もう一つは回収だ。「相手ボールを回収しました」と最近、よく言われる。実況アナウンサーもこれに含まれるが、適切な用語は回収ではなく奪取とか、奪還だろう。ゴミを回収(=収集)しているわけではない。集める行為ではなく奪う行為だ。ルーズボールを回収したなら解らなくもないが、これもストロング同様、狭い世界で流行っている適切とは言い難い言葉遣いになる。

 繰り返すが、そこに安易に飛びつこうとする監督にカリスマ性は宿らない。言葉使いにこだわりのない人物。そう見られることに抵抗がない人物に映ることになる。監督としての資質を見分けるポイントだと思う。

 監督は相手に自分の意志を的確に伝える力が問われている職業だ。喋りは重要なポイントになるが、ライターという立場から言わせてもらうと、それはある程度、書く力に比例する。
 
 外国には選手上がりのジャーナリストはたくさんいる。自らの手で原稿を書いたことがある監督、指導者は多くいる。だが日本では、監督や指導者、あるいはテレビ評論家、解説者のほとんどが自らペンを走らせない。原稿化される場合は代筆が大半だ。言葉にこだわりがない監督、指導者が多い理由だろう。それでは記者会見でオリジナルな言葉を吐くことは難しい。ロッカールームで選手たちに伝えている指示の程度も垣間見えてしまう。
 
 アギーレの名前を聞いて、改めて監督の喋る力を問い質したくなった次第だ。手赤にまみれた言葉ではなく、人と違うオリジナルな言葉をどれほど吐こうとしているか。重要なチェックポイントだと確信する。