全国各地には、知られていないが「日本一」を誇れるふるさとが多くある(写真:ばりろく/PIXTA)

国土面積37万7974㎢の日本には、意外な1番が各地にある。自然、伝統文化、食、そして先人たちの知恵……。ふるさと納税ブームで地方のよさが再認識され、注目を集めているが、まだまだ知らないことも多い。

今回は、知られざる地方の「1番」から、今すぐ雑談のネタで使えそうな、興味深い話を集めてみた。日刊ゲンダイの経済記事を長年担当し、数字の裏の真相を見つめ続けてきた山田稔氏が著した『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』から一部を抜粋し、再構成して紹介しよう。

日本一リッチな小さな村のスゴイ海外研修

伊勢湾の北部、愛知県名古屋市に隣接した海部郡に飛島村という人口4800人ほどの小さな村がある。この村の実力がスゴイ。自治体の財政健全度を示す財政力指数が2.15で断トツの日本一なのである。

もともとは寒村だったが、伊勢湾岸地域に臨海工業地域が造られ、同村南部の臨海部が一大物流拠点となり、大手企業が続々と進出したのだ。その結果、村の財政はみるみるうちに改善し、日本一リッチな村として知られるようになった。


伊勢湾の北部、名古屋市の隣にある飛島村。村には伊勢湾岸自動車道が通る(地図:飛島村ホームページより)

この村のすばらしいところは、豊かな財政を住民サービスにきちんと還元していることだ。

その象徴が子どもたちへの投資だ。小中一貫の村立飛島学園を2010年に設立。初等部4年間、中等部3年間、高等部2年間の区分で9年間の義務教育をこなす。「確かな未来を拓く」を校訓に、400人余りの生徒が充実した教育を受けている。

ユニークなのは8年生(中学2年生)を対象にした海外派遣事業。1991年から始まった制度で村の全額負担で中学生の海外派遣研修を実施している。2018年度は47人の生徒が5泊7日で姉妹都市のアメリカのカリフォルニア州リオビスタ市などを訪問した。

社会保障も手厚い。18歳までの子ども医療は医療保険の自己負担額を村が助成、後期高齢者医療制度の被保険者の自己負担額も助成される。夫婦どちらかが40歳以下、住民登録から継続して6カ月以上経過といった条件をクリアすれば、婚姻時に5万円の結婚祝い金が出る。

さらに、長寿のお祝い金も半端じゃない。長寿奉祝金として満90歳で20万円、95歳で50万円、100歳ではなんと100万円が贈呈されるのだ(※基準日に20年以上居住が条件)。

豊かな財政を未来を担う子どもたちに投資し、村に貢献してきた高齢者にはお祝い金で還元。お金だけではない、心も日本一リッチな村である。

生乳生産量、日本一の町

北海道東部・中標津空港から車で30分ほど。オホーツク海に面した別海町は酪農王国・北海道の中でも1番の牛のまちである。2018年2月現在の牛の飼養頭数は11万1285頭(2018年2月)。このうち10万3699頭が乳牛である。乳牛を飼っている農家(乳用牛飼養戸数)は708戸だから、1戸当たりの飼育数は146頭という大規模経営だ。同町のサイトによると、生乳生産量は48万2221トンで日本一である。

ちなみに全国の乳牛の飼養頭数は約133万頭だから、別海町だけで7.8%を占める。1戸当たりの飼育数の全国平均は84.6頭(2018年)。別海町の酪農家は、全国平均の1.7倍の牛を飼育しているのだ。

別海町の酪農は、1956(昭和31)年に高度酪農集約地域に指定されて以来、第1次、第2次の農業構造改善事業、新酪農村建設事業を通じて、機械や施設の大型化が進んだ。最近では、最新の搾乳ロボットを導入して搾乳量を大幅に増やす牧場も出てきている。2018年の北海道胆振東部地震による道内のブラックアウト時には、自家発電で搾乳を続けた牧場もあったという。

そんな日本一の「乳牛のまち」にも人口減少の波は押し寄せている。2019年9月末の人口は1万5015人。1960年(昭和35年)のピーク時は2万1878人だったから、3割以上も減ってしまった。世帯人員も減り、核家族化が進行した。酪農家にとってもまち全体にとっても、酪農の担い手確保が重要課題だ。

そこでまちは、研修から新規就農までサポートする別海町酪農研修牧場を設立。研修生には牧場の職員として研修手当(総合職は月額17万円)が支払われ、3年間の研修を終えると、新規就農する際にはさまざまな助成金が受けられるシステムが整っている。その結果、1997年から2016年までに72組が新規就農を果たしたという。未来につながる酪農王国の取り組みが注目される。

長野県南部、岐阜県との県境にある阿智村は人口約6600人の小さな村で、東京からは中央道経由で3時間半、名古屋からは1時間半というロケーション。1973年に鉄道建設工事のトンネル掘削のボーリング工事中に温泉が噴出し、1988年に昼神温泉観光センターが設置されたが、知名度が低く東京から遠いこともあり、年間の観光客数は延べ7824人(昼神温泉=2003年)と冴えなかった。

そんな過疎の村に大きな光が差したのは2006年のことだった。環境省の全国星空継続観察で、阿智村は「星の観察に適していた場所」の全国1位に輝いたのだ。

村は2012年から「日本一の星空ナイトツアー」をスタートさせたほか、星空を見上げるイベントや場所づくり、環境活動などを展開し、星空の村として全国的な知名度を獲得するまでになった。2018年には村内で開催された星空関連イベントの累計来場者数が50万人を突破している。

世界に向けて「星空の村」をアピールするため、2019年5月には世界記録チャレンジイベントを開催し、2640人が同時観測に成功し、ギネス世界記録を達成した。従来の記録はオーストラリアで認定された1869人だったから大幅更新だ。「日本一の星空の村」は「世界一の星空の村」へと進化したのである。

日本で最も本好きは岡山県民? 

知の分野で注目は岡山県。2018年度の日本図書館協会の調査で、岡山県立図書館の年間来館者数、個人貸出冊数合計(年間)が、ともに全国の都道府県立図書館中第1位だった。来館者数は98万9077人、個人貸出冊数は141万0737冊だった。


これで同図書館は2005年度から14年連続で全国1位を獲得したことになる。全国平均(2018年度)は来館者数が約37万5000人、個人貸出冊数が約35万4000冊だから、岡山のすごさは一目瞭然だ。

全国1位達成の理由について岡山県立図書館は、豊富な蔵書や好立地、専任職員によるきめ細かなサービスの提供、タイムリーな企画図書展示や各種イベントの開催を挙げている。スマホ依存が進み、本を読む層が減っていく中で、貴重な日本一である。

若者流出、人口減、高齢化、限界集落。最近は地方の疲弊ばかりが伝えられるが、ここに紹介したように、小さな自治体でもふるさとの資源、自然、パワー、そして住民たちの知恵や行動で、輝く自治体がたくさんある。地域の強みを改めて見つめ直し、全国各地のふるさとがもっともっと輝いてほしい。