It's Laser Time

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厚生労働省が今週公表したパワハラ防止の指針案は、パワハラ認定の定義が狭く具体性も欠けていると波紋を広げているらしい。

素案では、例えば「必要以上に長時間にわたる厳しい叱責」はパワハラに該当するそうだが、その「長時間」の具体的な目安は厚労省によると「ケース・バイ・ケース」だという。

それはそうだ。パワハラの場合でも定量評価に向いている項目が多少はあるのかもしれないが、さすがにパワハラ行為の継続時間となると、仮に具体的な目安を設定したとしても当事者や監督者の混乱をかえって招くだけだろう。

このパワハラ防止問題は厚労省としては「労働」側の案件だが、職場など労働者の健康問題としてとらえると「厚生」側の問題でもある。うまく連動した対策につながるのであれば、20年前に厚生省と労働省を統合したのはあながち間違いではなかったのかもしれない。

さて、パワハラや他のハラスメントに限ったことではないが、「心の傷」は可視化することができない。

心の傷と体の傷

心の傷の場合、傷の種類・程度や負った経緯はそれこそケース・バイ・ケースだ。傷の治り方や治し方を的確に見定めるのは容易ではない。そして昔に比べると心の傷のバリエーションは増え、何かしら心の傷を負って治療を受ける人の数は増えている。社会や生活の変化とともに医療現場でも暗中模索が続いているのではないだろうか。僕はこの分野の専門家ではないが、美容医療においても心のケアは重要。それには心の傷のケアも含まれる。

それに比べると、僕が形成外科医として長年関わってきた体の傷は、治り方や治し方がこの30年ほどで劇的な進化と変化を遂げ、体系的に整理もされた。

以前このコラムでも書いたが、傷治療の常識が「しっかり消毒して乾燥」「かさぶたを作って治す」から、「消毒せずしっかり水洗い」「湿った状態を維持して治す」という「湿潤療法」に変わったのもその一例だ。これにより、かつては「傷が治っている証拠」と歓迎されたかさぶたは、「治りかけの傷を保護する正義の味方」から「傷の早くてキレイな治りを妨げる邪魔者」に転落してしまった。

これに関連して、先日ある人から「シミ取りレーザー治療のあとにできるかさぶたは邪魔者ではないのか」という質問を受けた。

シミ取りレーザー照射後のかさぶた

見た目のアンチエイジングを追求する女性にとって、顔のシワ、シミ、たるみは永遠の3大テーマだ。いや、最近は一部の男性にもこれは当てはまるかもしれない。

これらの治療の中でも特に過去10年ほどでめざましい進歩を遂げたのはシミのレーザー治療だ。加齢とともに顔や手の甲などを覆うシミは、医学用語だと「色素性老人斑」。主には基底層と呼ばれる表皮の一番深い層の周辺で発生するメラニン色素の沈着だ。基本的な対策としては紫外線ブロックやビタミンCなどの内服など、体の外側と内側から行う予防的なスキンケアだが、最近ではほとんどの種類のシミが医療用レーザー治療で改善できるようになった。シミの種類によっては肉眼で見えないレベルまで、ほぼ完全に消すことも可能になった。

シミ取りのためにレーザー照射を行う際、医師は数日後からかさぶたができると言うことが多い。そのかさぶたは必ずしもすり傷や切り傷の際に傷口に厚く盛り上がってできるような「かさぶたらしい」ものではなく、皮膚の部分的な変色や点状の変色にしか見えない場合もある。

だが、見た目は「かさぶたらしさ」がなくても、レーザー照射後のかさぶたは皮膚がレーザーによるダメージから回復するまで保護する役割がある。すり傷や切り傷のように皮膚組織の深い部分まで開いてしまうようなダメージを受ける傷の場合は湿潤療法が基本だが、レーザー照射の場合は湿潤療法が必要になるような深さや性質の傷ではないため、かさぶたは邪魔者ではなくちゃんと正義の味方としての役割を果たしてくれる。無理に取ろうとせず自然に取れるまで待つ必要がある。

ただ、かさぶたができず改めてレーザ照射が必要になったり、かさぶたはできたものの、それが取れてみると炎症後色素沈着が発生していて、シミが実際に消えるまでに数ヶ月かかることも多い。

慎重なクリニック選びと医師コミュニケーション

一口にシミ取りレーザーといっても、そのバリエーションは幅広い。多くのメーカーが波長や出力など特性の異なるさまざまな機種を次々と開発し、専門医でも最新の技術や機器をすべてフォローして試用や購入することは不可能だ。またシミの場合も、一口にシミといってもさまざまな種類があり、その種類や程度に応じてレーザー機器の使い分けをしないと十分な効果を得ることができないこともある。さらにはシミの種類や状態によってはレーザー照射でかえって悪化することもある。

結局のところ、シミに関する医学知識だけでなく最新レーザー機器にも精通した医師が、患者のシミの種類や状態、さらには悩みや期待などの心理面も十分に見極め、適切な診断や判断をした上で治療を進めることが重要になる。

美容医療の場合、保険診療主体の大学病院や市中の総合病院よりも専門クリニックの自由診療として行われるケースが圧倒的に多い。そしてレーザー機器に限らず、美容医療で使用される機器には医師個人の責任のもと個人輸入された、国内未承認の海外メーカー品も多い。最大の効果と安心のために大切なのは慎重なクリニック選び、そしてやはり医師とのコミュニケーションだ。

[執筆/編集長 塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」