2人目の子どもが欲しいのですが、夫は口では同意するものの協力的ではありません。先日、それを問い詰めたら帰宅時間が遅くなり、目も合わせてくれなくなりました(写真:takasuu/iStock)

家族関係」に関するお悩みはどの世代の方もそれぞれにあるものです。「家族」であるからこその関係性のあり方、「血のつながり」や「パーソナルスペースを共有する」故の難しさがあります。

「ほっと肩の力を抜く場所であるはずの帰る場所」が、まさにストレスの現場になっている方は多いのです。家族であろうと、あらゆるストレスのすべては、「対人」です。そして、癒すのもまた「人」なのです。

ただ気持ちにふたをしては根本解決にはなりません。「なぜそうなのか」を知ることはとても重要です。生活カウンセラーの筆者がよりよいコミュニケーションをとる方法について解説していきます。

帰宅時間が日に日に遅くなる夫

「夫がいよいよ帰ってこなくなっちゃった……。毎晩終電で、金曜は午前様。土日は寝てばかり。今日は夫が家にいるのでここに来ました。最近では目も合わせてくれないんです」

日曜の昼下がりにいらっしゃったともみさん(仮名、40歳)は続けます。

「子どもも3才になるし、そろそろ2人目欲しいなと思って、去年から夫に相談してたんですよ。話したときは、『うん、そうだね』と言っていたのに、一向に夜の営みはないままで、どうしたらいいんだろうってすごく悩んでいます。今の子が生まれてから、夫とはもう夜はご無沙汰で、どうやっていいのかすっかり忘れちゃってる感じです(苦笑)。

ほかに女でもいるのかなとも思ってはみたものの、一応ちゃんと帰ってくるしそんな気配はまったくない感じで。で、先月くらいに、『2人目つくろうって言ったじゃん、私ももう年だし、限界あるんだからちゃんと真剣に考えてんの?』と問い詰めたら、その翌週くらいから帰ってくる時間が遅くなるように……。金曜は毎週午前様でいよいよ帰ってこなくなっちゃった……」

ともみさんのようなお悩みをお持ちの方は多いです。

40歳という年齢を考えればともみさんの焦る気持ちもよくわかります。なるべく自然妊娠を希望されていますからなおのことです。

ほとんどのお宅では、お子さんが生まれると夫婦の関係性が変わってきます。子ども中心の生活になりますので、ご主人のなれない仕草にイライラしてつい強く当たったり……なんて方も多いです。

ともみさんもその1人。ご両親が近くに住んでいるわけでもなく、自分たちで何でもやらなければいけないですから、必死です。

ご主人は随分気を使ってくれていたようですが、それがことごとくずれていてイライラしてしまうとおしゃいます。気がつくと、子どもにも夫にもいつも怒っている状態に。

「誰でも初めてのことはわからないことばかりですものね。ともみさんも子育てに奮闘されてるんですね。ご主人とは育児や家事の分担などがうまくいっているほうですか?」

「はい。時々食事も作ってくれますし、家事もそこそこ分担できているほうだとは思いますが、最近は夫が夜遅いので、平日は私が急いで仕事から帰って子どもを迎えにいって……という感じですね」(ともみさん)

家庭を“気まずい場所“と認識すると溝は深まる

以前は平日でもご主人がお迎えに行ったりと家事育児分担もそれなりにできていたともみさんご夫婦。それが最近では、ご主人との会話どころか、ともみさんの家事負担も大きくなってしまっています。ここはなんとか夫婦の関係性を取り戻したいところです。

家族関係の中で、男性が家庭を“気まずい場所“と認識してしまうのにはいくつかのパターンがあるのですが、家事や子育ての分担がうまくいかなくて妻に文句を言われたり、強い口調で何か言われたことが初めのきっかけになることが多いのです。

とくに子育てに関しては日本はまだまだお母さんの仕事という暗黙の了解が根強いですし、1度強い口調で言われてしまうと、「口も手も出さないほうが穏便だ」と経験的に学習してしまい、外から傍観した結果、育児参加も家事も積極的にできない、やれと言われたことだけしかやれない。家にいるときはじっと気配を消してゲームばかりしてるとか、家族と距離を置いて自分の世界に閉じこもれるものに没頭して、ますます家族との関係に溝ができてしまうなんて方のお話もよく聞きます。

ともみさん夫婦について聞いてみると、まさにこのパターンで、ともみさんはいつもご主人に「なんでやってくれないの? 使えないわね」などと強い口調で当たってしまい、休日はご主人は黙ってひとり離れて録画したテレビをずっと見てるとのこと。そして先日の「2人目」について責めるように詰め寄ったことがプレッシャーになってしまったのでしょう。

一生懸命になるあまりに心に余裕がなくなるのは仕方がないことですが、家族といえど、自尊心を傷つける権利まではありません。

問題なのは、「ことある度に」きちんとコミュニケーションをとらずにきたことです。ちりも積もれば山となるで、小さな心のすれ違いは雪だるま状に大きくなってしまいます。小さなことでも、スルーせずにその場できちんとお互いに落とし込むという作業はとても大切なのです。気がついたときには「存在自体がイライラする、わかり合えない」なんてことにもなりかねませんから。

互いの「感謝するところ」を見直す

「とくに昭和世代の男性は『男は泣くな、弱音を吐くな』と教育されてきていますからね。閉鎖的というか、自分から折れるということが下手な方が多い。お互いの気持ちを考えて、お互いに反省するところは反省する、感謝すべきところはきちんとお互い感謝するという基本的なところから1度見直してみましょうか。

