2019年6月5日、習近平国家主席がロシアを訪問、華為技術がMTSと5G通信網開発で合意した(写真:AP/アフロ)


 最近、中国とロシアの急接近が話題になっていて、「中ロ同盟の成立か?」と先走るメディアも出てきた。

 この中ロ急接近の背景には米国の国家安全保障戦略などで主張された「米国と中国やロシアとの大国間競争」がある。

 特に米中貿易戦争により米国の付加関税や中国のハイテク企業・華為技術(ファーウェイ)に対する制裁措置などの攻勢を受けている中国のロシアへの接近は、単独で米国と対峙するよりもロシアと連携してこれに対処しようとする意図が読み取れる。

 結論的に言えば、「中国とロシアの同盟の成立」は困難であると思うが、ハイテクを中心とした中ロのパートナーシップの深化は予想以上に急速に進んでいる。

 本稿では、ロシアの専門家サムエル・ベンデット(Samuel Bendetto)と中国人民解放軍の専門家エルサ・カニア(Elsa Kania)両氏による共同の論考“A new Sino-Russian high-tech partnership”を参考にしながら、中ロ間の技術協力の軌跡を追い、その技術協力から生じるリスク及び影響を評価する。

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大国間競争でパートナーシップ深化

 中ロ関係は、「新時代のための包括的な戦略的協調パートナーシップ」と表現され、世界的な大国間競争が激化するにつれて存在感を増している。

 特に、中ロのハイテク・パートナーシップは、両国がハイテク開発を推進させるために互いの能力を活用しようとしていることから、今後数年間は進展し続ける可能性がある。

 中国は、ロシアのSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の研究開発能力や科学技術力を求めてロシアに接近していることは明らかであり、ロシアは中国のハイテク能力の活用を望んでいるようである。

 このような二国間協力で支配的なプレーヤーとなっているのは中国であり、ロシアは相対的に不利な立場に置かれる傾向にある。

 ロシアには、中国のバイドゥ(Baidu)、テンセント(Tencent)、アリババ(Alibaba)のような巨大企業は存在せず、これらの企業はロシア市場を含めてグローバルに拡大し始めている。

 それにもかかわらず、ロシア政府が自国のイノベーションを活性化させようとする中で、中国を目的達成の手段と見なしているが、中国もロシアを目的達成の手段と見なしているとも言える。

 今後、中国とロシアの間のハイテク協力は、短期的に深まり加速する可能性が高い。

 中国とロシアは今まで、生命科学から情報技術、AIなどの最先端技術に至るまで、自由で開かれたSTEMの発展を活用し、その成果を独自の技術エコシステム(生態系)に適用することができた。

 しかし、今日では、そのような自由なアクセスを制限する新たな政策や対抗策が米国を中心として導入されている。

 中国とロシアは、技術革新における独立性を追求し、外国特に米国の専門知識や技術への依存度を低下させようとしている。

 中国とロシアは、デュアル・ユース(軍民両用)技術の開発における協力効果を認識している。両国は軍事協力を拡大しているだけではなく、第5世代通信(5G)、人工知能(AI)、バイオテクノロジー、デジタル経済など広範な技術協力を行っている。

