ここまで2ゴール・2アシストの西川がブラジルのファンを夢中にしている。(C)Getty Images

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 実を言うといまブラジルで行われているU-17ワールドカップは、観客の入りがあまり芳しくない。

 これは大会組織委員会の大きな誤算によるものだ。今大会はゴア、カリアシア、ゴイアニアの3都市で行なわれている。ブラジルでは現在リーグ戦の真っ最中なので、会場にはトップレベルのチームの本拠地ではない町が選ばれたのだ。

 国際試合などめったに見れない町であれば、“少年たち”の試合でも見に行くだろうという目論見もあったのだが、しかしこれは裏目に出た。試合を観戦に行くという文化のない人々は、スター選手がいないスタジアムに足を運ばないのだ。

 ブラジルの試合こそ、1万人を超え、他の南米勢の試合も多少は盛り上がるが、例えばメキシコvsイタリアは1600人、フランスvs韓国戦は700人と、閑古鳥が鳴いていた。

 だが南米以外の国で唯一、多くの観客を動員しているチームがある。それが日本だ。
 
 カリアシアで行なわれた初戦のオランダ戦の観客数は5125人。オランダが先着500人にユニホームをプレゼントするというプロモーションをしたことが、もしかしたら影響したかもしれないが、しかしそのキャンペーンにつられてきた観客たちも、日本の若きサムライたちのプレーに驚かされた。

“ビッグチームのない町”といっても、そこはブラジル。観客は魅せてくれるプレーをするチームが好きだ。若月大和のソクラテスばりのヒールに観客は沸き、成岡輝瑠の股抜きには拍手が起こり、西川潤の果敢に攻めていく姿は、すっかりブラジルサポーターを虜にしてしまった。

 スタンドにはほんの数十人の日本人サポーターしかいなかったが、いつのまにかニッポン、ニッポンの声援がスタジアム中で沸き起こっていた。無料で配られたオランダのオレンジのユニホームを着た人々までだ。

 この試合をFIFAのテクニカルスタッフはこう評した。

「日本は非常にインテリジェンスのあるプレーをするチームだ。監督は個々の選手の特性を熟知し、それをうまく活かしているように思える」

私もオランダには勝ち目がなかったと思う。日本は、5点でも6点でも取れた気がする。

 だからこそ、次のアメリカ戦(会場は同じくカリアシア)のスコアレスドローは腑に落ちなかった。技術は十分にあるが、メンタル面をまだ上手にコントロールできないのかもしれない。

 元ブラジル代表の正GKで、現在はFIFAのアンバサダーを務めるジュリオ・セーザルもこう言っていた。
「日本はとてもナーバスになっていた。それはチームを機能させる存在の西川が不在だったせいだ。彼の投入はあまりにも遅すぎた」

 たしかに57分に西川が入ってからの日本は、それまでとは違った。ここからは日本のリズムで進むようになった。

 3戦目のセネガル戦は、ともにグループリーグ突破が決まったチーム同士の一戦となった。
 
 この頃にはカリアシアの町はすっかり日本ファンになっていた。日本のレベルの高さを知っている人々は、スタジアムに足を運び、南米のチームもいない、すでに突破も決まっている両軍の試合に7000人以上の観客が集まった。

 ニッポン、ニッポンのコールは、すでにこの町ではお馴染みにっていた。私の興味を引いたのは試合を見に来てた地元の少年たちの数の多さだった。彼らはとくに65分に西川が入ると、大喜びしていた。彼が何かしてくれるのをすでに知っていたのだ。その期待に応え83分に彼が決めた決勝ゴールは、まさにゴラッソだった。

 いまや日本はブラジル、アルゼンチンとともに優勝候補に挙げられている。ただこれからは一発勝負、次の試合ではオランダ戦のようなプレーを見せてくれるのか、それともアメリカ戦のように及び腰になってしまうのか……。そこで運命が決まるだろう。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。
8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。