ご主人から見てともみさんは「怒る人、自分の意見が通らない」と認識してしまってるのでしょう。まずそこを打破しましょう。

では、普段ご主人に感謝しているところを教えてください」

「……なんだろう。出てきませんね(苦笑)」(ともみさん)

「小さなことでいいんですよ。作ってくれるご飯がおいしいとか、子どもとの遊び方がうまいとか、むしろ小さなことのほうがいいです。そんなとこちゃんと見てるの?なんて思うような」

「あぁ……はい。確かに作ってくれるご飯はおいしいです。でも夫が台所に立つとものすごく散らかっていつも嫌だなと思ってしまうんですが、おいしいのはおいしいです。夫は子どものことを強く叱ったりしないので、子どもも夫といるときは伸び伸びしている感じです。言われてみると、いい面もあるはずなのにその前後の嫌なところしか目につかなくなっていたかもしれません。反省ですね」(ともみさん)

こちらからの投げかけで、ともみさんの口からようやくご主人のいいところが出てきました。普段から、お互いに「ありがとう」という言葉も交わせていなかったようです。

「ありがとう」という感謝の言葉は自尊心を尊重して相手の心を解かす第1歩です。普段からきちんと夫婦間でのコミュニケーションがとれていれば、お互い自然と「ありがとう」という感謝の気持ちも生まれてきますし、この「ありがとう」がまた夫婦関係をよりよく結んでいく肝になるのです。

まずは自分の非も認めて謝る。感謝を伝えて相手を尊重する。あとは、怒り口調にならないように気をつけてストレートに思いを投げかけてみることです。

1カ月後、スッキリした表情でいらっしゃったともみさん。

「なかなか口頭ではやっぱり言えなくて、日中、夫にLINEで切り出しました。『一生懸命になるばっかりに、つい怒ってしまっていつもごめんなさい。あなたには感謝しています。作ってくれるご飯もおいしいです。

この間話したように、2人目のことは真剣に考えています。この子に兄弟をつくってあげたい。この間責めるような言い方したのはごめんなさい。でも、真剣に考えているからこそ、あなたにも同じく真剣に考えてほしかっただけなの』と送りました。それには『わかった』とだけ返信がきましたが、その日夫は久々に早く帰宅し、子どもを寝かせてからゆっくり話ができました」

家族3人で月に1度は出かける

ご主人もともみさん同様に、今の状態は決して心地のよいものではないと感じていたようです。自分から話を切り出してもきちんと聞き入れてもらえないだろうと諦めていたところへ、ともみさんからのLINEがあったのはご主人にとってもいい展開だったようです。  

2人目のお子さんのことに関しても、別に子どもが欲しくないというわけではなく、やはり「家に自分の居場所がない」という感覚が強く不安が大きかったそうで、なかなか子づくりをするような気持ちにはなれなかったと。

そんな中ともみさんは、休日の過ごし方としてご主人に、「家族3人で月に1度はお出かけをする」という約束を提案したそうです。

これはとてもいいアイデアだと思いました。お互いの役割があっての時間や場所の共有は心の距離を縮めるにはとても効果的です。

「先週の土曜日に、家族3人で千葉にキャンプへ行きました。自然ってやっぱり癒やされますね。独身時代は私たち2人ともアウトドアが好きでよくキャンプにも行っていたんです。子どもができてから初めてのキャンプで、久々だったので夫も楽しそうに子どもにいろいろ教えてましたね」

家族に笑顔が戻ってきたといった印象です。

さらにこのキャンプの帰りの車で、ともみさんはご主人から思いもよらない提案をされました。

「40歳ってもう妊娠が難しい歳みたいだね。夫婦で不妊症のチェックができるクリニックあるみたいだから一緒に行ってみようか」と。

「正直とても驚きました。私自身検査は行こうと思っていましたけど、まさか夫からそのように切り出されるなんて思ってもみませんでした。しかも、こういった検査って女性ばかりで男性ってそういった意識ある人少ないじゃないですか。いつも黙ってばかりで何も考えてないと思っていたけど、夫なりに考えてくれてたんだって、おもわず涙腺がゆるんで、私も不安だったんだって実感しました」

夜の営み復活にはまだハードルがあると話していたともみさんですが、ご主人からのこの提案で随分心がほぐれたようで、次の排卵日には子づくりをしようという約束をすることができたと照れ笑いしながら話してくれました。

関係悪化の原因は「内容」より「言い方」

そのほかには日常でも、例えばご主人が皿洗いをしてくれた後には以前なら「床もびちょびちょじゃないの!」と怒っていたところを、「皿洗いありがとう」と言えるようになったそうです。不思議なことに、「ありがとう」と言われるとご主人も気持ちがいいのか、皿洗いの後に自発的に周りに飛び散った水を布巾でふき取るようになったとか。

いいところを意識をするようにしたらストレスが軽減されてあまり怒らなくなったと言います。

ともみさん夫婦のように、夫婦関係の悪化の原因で多いのは、「何か」ではなく、その「口調」や「言い方」です。悪気はなくとも、強い口調で言われれば誰でも委縮してしまいますし、逆に、嫌なことでも柔らかい口調で言われるとなぜだかそんなに嫌な気持ちにならないものです。これはある種のテクニックのようなものですが、少しの心がけで相手の心にすっと近づけるものなのです。

そして、 お互い「リスペクトの心」がないとコミュニケーションはうまくいきません。

前向きに話し合うにはとくに、この「認め合い」と「お互いへの感謝」がないと始まりませんので、心に少しの余裕は忘れずにいたいものです。それから、世のご主人方も、不機嫌な妻が目の前にいるときには委縮せずに、「一緒にやろう」と一言添えてぜひ積極的な姿勢でいていただけたら妻の態度も少し柔らかくなるかもしれません。