 中国とロシアの技術協力の深化は、米国からの圧力の高まりに対応している。

 米国は、制裁や輸出規制などを通じて、世界の技術エコシステムに対する中国とロシアの関与を制限しようとしてきた。

 これに対し、中国とロシアの指導者は、半導体チップからオペレーティング・システム(OS)に至るまで、外国、特に米国の技術に代わる技術を自国で開発しようと決意した。

 この決意が中ロ協力へのさらなる動機づけとなっている。

中ロ技術協力の背景:
冷戦時代の軍事技術協力

 中ロの技術協力の歴史は、冷戦初期の1950年にさかのぼる。

 当初、中国の国防産業はソ連の技術と兵器の利用から大きな利益を得ていたが、後にリバースエンジニアリングによる技術の窃取による兵器の国産化が進められた。

 しかし、1950年末から1970年まで続いた中ソの対立は軍事協力を中断させ、冷戦終結後まで大規模には再開されなかった。

 その後、ロシアの対中武器輸出は回復し、中国はロシアの軍事技術にかなり依存する状態になった。

 中国は伝統的に、ロシアから航空エンジンを入手してきたし、中国が最新の「S-400」防空システムを取得したことでも明らかだ。

 ロシアによるS-400の中国への提供は、中国のミサイル防衛に大きな貢献をすることであり、中ロの軍事協力の大きな象徴になった。

 2019年10月、ウラジーミル・プーチン大統領は次のように発言した。

「ロシアは中国のミサイル防衛システムの開発を支援する計画である。現時点でこの技術が完全に実用化されているのは米国とロシアだけであり、ロシアはこの技術を中国と共有することで中国の防衛能力を大幅に向上させることができるであろう」

 今日、中国の技術部門と国防産業は特定の部門と技術においてロシアを上回っている。例えば、中国は現在ロシアの無人航空機(UAV)よりもはるかに優秀なUAVを開発している。

 しかし、ロシア軍は中国製のUAVを入手することに消極的で、代わりに中距離で重量のある国産の無人戦闘機を開発しようとしている。

 一方、ロシアにとって、中国の特定の製品、サービス、ノウハウの取得は、ロシアの産業、政府、軍が必要とするまさに生命線となるかもしれない。

技術進歩への戦略的パートナーシップ

 中国とロシアの戦略的パートナーシップは、ますます技術とイノベーションに集中している。

 特に、2015年の習近平国家主席のモスクワ公式訪問を皮切りに、中国とロシアの両政府は、デジタル経済を含む新たな協力分野に焦点を当てた協定に署名した。

 中国とロシア政府は、企業間の共同プロジェクトやパートナーシップの促進を含む、より深い協力を目的とした新たなフォーラムやメカニズムを数多く立ち上げた。

 時が経つにつれて、中ロのパートナーシップはますます制度化されている。

●対話・交流

 中国とロシアの政府や省庁の間で交流やパートナーシップを促進しようとする対話が増加しており、こうした取り組みは2016年以降特に顕著になっている。

 これらの新たなメカニズムは、STEMの協力ネットワークを構成しており、両国がそれぞれの科学界に関与し、今後拡大していく可能性がある。

 2016年から、中国ロシア・ハイテク・フォーラムが毎年開催されている。2017年のフォーラムでは、ロシア及び中国の技術投資家の間での直接的かつ開かれた対話の創設、並びにイノベーション及びハイテク分野における協力の拡大・多様化に取り組んだ。

 特定のプロジェクトには、中国のロシアのシンクロトロン加速器プロジェクトへの参加が含まれる。

 北京での最初の対話には、生物医学、ナノテクノロジー、新材料、ロボット工学、無人機、人工知能などの産業から100以上の中国とロシアの企業が参加し、革新的な技術を披露し、協力のための新しい協定を締結した。

●科学技術パーク

 中ロ間の科学技術パークの数が増加していることは、協力関係が拡大していることを如実に表している。モスクワと中国政府は、科学技術パークは、持続的な二国間協力に不可欠な基盤とインフラを構築できると考えている。

 2016年6月、中ロイノベーションパーク計画が開始された。このパークは2018年に完成し、情報技術、生物医学、人工知能の企業が参加している。

 また同時期に、中ロ投資基金とスコルコボ財団は、中国に医療用ロボットセンターを建設し、医療用ロボットを製造する契約に調印した。

 2010年に立ち上げられたスコルコボ・イニシアティブは、ロシアを代表する技術革新の場である。この財団は、ディープ・マシン・ラーニングやニューラルネットワーク技術を含む多くのハイテク・プロジェクトを管理している。

 2017年12月、中ロ両国の科学技術パークは、スコルコボに中露ハイテクセンターを建設することで合意した。このセンターは、ロシアのシリコンバレーになることを目指している。

●コンテストと競争

 2018年9月、最初の 「中ロ産業革新コンペティション」 が西安新区で開催された。ビッグデータ、AI、ハイエンド製造に焦点を当てた。

 競い合ったプロジェクトには、北京航空宇宙大学の飛行ロボットプロジェクトや、仮想現実と機能的電気刺激に基づく脳制御リハビリテーションロボットが含まれた。

 中国科学アカデミーは6万7900人以上の科学者を研究活動に従事させており、ロシア科学アカデミーは5万5000人以上の科学者を雇用する国内の550の科学機関と研究センターを含んでいる。

