市原隼人が、最近面白い。映画やドラマに精力的に出演し続け、あるときは「給食絶対主義者」の男性教師になったり、あるときは本物か偽物か定かではない「織田信長」になったりと、作品のたびに異なる顔を見せ、役を生き生きと演じている。そんな市原の最新主演映画は破天荒な僧侶を演じる『喝風太郎!!』だ。

「サラリーマン金太郎」などで知られる本宮ひろ志の同名漫画を実写映画化した『喝風太郎!!』は、僧侶の風太郎(市原)が主人公。長年の修行を終え、ボロボロの袈裟に身を包み町に降り立った風太郎は、大酒を飲み、女好きで、破天荒で非常識と、およそ僧侶のイメージにない言動ばかり。周りの人間は振り回されるのだが、彼らは風太郎と行動を共にすることで心が解きほぐれていく。

会う人、会う人に強烈なインパクトを残し、いつの間にか彼らの悩みを解決してくれる風太郎を演じたことは、市原本人にとっても気づきの存在になったという。2001年、岩井俊二監督作『リリイ・シュシュのすべて』で鮮烈な映画デビューを果たして以降、数々の作品に出演し脚光を浴びた裏には、見えざる苦労もあった。いま、とても穏やかな表情でインタビューに応じている市原は、自身の道の確かなことをかみしめているようにも見えた。

――『喝風太郎!!』では破天荒な僧侶を演じています。やってみて、いかがでしたか?

市原 作品に入る前には、僧侶とは何なのか、仏法とは何なのかから始まり、住職にお話を聞いたり、般若心経を覚えて、写経を教えていただき、ひとつひとつ整理しながら準備していきました。一見、荒くれ者の寺の僧侶が外界に下りて、現代の方たちに怒鳴っているふうに感じますが、実際は、それぞれの人々が持っているものを掘り起こしてるだけなんです。それに気づかされる人たちの様が、僕は好きですし、芝居をしていて面白かったです。

――柴田啓佑監督とは、初のお取り組みになりました。

市原 先ほども(取材前に)柴田監督と「本当にもう一回やりたいね」と話していました。戦友……ではないですけど、同志みたいな感じで思っています。作品はすべてご縁なのですが、僕はこの作品には、ほかの作品とは違う思いがあるんです。ものを作るにはいろいろな壁や大変さがあり、それが素晴らしいんだと改めて感じさせてもらえたので。

――撮影現場で、様々な感情が生まれたということですか?

市原 現場はいろいろあるのが付き物で、それが楽しいんです。役者は、撮影部、録音部、制作部など様々な部署がある中での、俳優部という一部門でしかないので、みんなで物を言いながらやり合っていくのも、映画ならではの楽しさだと思っています。新しい作品に入るたび、「今度は何ができるんだろう」、「どんな方とお会いできるんだろう」、「どんな現場になるんだろう」と、いつも夢を見させてもらっています。

――市原さんが作品に挑む際、気持ちの根底にあるのは、どのような思いなんでしょうか?

市原 「何か残したい」というのが根源にあります。お客様に何かを届ける思いがあってこそだと思うので、今回は特に深く感じられる作品でした。僕が演じたのは破天荒な僧侶という設定ですごく面白くは見えますけど、それ以上に、「世の中はこう動いているんだ」という重要なポイントを、しっかり捉えて見出してくださった作品です。鳥肌が立つほど核心を突いたことだと思いました。

――この作品のテーマに寄り添われていたんですね。

市原 いまの時代って、自分の人生においてやらなければならないことを見出せない時代、自分の居場所を探すことが多くなっている時代だと思うんです。それこそ武士の頃は、大義名分があるから生まれながらにしてやることも決まっていて、死に様も決まっていましたが、今はそういうものがなくなっています。人それぞれ何かに向かうことを自分で探さなければいけないという、ある意味、酷な時代でもあるんですよね。その中で、「どうすればいいか」という拠り所が寺であって僧侶なので、押しつけではなく、誰か困ってる人に対して自然と出たリアクションで、周りが何かを気づいていく感覚だと思うんです。自分でも作品に教わることが多かったので、その意味でも携われたことにすごく感謝しています。

――映画に気づかされたこともあったというお話でしたが、市原さんのもともとの考え方にシンクロするような部分もあったんでしょうか?

