《今回の相談内容》(江東区 M・K 26歳)

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「うちの上司は、何かにつけて『昔は良かった』と愚痴をこぼし、『原点回帰しようぜ』とハッパをかけてきます。そんなに昔って良かったんでしょうか」

 

「昔は面白かった。みんな個性の塊みたいなヤツばかりだったし」「昔は良かった。それに引き替え、今はなぁ……。」

 過去を懐かしむとき、よく口を突いて出るのがこのような言葉。多くの人が、過去の方がいろんな意味で今より幸せだったと思うようです。でも、果たして本当にそうなのでしょうか。

 聞き慣れない言葉だとは思いますが、『薔薇色の回顧』という心理用語があります。これは認知バイアス(人間の誰もが持つ「思考の偏り」のこと)の一つで、文字通り、過去のことを当時考えていたよりも美化して、まるで薔薇色だったかのように思い出すことをいいます。

 あなたも若い頃のまぶしい日々を思い出すと、「確かに昔は自分も輝いていたなぁ」と思い出に浸ってしまうのではないでしょうか。過去の記憶が美しく飾られるのには、次のような理由が考えられます。

●人は、過去の悪い出来事や思い出は無意識に忘れようとしがち。そのため、相対的に良い印象の記憶が残りやすい。それに比べて今は、良いことと悪いことが同時に起きているので、結果として昔の方が良かったように感じてしまう。

●昔の自分と今の自分を比較すれば、当然昔の方が若く輝いていた。それと同じように、自分が若かったその時代も輝いていたと錯覚してしまう。

●人は、自分が過去にしてきた選択や意思決定を肯定したい。間違っていたとは思いたくない。そのため、過去のことは良い方に意味付けしてしまう。

 もちろん、実際にも当時の方が良かったことも多々あったことでしょう。でも、全てがそうかといえば、そんなことはないはず。過去を美化し過ぎて、「原点回帰で昔のやり方を復活させよう」などと言い出すと、現代の時流に合わずに失敗することもあります。

 条件がそろっていない形だけの原点回帰は“百害あって一利なし”になりかねないものです。また、「昔はこれくらいで休むやつはいなかったぞ!」などとハッパをかけ過ぎると、このご時世、パワハラにもなりかねないので、上に立つ人間は注意が必要です。

 最近は、自撮りした写真を“盛る(加工・修正する)”ことは当たり前になっていますが、過去の思い出も同じように“盛られている”。両者の違いは、自撮り写真が意識的にやっているのに対して、過去の思い出は本人が気付かないうちにやっているという点。

 そのことを、『薔薇色の回顧』という言葉とともに、上司にも笑い話として伝えてみてはいかがでしょう。