりが続く中で、当初見込んだ収益が稼げない誤算も起きている。マリモ地方創生リート投資法人は10月、京都・河原町のホテルの取得を辞退すると発表した。2016年7月の新規上場当初は取得を予定していたものの、不動産価格の上昇によって想定していた収益が期待できなくなったためだという。

新規供給のピークこそ過ぎつつあるものの、今後も大阪市や京都市内では依然としてホテルが供給される予定だ。とりわけ大阪市では昨年6月に条例が改正され、一定規模のロビーやレストランの設置義務が緩和されたことでホテル開発が容易になったことも拍車をかける。他方で頼みの訪日外国人は今年8月、11カ月ぶりに前年割れに転じるなど予断を許さない。

各社は対策を急ぐ。いちごホテルリートは10月、「ホテルビスタプレミオ京都」を売却した。売却資金を元手に他地域のホテルを取得したい考えで、「現在保有する関西のホテルも、今後は入れ替え対象になりうる」(いちごホテルリートの岩坂氏)。

対照的に、ジャパン・ホテル・リート投資法人は2月、「ホテルオリエンタルエクスプレス大阪心斎橋」を新たに取得した。同法人が大阪および京都に保有するホテル3棟のRevPARは下落しているものの、「大阪の全エリアが悪いわけではない。ホテル運営会社と連携し、効率化を図っていく」という。

「市場環境を受けにくいホテル」を作る

星野リゾート・リートも大阪市内で全436室もの大型ホテル「OMO7 大阪新今宮」の開発を進める。「ホテル周辺一帯をリゾートとみなした魅力発信を行うことで、星のや京都と同様、供給過剰などの市場環境を受けにくいホテルになる」とする。

近年では、訪日外国人に照準を合わせた「アパートメントホテル」の開発も進んでいる。リビングやキッチンを備え、4〜8人という多人数で宿泊できるのが特徴で、家族で長期滞在する訪日外国人が好んで利用する。中堅デベロッパーのコスモスイニシアはアパートメントホテル「MIMARU」をこれまで京都に5棟オープンした。アパートメントホテルはビジネスホテルほど競争が激しくなく、今後も大阪や京都での開発を進める方針だ。


アパートメントホテル「MIMARU」の内観(写真:コスモスイニシア)

仕事目的でのビジネスマンと観光目的での訪日外国人、さらに同じ外国人でも国籍や趣向によって、ホテルに求められるサービスは異なるはずだ。本来であれば開発段階でホテルのターゲットや個性を掘り下げるべきところ、旺盛なインバウンド需要はそうした特性を蔑ろにしてでも「建てれば儲かる」状況をもたらした。

だが、ここにきて、そのツケが徐々に現れてきている。大阪市内でホテルを開発中の関西地盤のデベロッパー幹部は、「いつ需給バランスが崩れるか心配だ」と懸念する。今後は、顧客への訴求力を備えたホテル作りが一層求められることになりそうだ。