 プロジェクトにはAIの要素を含む脳機能への集中が含まれている。ロシア側は、中国の脳プロジェクトの立ち上げを含め、中国が神経科学分野で世界をリードする地位を占めているという事実に動機づけられている。

 脳の研究は、遺伝学から心理・物理学的機能に至るまで、様々な分野の研究である。これには、神経変性疾患の研究と、神経形態学的知能に基づく人工知能システムの開発が含まれる。

 このプロジェクトへの参加はロシアにとって非常に重要である。中国はこれに多額の投資をしており、いくつかの分野で世界のリーダーになっている。

パートナーシップの優先事項

 中ロ関係が 「新時代」 に入っていく中で、特に重視されてきた分野としては、通信が挙げられるが、これに限定されない。ロボット工学とAI、バイオテクノロジー、ニューメディア、そしてデジタル経済だ。

●次世代通信におけるファーウェイの戦い

 ファーウェイをめぐる米国と中国の覇権争いは、中ロの急速な協力関係の深化に貢献した。

 事実、プーチン大統領は、中国企業に対する米国の圧力を 「来るべきデジタル時代の最初の技術戦争」 と呼んだ。

 世界的な圧力の増大に直面しているファーウェイは、今年、ロシアの学界と連携しSTEMの専門知識を活用するためにロシアへの関与を拡大した。

 ファーウェイは2019年、ロシアの国家技術イニシアティブと人工知能に関する協力契約を結んだ。そして、ファーウェイのロシアにおける研究開発人員を4倍に増やす計画を発表した。

 2019年にはロシアで 「ファーウェイ・イノベーション・リサーチ・プログラム」 が発足し、ロシアの研究機関に対しファーウェイから様々な分野で140件の技術協力の要請があった。

 2019年末までに500人を採用し、今後5年間で1000人以上の専門家を採用する予定だ。

 現在、ファーウェイはモスクワとサンクトペテルブルクに2つの研究開発センターを持ち、それぞれ400人と150人が働いている。

 今後、さらに3つの研究開発センターを開設する計画で、ロシアは欧州と北米に次ぐ「ファーウェイ研究開発センター」の上位第3位にランクされる。同社は、ロシアの科学コミュニティ、大学、その他の研究センターと緊密に協力することを計画している。

 ファーウェイはロシア連邦での5Gテストを積極的に拡大しており、ロシアのヴィムプレコム(Vimplecom)と提携してモスクワでの5Gテストを8月から開始している。

 ファーウェイに対する米国の圧力が続く中、グーグルのOSであるアンドロイドを完全に捨て、ロシアのアブローラ(Avrora) OSに置き換える可能性さえある。

●人工知能、ビッグデータ、ロボット工学

 中国とロシアにとって、人工知能は技術協力における最優先事項となっている。

 例えば、ビッグデータの共有を拡大するために、中ロの「ビッグデータ本部基地プロジェクト」が進められているほか、AI技術特に自然言語処理を活用して、中国とロシアの企業向けに国境を越えた商業活動を促進するプロジェクトも開始されている。

 ロシアは、技術革新において独自の強みを有しており、多くの科学技術分野において顕著な革新を達成している。中国とロシアは独自の経済的潜在力を持ち、多くの分野で協力の豊富な経験を有している。

 ロシアのAI市場における世界シェアは小さいが、その市場は成長し成熟しつつある。ロシアの科学者と中国のロボット企業が協力して、ロボット工学と人工知能の分野でさらなる飛躍を遂げることができる。

 ロボット工学の分野で中国と協力するには、医学が最も有望かもしれない。

 AIの進歩は、大規模なコンピューティング能力、機械学習するのに十分なデータ、そしてそれらのシステムを操作する人間の才能にかかっている。

 今日、中国はコネクテッド・カーや顔・音声認識技術などのAIのサブカテゴリで世界をリードしている。

 ロシアは産業の自動化、防衛・安全保障アプリケーション、監視において強みを持っている。人工知能における中ロの協力関係は、拡大することが期待される優先課題である。

●デジタル経済

 中国の巨大IT企業は、ロシアで生まれつつあるデジタル経済にビジネスチャンスを見出している。中国企業がこの市場に参入するにつれて、ロシアのデータ・センターの能力は向上している。