市原 何かあると思います。僕は無宗教ですけど、もともと人を信じることは大好きだし、何かを思うことで強くなれたりすることは本当に大切だと思っています。でも、風太郎ほど自分の思いを確信に変えて、いついかなるときも、誰に対しても、愚直にまっすぐ物を言えるところはないので、自分の中で憧れでもあります。ちょっと破天荒すぎるところはありつつも(笑)、こういう男でありたいと思います。

――とはいえ、素顔の市原さんが誰かをいつの間にか導いている風太郎になっていることも、あり得るのでは?

市原 いやいや、それはどうなんでしょう。自分にまだ自信もないですし、人見知りですし、前に出るのも苦手でしたし(笑)。

――苦手だったんですね。特に近年は様々なジャンルの役を演じられているイメージですが、ご自身のマインドは作品それぞれに影響を受けたりするんでしょうか?

市原 すべての作品が必然的にそうなります。自分が思っていなくても、そのように気持ちをもっていかなきゃいけないので。だから、20代とかは、気持ちが今よりもすごくブレていました。芝居に対する取り組み方がはっきりしていなかったときは、役をやる毎に涙が出てきて、部屋の隅っこで体育座りをして泣いているようなことが多かったです。眠れないし、現場の前の日とか吐いちゃうし、どんな思いで入ればいいのかな、といろいろな思いが渦巻いていたこともありました。

――年を重ねるにつれて、変わっていきましたか?

市原 30歳を超えた現在は、また違うかたちで現場に入るようになりました。いいのか悪いのかはわからないけど、何かに慣れてしまっているような自分も感じるんです。けど、こういう作品に出会えると、いろいろな思いを乗り越えてきた中で、何かを諦めるっていうこともそれ自体を諦めてもいいのかなって。そこに執着し続ける。意地ではないですけど、そういうものがあってもいいのかなとも思います。こういう風太郎みたいな男をやらせていただいて、改めてそう感じました。

――風太郎が人生を導くひとりに、SNS依存の詩織(工藤綾乃)がいます。SNSやスマホで「つながっているから安心」と思う詩織のような人間は少なくないと思うんですが、市原さんはSNSに対してどう向き合っていますか?

市原 SNSでも、テレビでも、雑誌でも、すべてがまるまる伝わることは絶対になく、全部「意見」だと思っています。何かを伝えるというフィルターが入った時点で、違う思いが必ず入りますから、本質は見えないんです。だから、絶対に鵜呑みにしてはいけません。「自分の経験で物事を見る」気持ちを養うことが大切なのかなと思っています。昔だったらface to faceで、ちゃんと顔を合わせて話せたりできたものが、だんだん電波でつながる機会が増えていくと、周りの情報も得やすくなって、何かを見てしまった気になることもありますよね。やっぱり目の前のものとしっかり向き合うことが大切です。周りの言葉とか情報とかを無しにして向き合うことによって、救われることもありますし、気づかされることもたくさんあると思うので。僕は、自分の経験で見たいです。人がどう思っていても好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌いだと。

――ありがとうございます。今のお話こそ、“市原風太郎”ですね。

市原 市原風太郎(笑)。けど本当に、全部意見だと思っています。僕だって、自分も、人も信じられなくて、全部「どうでもいいや」というときも少なからずあったんですけど、時間とともに必ず前に進む方法は出てくるので。負けず嫌いなところもあるから、落ちるとこまで落ちて上がるしかないという、そういったポジティブな感覚でもやっています。(取材・文=赤山恭子、撮影=映美)

映画『喝風太郎!!』は2019年11月1日(金)より、全国順次ロードショー。

出演:市原隼人、藤田富、工藤綾乃、板野友美 ほか
監督:柴田啓佑
原作:本宮ひろ志
公式サイト:katsu-movie.com
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