何という結末!最後まで魅力的な攻撃ラグビーで魅せたオールブラックスが、最終的に全部を上書きしていった決定的記憶。

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尻上がりの展開!

「日本で2番目に人気があるチーム」とイングランド代表エディー・ジョーンズHコーチは評したそうですが、この大会期間はまさにオールブラックスとともにある時間でした。ラグビーを知らない人にすらその名を知られたスターチーム。黒光りする男たち。そそり立つ漆黒の肉体。まさに日本のアイドルでした。

あらゆる場所に呼ばれ、あらゆる場所で「わたしたちのぜんりょくのはか」を披露され、ときに砂に埋められ、ときにテレビで朝っぱらからラインアウトで芸能人を持ち上げ、そしてすべての試合で大観衆に大満足を与えてきました。「ワールドカップでオールブラックスを見た」という一生の宝。僕もそれを手にしたひとりです。カパ・オ・パンゴは右隣の席にいたアイルランド応援団のライアン(仮名)にかき消されましたが、この記憶は一生ものです。

彼らにとって3位決定戦というのは心から望んだ舞台ではないかもしれません。しかし、オールブラックスが最後の最後までこの大会に居てくれたことは開催国としてもこの上ない悦びです。そして、まさか最後の最後まで尻上がりに盛り上げていただけるなんて。お尻はふたつに割れているけれど、ラガーマンはノーサイド。お尻は左右でONE TEAM。素晴らしい戦いへの感謝と敬意をもって、最後の試合を堪能します。

今大会最後のハカ。すでに優勝はないということで、平常時仕様の「カ・マテ」となりますが、その勇壮さはなんら変わりません。舌出しでおなじみのスクラムハーフ・ペレナラがメンバーから外れたことで、この日のリードはこの試合でオールブラックスを去ることを決めているキャプテンのキーラン・リード。これからは日本のトップリーグで見られる世界のレジェンドが、最後のハカをこの舞台に捧げます。



このクラスのチームにとって「3位」で極限のモチベーションを発揮するのは至難でしょうし、極限の戦いのなかで離脱するメンバーも増えています。厳しく辛い戦いです。しかし、オールブラックスは「いつだって」オールブラックスです。つなぐ、走る、攻める。ともすればフィジカルをベースに守備的な戦いが優位に傾いてもおかしくないこのスポーツを、オールブラックスは「魅力的な攻撃」で守ってきました。伝統国の報道で日本代表が「オールブラックスのようだ」と評されたとき、何とも言えない誇らしい気持ちになりました。夢、憧れ、そのものです。

立ち上がりから攻めるオールブラックスは、前半5分に早速のトライ。最後はフォワード陣がオフロードパスでつないで飛び込みました。どこからでもつなぐぞ。どこからでも走るぞ。高い基本技術は全員がバックスのようでさえあります。何となく日本代表・稲垣のトライを思い出します。つづく前半13分にもアーロン・スミスからボウデン・バレットのゴールデンコンビが、ウェールズラインを一発で切り裂くスイッチからトライ。「トライはこんなに簡単なのか」と魔法でも見ているかのよう。美しい。

↓スローで見ていても逆を突かれる魔法のスイッチ!


キレイに抜けてそのままトライ!

いやー、このオールブラックスを止め切ったイングランド、改めて凄すぎる!




しかし、ウェールズもオールブラックスの守備が一瞬乱れたところを突いて前半19分に反撃のトライ。さらに前半27分にもペナルティゴールを決めて4点差まで追い上げます。南アフリカとの準決勝ではガマンと忍耐のキック合戦のような試合を演じましたが、この日は互いに攻撃的。パスで人を飛ばして外に持っていくような場面もしばしば作り、とにかくトライを狙い、勝つんだという姿勢です。

それでもオールブラックスは、「攻撃」でその上をいきます。前半33分にはベン・スミスが鋭い身のこなしからウェールズDFの密集地帯を稲妻のようなラインで走り抜けていき「5人抜き」のトライ。さらに前半終了のホーンのあとのラストプレーでは、アーロン・スミスから「相手DF3人の間を通す」というスルーパスがベン・スミスに通って前半で4つめのトライ。ベン&ベンの美しいトライ。「狭い門をモリモリ抜けていった!」「何というパスのお通じ!」という素晴らしいプレーの連続で、さらなる感謝の念が沸いてきます。あぁ、何とすごい決定力!