 例えば、この1年間で、600以上のテンセント・ラック(サーバーの置き棚)がモスクワに設置され、同社の最大のプロジェクトとなった。

 テンセントのインフラは、クラウドサービスとゲームの開発に使用される。このプロジェクトは、ヨーロッパでインターネットユーザ数が最も多いロシア・テンセント(ユーザー数約1億人:75%の浸透率)に新しい可能性を切り開くものである。

 アリババは、ロシアの億万長者アリシャー・ウスマノフ(Alisher Usmanov)のインターネットサービス会社メイル(Mail)と20億米ドルのジョイント・ベンチャーを設立した。

 1億4600万人が住むロシアで、両社のオンライン市場を統合するという。この取引はロシア政府がロシア直接投資基金を通じて支援しており、現地の投資家が共同で新事業を管理することになっている。

中ロパートナーシップの難しさ

 中ロの科学技術協力はいくつかの問題に直面している。

 例えば、ロシアは依然として西側の技術に依存し、ロシアは中国のハイテク技術を受け入れることに熱心ではない。

 中国のパートナー企業によるロシアの知的財産の盗用と偽造品の生産は広く行われていて、ロシアの学術・大学の科学センターや企業における信頼感が大幅に低下している。これは、両国間の革新的な協力を制限する大きな要因である。

 またロシアは、中国が最も優秀な科学者をヘッドハンティングするのではないかと懸念している。

 ロシア科学アカデミーのトップは、「中国がロシアのSTEM(科学・技術・工学・数学)の優秀な人材をより良い賃金と労働条件で引きつけ始めているようだ」と懸念を表明している。

 この問題は、中国とロシアの双方にとって頭の痛い問題である。

 両国の有望な若い科学者は、米国で働くことを好む。ロシアで最高の教育を受けた若者、特にすでに国際的に活躍できる職業上の地位が確立されている人々には、米国移住への強い欲求がある。

 これは特にロシアに当てはまり、カリフォルニアの快適さ、太陽、ワイン、山、海にあこがれる人たちがすでにロシアを去ってしまっている。

 また、中国では政府がSTEMに優れた人々に中国にとどまるよう多くのインセンティブを与えているが、多くの研究者が海外特に米国で働くことを選んでいる。

 中国のハイテク企業に対する情報保全上の不信感もある。

 例えば、テンセントは2017年に、同社のソーシャルメディアアプリ「WeChat」の使用が禁止された。

 安全保障上の理由で、ロシアの通信監視機関ロスコムナザール(Roskomnadzor)は、禁止されたウエブサイトの登録簿にWeChatを登録したのだ。

おわりに

 現在メディアなどにおいて話題になっている「中国とロシアの同盟の成立」は難しいと思う。なぜなら、同盟には相互防衛の義務が伴うが、ロシアは中国が絡む紛争に関与したくないし、中国もロシアが絡む紛争に関与したくないからだ。

 一方で、大国間競争の時代におけるハイテク分野における中ロの協調は現在進行中であり、世界に大きなインパクトを与えるであろう。

 中国やロシアが普通の民主主義国家であれば問題がないが、中国は共産党一党独裁体制を強化し、ロシアではプーチン大統領が中央集権体制を強化している。

 このような権威主義国家同士の密接な協力関係の進展は、安全保障、世界経済、人権、各国の競争力という観点で民主主義諸国において大きな懸念となっている。

 特に、中国とロシアは、検閲と監視を強化する技術についても協力しており、中国のデジタル監視社会を支えている監視技術やシステムのグローバルな拡散は望ましいことではない。

 また、知的財産窃盗、不適切な技術移転にも適切な対処が必要だ。そして、両国は国家の「サイバー主権」と「インターネット管理」において、自国にとって望ましい考えを正当化し促進し、国際基準にしようとしている。

 日本と米国は、志を同じくする民主主義国家と連携して、中ロからの技術的な奇襲のリスクを軽減し、将来の脅威を早期に回避する努力が急務になるであろう。

筆者:渡部 悦和