「プログラムすべて」をやり切れるからこその4T+1Eu+3F!

フィギュアスケートGPシリーズスケートカナダで、またひとつ金字塔が打ち立てられました。男子シングルでの羽生結弦氏の演技。そのなかにはフィギュアスケート史上最大の大技が含まれていました。演技後半に盛り込まれた「4T+1Eu+3F」の3連続ジャンプ。このエレメンツが記録した20.90点は単独のエレメンツとしては旧採点を通じても史上最高得点となるもの、文字通りの「史上最高の大技」でした。



本来の基礎点15.30点。終盤のジャンプに与えられる1.1倍ボーナスを加味した基礎点が16.83点。そこにGOE評価での4.07点という加点を加えての20.90点。過去に単独のエレメンツが記録したスコアでは、旧採点時代にネイサン・チェンが「4Lz+3T」で記録した20.33点(17年四大陸選手権)・20.04点(17年スケートアメリカ)というものがありましたが、それはいずれも演技冒頭のエレメンツでした。

当時とは基礎点も採点方法も違いますので単純比較はできないものの、大きな傾向としては基礎点は低下傾向、GOEによる加点は細分化され「伸びは大きいけれど最高段階の評価でないと高得点は得られない」というところ。「美しく決まれば取れる」という形で、高得点を得るのはより難しくなっています。

そのなかで新たに生まれた史上最高得点エレメンツ。

これはまさに「ユヅルがユヅルであればよい」であり、プログラムすべてを妥協なくやり切ることができる羽生氏ならではの演技であることを示す結果だなと思います。

昨季は「4T+3A」というジャンプシークエンスを成功させ、今季も「4T+1Eu+3F」という新たな組み合わせを成功させたことは、それ自体が高い技術力を示す何よりのもの。机上の空論としてはあり得るさまざまな組み合わせを現実で実行できるのは、ひとつひとつがバラバラの要素ではなく「ひとつなぎ」として「プログラムに織り込まれる」ように実施できる人だからこそ、どこにどういう順番で放り込んでも実行することができる。十分な加速と準備を必要とするのではなく、動きのなかに織り込めるからこその自由自在の組み合わせがある。

そして、演技後半というのもまた象徴的。体力的な余裕があり、集中力を発揮しやすい演技冒頭ではなく、少なからず疲労がある演技の後半にこれを実施できる。「後半だからこそ」の1.1倍ボーナスがあり、「後半なのに」高い出来栄えの加点を取れるという実施があり、背反するものが組み合わさったからこその20.90点。技術を発揮できる局面が限定されるのではなく「自由自在」だからこそ生まれた高得点、これぞ「羽生結弦」だなと思います。知ってはいたけれど「象徴的」である、そんなエレメンツだったなと。

↓フリープログラム212.99点も史上最高に迫る高得点!明らかなミスがあってのこの得点は「伸びしろ」アリ!


よく考えたら、去年は足が痛くて、一昨年も足が痛かった!

練習から本番まで、久々にコンディションの充実を感じさせる良質な演技!




フリーに臨んだ羽生氏の表情は充実と余裕を感じさせるものでした。苦しい状況のなかでどうやって上手く乗り切るかではなく、いい練習が積めてきたという過程の良好さが自信となっています。唯一気になっている4回転ループに対しても何度も何度も調整で挑むことができ、直前の練習でもジャンプの本数を控えるようなことがありません。練習のなかでは完璧な4回転ループも決めます。「健康っていいな!」と感じる日曜日の午後です。

スタンドにはプーさんコスプレのファンも多数並び、地元のファンと日本から遠征したファンが共存する「ホーム」の雰囲気。これまでこのスケートカナダで勝っていないことが不思議になるようないい空気です。直前には日本の田中刑事さんやアメリカのプルキネンが自己ベストを更新する好演技を見せ、熱気も高まっています。魔物ではなく「やれる」という雰囲気の大会になっています。いまだ完成を見ないOriginの真の姿、この日ならば…と思うような日です。

滑り出した羽生氏、拳を引きつけるように力強く演じる冒頭の「ドゥクンドゥクン」から、まずは大事な4回転ループに臨みます。やや着氷こらえるようなところはあるものの、調整を繰り返した課題のジャンプをしっかり決めてきました。4回転サルコウ、フライングからのコンビネーションスピンと鮮やかに決めていく羽生氏。途中の振り付けにも細かなアップデートがあり、大きな上下動、高速でバイオリンを弾くかのような手の乱舞、ダイナミックさが増しています。

そして演技後半に差し掛かると、世界最高得点エレメンツとなる「4T+1Eu+3F」を繰り出します。三連続の最後には足上げをつけるなど、ギリギリではなく余裕を見せるかのような姿勢。そして世界最高のトリプルアクセルから繰り出すコンボの2連続。ミスや抜けがあっても挽回がきかない演技終盤にすべてのコンビネーションを入れられるのもまた、「プログラムすべて」をやり切る人の選択であり、それゆえの見返りもあるという構成。尻すぼみになるより尻上がりに見せ場がくるほうが盛り上がるのは、映画でも演劇でもディナーコースでも当たり前のこと。得点も興奮もグッと盛り上がってきます。

コレオシークエンス、2連続のスピンと勝利への仕上げを施す際には拍手と歓声がわき起こり、本人もまた勝利を感じていたことでしょう。相手に対してというよりは、自分に対しての勝利を。決めた、やった、乗り越えた。待ちきれないように繰り出されたガッツポーズが自身の満足度を示すかのよう。得点を見るまでもない優勝は、これぞ「圧倒的に勝つ」でした!

↓氷を叩いて「やっとスケートカナダで優勝できたよーーー!」のご挨拶!


これは次のNHK杯が伝説になる予感しかしない!

怪我なく、自分の道を突き進んでください!

優勝の翌日、エキシビションではソチ五輪のショートプログラムとして知られる「パリの散歩道」を演じたという羽生氏。4回転が1本の構成は現在の視点から見れば緩やかなものではありますが、そう見えることはいかに羽生氏が過ごした時代や、自ら押し上げてきた時代が、激動のものであったかを示しています。たった2回前の五輪金のプログラムが、時代の流れからは少し離されつつあり、自らもさらに先へと進んでいるのですから。

どうしても「高速で回転する」競技というのは身体が細く、出せるチカラに対して身体が軽いほうが優位に働きます。体操などもそうです。ただ、演技の魅力は経験と人生を重ねることで増していくはずのもの。19歳の羽生結弦の投げキッスよりも24歳の羽生結弦の投げキッスのほうがガチ感が出てくるように、いろいろな表現も年齢を重ねて磨かれていくはず。肉体の変化を技術で上回って、自身をさらに高みへと押し上げられたなら、それはすなわち「競技の進化」ともなるはず。20代後半、30歳までピークがつづくような、それが当たり前としてみなが取り組めるような、そんな競技へと。

「今の羽生結弦が一番スゴい」

そのことを感覚でも数字でも感じながら、この先のさらなる進化を見守っていけることを、とても嬉しく感じるスケートカナダとなりました!

↓それにしてもエキシビションでやる内容じゃないでしょ!世界選手権でやってもそこそこ上位にくるよ!

ジャッジーーー!採点してくれーーー!

パリ散2019が何点出てるか知りたいわ!




今よりいいものをこれから見られるなら、今から好きになっても全然遅くない!