↓なお、この試合は上皇上皇后両陛下もご観戦なされました!

「やっぱり陛下もオールブラックスですか?」
「オールブラックス見たいですよね!」
「どれか1試合と言われたら」
「オールブラックス!」
「日本戦も見たいけれど」
「日本戦に行くと、いろいろざわつくし」
「存在自体がプレッシャー説もあるし」
「何のざわつきもない試合から」
「どれか1試合選ぶなら」
「オールブラックス!」
「もう言うなれば隠居だし」
「何なら毎試合きてもいいんだけど」
「行くこと自体が現場の負担説もあるから」
「ケッ定版の1試合をチョイスするなら」
「オールブラックス!」

陛下ドミーハーでございますなwww

「朕はオールブラックスを希望します」のお気持ち表明www




「後半にどちらが先制パンチを喰らわすか」という五郎丸解説者のハーフタイム解説を受けての後半戦。オールブラックスのキックで始まったかと思えば、すぐさまオールブラックスのパンチが飛び出します。ウェールズのキックミスもあって相手陣内に深く攻め入ると、間の空いたところを的確に突き、崩れたラインの裏に走り込む味方へオフロードパス。「上から神の視点で見ていればそこに穴があるのはわかるが」という穴を的確に突いていく崩しのお手本のような攻撃で、わずか2分であっさりトライ。35-10とかなり大きな点差になりました。

意地のウェールズ、レッドドラゴン。オールブラックスより速く鋭くというのは難しそうですが、自慢の「堅守」を攻撃に転換するように赤い壁がジワジワとインゴールに迫っていく攻撃で食い下がります。59分には20フェーズの連続攻撃からチカラで押し切って反撃のトライ。トライを決めたアダムスはトライランキング首位に立つ7トライ目で35-15とします。さらに人気のダン・ビガーのキックも決まって35-17。まだ点差は大きいけれど、最後まで懸命に戦います。

時間が進み、若干余裕も出てきたオールブラックスは、ベンチで国際映像に抜かれた選手がカメラに笑顔で手を振る場面も。試合中に早くも靴を飛ばしてみたり、決着の時へと確実に近づいていきます。迎えた73分、モウンガが自ら蹴ったボールを追いかけ、ウェールズにキャリーバックを強いる形とすると、敵陣5メートルでのスクラムから最後は先ほど玉を蹴ったモウンガが持ち込んでトライ。勝利を決定づけました!



素晴らしい戦い、素晴らしい大会。ケッ勝戦という最高のデザートを残し、一足先にこの舞台を去るオールブラックス。3連覇は逃すも、最後までオールブラックスはオールブラックスでした。ホーンが鳴ったあともなお、トライを目指すキャリー、そしてオフロードパスでつなぐ技巧。たとえパンツをつかまれようとインゴールを目指す超攻撃的軍団は、かけがえのない記憶を日本に遺してくれました。この結末はきっと忘れられないものとなるでしょう。そのほかのことを大半忘れてしまいそうですが……!

↓世界のSNSで「バナナと桃をエッチな意味で使うの禁止な」という話題が出た日に尻上がりのプレーが出た!

ダメだ、舌出してるオールブラックスとこのオールブラックスしか思い出せない!

素晴らしいプレーを最後に上書きしていった決定的記憶!




さぁ、残すはただ1試合の決勝戦。日本を育てたエディーが率いるイングランドと、日本代表を破って勝ち上がった南アフリカ。どっちに転んでも悦べることは間違いない戦いです。招致、ブライトンの奇跡、チケット争奪戦、本大会、歓喜のベスト8、さまざまな記憶を締めくくるグランドフィナーレです。最後まで楽しんで、心に刻んでいきたいもの。素晴らしい時間への感謝を込めて!


ありがとうABs、次回は日本とも戦いましょう!145点を雪辱します!