「良いものを納得できる価格で買いたい」。一部の嗜好品を除けばいつの時代も顧客のニーズはこの一点に絞られるだろう。絶対的に高品質なものや自身の好きなブランド、今欲しい商品が、自身の価値観でお買い得と認められることで購買は促進される。そしてそれらの集合体が買物の楽しみの提供につながり、その店舗を顧客が支持する一番の理由付けになる。

 中でも品揃えとビジュアルプレゼンテーション(以下VP)に話を移せば、小売業全体ではこれらの同質化が見受けられ、顧客にとっての満足度は低くなってきたといえるだろう。

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リアル店舗で買物をする意味 

 

 eコマースが新たな”買い場”として台頭している現状、店舗で買物をする理由は「商品の現物をしっかり見たい」や「試着したい」とともに、その店舗での買物が「品揃えとVPによって”買い場として楽しい”こと」も重要になる。

 小売業の品揃えやVPの同質化の多くは、前年の売れ筋や当年のトレンド予測等から発生する情報の画一性と小売業側の管理上の都合がもたらすものと指摘できる。そして、右肩上がりの成長が見込めない業態や業種では、それがより顕著になっている。

 品揃えやVPの同質化が進むと、価格での差別化を図る傾向にあり、自社だけでなく業界全体の収益を悪化させることにつながっている。近年、多くの小売業は大量に商品を作った結果、在庫を残してセールを常態化させることで単純に安いという売場を構築してしまった。安い商品では、一時の顧客満足は得られても継続的なものにはなりにくいのだ。

 では、顧客に支持される品揃えとVPはどのようなものだろうか。それは小売業が顧客に何を提供したいのかという点と深く関わっており、この点が明白でない限り、構築は難しい。

 圧倒的な品質などのディテールにこだわったものを提供したいとなれば、プロフェッショナルな接客や作り手の想いをしっかりと語る売場でなければならないし、安さを訴えるのであれば、なぜ安いのか、どの程度安いのかをしっかりと語る売場でなければならない。しかも前者は競合が少ないが、後者は比較的競合が多く、近年は「安さ+α」がより求められているため、他店との差別化を図る上でもこの点は非常に重要な要素となる。

 顧客に何を提供するかが明確になれば、あとはそれを表現すればよいが、重要な点は表現できる内容が多くはないことだ。小売企業が最も表現したい点を、店舗全体のデザインとファザード、VP、POP、その他サービスと連動させれば、意図している基本的な部分は顧客に必ず伝わる。それが店舗の特徴となり、買い場としての楽しさにつながるのだ。 

e-コマースでは体験できないことを提供する

 

 日本ではこれまで小売業を牽引してきた総合小売業の業況が厳しくなってきているが、これは一定の品質のものを幅広く品揃えして、買いやすい価格で提供する業態が支持されにくくなってきている点に尽きる。

 海外に目を向ければ欧米では日本よりも少し早く、このような業態は縮小もしくは業態変換を迫られてきている。欧米市場ではハイエンドの商品を提供する小売業とオフプライス業態が成長していることも見逃せない事実となっている。

 日本ではあまり耳慣れないオフプライス業態であるが、代表的な企業としてTJ MAXXとROSSが挙げられ、それぞれ売上高は約4.3兆円と1.6兆円となっている(注:2019/1月期、1ドル110円換算、TJ MAXXは欧州と豪州を含む)。

 オフプライス業態はさまざまな小売企業やメーカーの余剰在庫を通常の卸売価格よりも安く買受け、自社で編集し割引販売している業態である。この業態が成長している理由はシンプルで、良い商品を納得できる価格で買える「買い場」であるから。

 さらに言えば、さまざまなブランドやテイストの商品をバイヤーの編集のもと、品種ごとに陳列することで「宝探し」のような売場を構成し、ほとんどの展開商品を定期的に割引して、常時最大60%OFFの商品構成を継続している点といえる。

 つまり、顧客に対して良い商品、ハイブランドをどこよりもお買い得に提供したいというポリシーをシンプルに店頭で表現する。それと同時に、その商品が常に置いているわけではないので、いつ買うかまで顧客に判断させて「買物のLIVE感」を楽しめる売場を構築している点が秀逸といえる。

 再度日本に目を向けると好調を維持しているドン・キホーテは周知の通り、商品を圧迫陳列して顧客動線を複雑化し宝探しの売場を構成することで買物の楽しさを提供、時間消費型店舗として顧客の支持を得ている。

 この点からも顧客に支持される品揃えとVPは小手先のテクニカルな内容なものではなく、おのおのの小売業が顧客に何を提供したいのか、シンプルに分かりやすく表現することが顧客の支持につながる。それはe-コマースでは体験できない、リアル店舗ならではの買物の面白さを力強く表現することに尽きる。

 今後はさらに商品やプライスだけでの差別化や優位性を保つことは難しくなると考えられる。顧客に買物を実体験としてどのように楽しんでいただくか、この点を突き詰めた店内空間の構築により、他店との差別化が図れる。それが強みとなり、顧客の呼び込みにもつながる。