日本航空(JAL)が、ウェブサイトの座席指定画面で「小さな子どもがどこに座っているか」を予約時に確認できる「ベビーおでかけサポート」を実装しました。

 サービス自体は2017年11月にスタートしたものですが、先日この機能が海外で話題になり、ネット上で賛否両論を呼ぶ結果になっていたようです。


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「いいサービスなんじゃないか」と思ったんですが……

「ベビーおでかけサポート」は、生後8日以上、3歳未満の子どもを連れた利用者が座席指定予約をした際、他の利用者がサイト経由で予約をするときに、シートマップ上に「幼児マーク」が表示されるというもの。ちなみに、例外としてツアーや特典航空券を利用の場合や、JALのサイト以外で予約をした場合には幼児マークは表示されないということです。

 あくまで個人的な感想としては、事前に周囲の客とのトラブルを防ぐこともできるし、チャイルドシートの無料貸し出しもあるし、機内でのミルク作りや、赤ちゃん専用毛布の用意などのお手伝いまでしてくれるそうなので「いいサービスなんじゃないか」と思ったんですね。

 しかし、絶賛子育て中の知人夫婦の反応はというと、カンッカンに怒っていました。試しに「日本での他の反応は……」とネットを見てみても、カンッカンに怒っている人たちがいました。安易に「いいじゃん」とか思ってごめんなさい。

海外でも議論に……子連れのみなさんの反応も

 夫婦や、子育て世代たちがどうして怒っているかというと、これまで「子連れ」というだけでただでさえ冷たい視線に苦しめられていた彼ら、彼女らにとって、今回のJALのサービス導入はただ「『厄介者』を可視化するシステム」を作っただけだ、と感じざるを得ないのだそうで。

 確かに、海外でも議論の発端となったのは、ユーザーの男性による「13時間ものフライトで、赤ちゃんが泣き叫ぶ場所が前もってわかるのはありがたい。すべてのフライトで必要なサービスだと思う」というツイートでした。

 彼の考えに賛同する声が多くあがった一方で、中には「私も以前はあなたと同じような考えでしたが、子を持つようになってからは、子連れで旅をする親の大変さが分かるようになりました。もし機内で泣き叫ぶ子どもがあなたの気に障るようなら、私は喜んで子どもをあやします」、「私たちはみんな、かつては子どもだったじゃないですか。小さな子どもの近くに座りたくないと言う人たちは、もっと思いやりを持ってほしい」など、親子に同情する内容の意見も寄せられています。

そもそも子どもが泣くのは仕方がないこと

 私自身は、乗り合わせた子どもが泣いていても特に気にしたことがなかったのですが、子どもの泣き叫ぶ声が苦手な人にとっては、たとえ思いやりを持ったとしても、長時間のフライトが苦痛になるのは回避できないことであり、耳栓をしたとしても音がすべてカットされるわけではないので、これまで解決が非常に難しい問題だったのだろうというのは、想像にかたくありません。

 しかしだからと言って、子どもやそのお母さんやお父さんが悪いわけでもないし、そもそも子どもが泣くのはある程度仕方がないことである以上、こうした話は誰かに責任の所在を求める性質の事象ではないように思うのです。

 この件に関しては、議論についてどちらが良い悪い、という話に収束させるのではなく、なぜJALは「ベビーおでかけサポート」を始めるにいたったのか、その根本にある背景を読み解く必要があるのではないでしょうか。

12時間もトイレの前で子どもをあやし続けた

 前出の知人夫婦は、出張でアメリカに向かう機内で、12時間以上もの間ほぼずっと、トイレの前に立って子どもをあやしていたと言います。「どうしてそこまでして……」と驚いた私に、知人は「被害妄想かもしれませんが」と前置きしたうえで、複雑な心境を語ってくれました。

「日系航空会社で子どもを連れて海外便に乗ると、1人のときと比べて、明らかに冷たい視線が突き刺さります。こちら側に聞こえるように大きなため息をつかれると、なんだか『チッ、子連れで長距離便なんて、どれだけ常識がない親なんだ』と言われているようで。私たちも必要だから飛行機に乗っているわけで、本当は乗りたくないんです……」

 そんな風に彼らが肩身の狭い思いをしている中で、くだんのJALのサービスが開始され、夫婦や、子育て世代の当事者は「ああ、これはトラブルが起きた際に『だから事前に子どもがいるって言ってたでしょ』とJALが逃げ道を用意する目的なんだな」と感じた。それが今回、子育て世代から「ベビーおでかけサポート」への反発が起きた経緯のようなのです。

 言われてみれば、子連れのお母さんやお父さんが、公共の場でものすごく申し訳なさそうに子どもをあやしている姿は幾度となく見たことがあり、それは本当に不憫だなと、私自身も常々思っていることでした。

抱っこひも外し、ベビーカーを蹴られる被害も多発するなかで

 しかし一方で、JAL側から考えてみれば、子どもの泣き声をめぐっての利用客同士のトラブルをできる限り防ぐためには、これ以外の手はなかったのではないか、とも思います。機内で問題が起きれば、離陸ができない事態にもなりかねませんし、最悪の場合、罪のない子どもに危害が加えられる可能性だってあるわけです。

 残念ながら、世の中には弱いものを見つけるやいなや、病的なまでにストレスのはけ口にしようとする人間は実在しています。少し前に話題になりましたが、人ごみの中で赤ちゃんの抱っこひものベルト部分を外すイタズラ、いや、殺人未遂も多発していますし、赤ちゃんが乗っているベビーカーを蹴られる被害も少なくないようです。

 こうした事件や事例が数多くある以上は、企業側としても、子どもを連れた利用客を少しでも安全な環境に置くために、何かしらの対策を講じなくてはならなかったのでしょうし、その最善の方法が「幼児マーク」だったのだと思うのです。

 もちろん、子ども連れの利用客から、反対意見ばかりが寄せられているわけではありません。肯定的な意見の中には「予約段階で『赤ちゃんがいるんだな』と分かってもらえている人が近くに座る方が、少しだけ心理的負担が軽い」という声もあります。まぁ、そもそも「なぜ子どもを連れているだけでそこまで肩身の狭い思いをしなければならないんだ……」とは思いますが。

寛容な社会であれとは思えど

 個人的には、子ども連れの利用客、そうでない利用客のそれぞれの立場から考えても、今回のJALのサービスには「おおむね肯定的」です。子どもの泣き声にイラついた人に、自分の子を攻撃されるリスクを減らせるならありがたい(そんな人がいない社会が一番いいんですけど、残念ながらそういう人はいるので)ですし、泣き叫ぶ声が苦手で強いストレスを感じてしまう人にとっては、あらかじめ、できるだけの対策ができます。

 よくよく考えてみると、私たちがJALに払っているお金は、運賃と、明記されているサービスへの料金です。過度のサービスや、「機内で静かに眠ることができる権利」を100%保証するためのものではないことは、再度胸に刻み込んでおかねばならないと自戒を込めて思います。

 子どもって、本当に可愛いと思いますし、「子連れのお母さんお父さんたちが少しでも楽に過ごせる寛容な社会であればいいな」と心から思っています。我々が社会で共存している以上は、何かしら互いに迷惑をかけることもあるでしょう。

 誰かにストレスを感じたときに、解決策がないのなら「仕方がないことは仕方がない」と寛容にならなければならないことも多々あります。それが「社会」で生きることだと思うのです。誰の責任でもない、誰も悪くないことは、たくさんあるはずなので。

(吉川 ばんび)