これからの人生にお金はいくら必要か。安心な老後のために、いくら貯蓄すればいいのか? たった1分で算出する公式がある(写真:ふじよ/PIXTA)

将来の自分は今の自分が支える時代が来ています。豊かで幸せな人生を送るためには、自分でお金の問題を解決していくことが必要です。そのシンプルで合理的な方法を書いた、経済評論家の山崎元氏との共著『人生にお金はいくら必要か』(東洋経済新報社)を上梓したのは2017年6月でした。この連載でもたびたび登場する「人生設計の基本公式」の使い方、お金の管理方法、正しい運用方法などをご紹介しています。

あれから2年余り、想定よりも早く、増補改訂版『人生にお金はいくら必要か』を出させていただくことになりました。きっかけとなったのは、大騒ぎになったあの「老後2000万円不足問題」です。この問題の本質についても、山崎さんが詳しく解説しています。

「老後2000万円不足問題」は、結果的に、これまで「お金そのもの」あるいは公的年金制度などに関心がなかった若い世代が、お金のことを考えるきっかけになったように思います。しかし、老後不安で将来に暗雲が垂れ込めたまま、どうすればいいのかわからないという人は、まだたくさんいらっしゃるでしょう。

「商品」から入ると、老後資金作りに失敗する

私は日頃、お金のアドバイザーとして個人のお金の相談に乗っています。これまで、さまざまなご相談を受けてきましたが、1つの「失敗の法則」があると思っています。それは、お金の問題を解決しようとするとき、「商品から入ると失敗する」ということです。実際、別のところで商品を勧められて購入して問題が生じ、セカンドオピニオンとして私のところにご相談に来られる方が後を断ちません。


お金の問題は、「どう生きていくのか」という「人生の問題」と深く結び付いていますので、お金の人生設計を考えるときは、まず、自分のライフプランをしっかり考えることが不可欠です。当然ながら、相談の際には、ご相談者本人と、あるいはパートナーの方も一緒に、じっくり話をして、人生をつうじて家計や資産全体のあり方、扱い方について考えていくことになります。

これに対し、「ライフプラン表を作成して、老後資金としていくら足りないからこの商品で増やしましょう」、などというアドバイスは間違っています。これは、ライフプラン表やアドバイスを、商品販売のツールとして使っているにすぎません。

お金は人生の目的ではなく、単なる手段です。いかに便利に、必要に応じて合理的に取り扱っていくかが大切です。そのためには、まず、自分がいくら貯蓄していかなければならないかを知ることです。今の収入は、現在の生活を支えるお金であると同時に、将来の自分を支えるお金でもあるからです。現役時代に稼いだお金の一部を将来に備えて貯めておいて、老後はその蓄えを取り崩すということです。

また、必要貯蓄率は、ライフプランの変化があれば変わってきますので、必要に応じて何度も計算し直すことも必要です。

さて、「人生設計の基本公式」は、誰でも簡単に自分の必要貯蓄率を求められるツールです。これまで、セミナーや個人相談でも実際にこの公式を使って計算し、また、使い方をお伝えしてきました。手前みそながら、「このシンプルな式は使える!」と実感しています。その理由は大きく3つあります。

1つ目は、すべての人にとって大切なのは、平均値に基づく老後資金のメドではなく、自分の数字で必要額を計算することです。その計算方法を知ることこそが「人生のお金の問題」を解決する第一歩なのです。つまり、必要貯蓄率が守れていれば、今後、お金について大きな問題が生じることはありません。いたずらに老後不安におびえる必要もなくなるのです。

2つ目は、老後に必要な資金をつくっていくとき、「自分が受け取ることができる公的年金額を計算に入れること」が重要だということです。「老後の必要な資金は人それぞれ」というのは、言い換えれば、公的年金がいくらもらえるかによって貯めるお金は違ってくるということです。

必要貯蓄率がわかれば、自由に使える懐具合もわかる

最強は老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取れる正社員の共働き夫婦です。公的年金は、受給要件を満たせば、必ず生涯受け取れますので、その分、今後貯めていかなければならない金額は抑えられます。一方、自営業者の方は、公的年金額が少ないので、より多くの貯蓄が必要です。「人生設計の基本公式」は、それぞれの公的年金額を計算式に入れて必要貯蓄率が求められる設計になっています。

もし、年金を受け取れないとしたらどうでしょう? 必要貯蓄率はとてつもなく高くなります。試しに、「人生設計の基本公式」で公的年金額をゼロにして計算してみてください。公的年金を受け取る場合と同等の生活水準を維持したければ、現役時代の半分以上を貯蓄していかなければならないことがわかります。つまり、現役時代の余裕がなくなるどころか、かなり生活水準を下げなければいけません。

公的年金は、老後生活費の柱となる心強い保険です。公的年金の受給額を算入して必要貯蓄率を考えることで、現役時代に、毎月、いくらまでなら自由に使えるのかがわかります。その範囲で、安心して必要な消費をすればよいのです。

「人生設計の基本公式」は、もっと貯蓄しなさいということをいうためにあるわけではありません。決めた額の貯蓄ができているのなら、これだけのお金を使っても大丈夫です、という額を求めるための計算式でもあるのです。 貯蓄は大切ですが、人生の目的ではありません。お金は、予算内で適切に使ってこそ価値を生みます。 

老後の生活費の目安がわかっていれば、いたずらに老後不安をあおるセールストークに乗って、資産形成に合理的ではない商品を買うという間違いを避けられます。

しかし、公的年金をいくらもらえるのかわからないという人は多いです。50歳以上なら「ねんきん定期便」などでおおよその見込み額がわかりますが、それより若い世代は、そもそも年金制度に懐疑的だという人も多いようです。

そこで、増補改訂版『人生にお金はいくら必要か』では、年金額がわかる早見表を付けました。また、年金制度についてもわかりやすく解説を書きましたので、不安も払拭できると思います。

お金について悩む時間を減らし、人生を幸せに楽しく

「人生設計の基本公式」が使える理由の3つ目は、現在の生活費をベースにして老後の生活費を想定しますので、イメージがしやすいことです。例えば、リタイアまでに住宅ローンを完済し、子どもも独立すれば、今より4割程度は生活費が圧縮できるとか、一生賃貸のつもりなのでリタイア後も生活費はあまり変わらないとか、ご自身の考えるライフプランを反映して計算することができます。

私のホームページに6つの数字を入れていただければ簡単に必要貯蓄率が計算できるツールがありますので、ぜひ利用して、ご自身の必要貯蓄率を求めてください。さらに、計算のポイントをご紹介する動画も用意しましたので、ぜひご覧いただければと思います。

この連載でも「人生設計の基本公式」の使い方をいくつか解説しています。お金の問題解決をしたい「ご本人」はもちろん、コンサルティングなどに利用していただいても結構です。そのときは、相談者が何度でも計算をし直せるように、先の計算ツールのことも教えてあげてください。

お金について悩む時間を減らせると、もっと人生は幸せに楽しくなります。お金はシンプルに扱い、仕事の時間、家族との時間、友だちと過ごす時間や趣味や好きなことに費やす時間をたっぷり楽しみましょう。増補改訂版『人生にお金はいくら必要か』が皆さんの役に立つことを願っています。