新たなマツダファンの獲得も狙えるサイズ感を

 マツダのまったく新しいコンパクトクロスオーバーSUV「CX-30」の日本仕様が9月20日に正式発表。10月24日より2リッターガソリン車と1.8リッターディーゼル車の販売が開始される。新型マツダ3をベースとし、CX-3とCX-5の間を埋めるべく生み出されたこのモデルの狙い、デザイン、そして走りの秘密とは。開発を指揮した佐賀尚人主査に聞いた。

──CX-30を開発するにあたって、CX-3もしくはCX-4のフルモデルチェンジとしては企画せず、初めからCX-3とCX-5の間を埋めるものとして考えたのでしょうか?

 佐賀尚人主査(以下、佐賀):そうですね。昨今のクロスオーバーシフトを考えたときに、どうしてもこのカテゴリーのクルマが欲しかった、というのがあります。新聞で「CX-3が新しくなる」と報道されたことがありましたが、私自身驚いた記憶があります(笑)。クロスオーバーSUVが多様化するなかで、このクラスは重要になってくると思いますね。それに、CX-3にはCX-3の良さがありますので。

 CX-4は中国向けですが、CX-5をベースとしていてかなり大きいんですよ。ですので、日本や欧州にはマッチしないだろうなと。CX-30はよりヤングファミリーに近い位置を確認していった結果このサイズになったのですが、実際にどの市場でも「いいサイズだ」と言っていただいていますね。

──CX-8はミニバン、とくにMPVからの代替を担っていると思いますが、そういう意味ではCX-30はプレマシーからの代替になるのでしょうか?

 佐賀:プレマシーのお客さまからお乗り換えいただく可能性はある程度あると思います。それ以上に、ちょうどいいサイズということで、これまでマツダ車にお乗りいただけなかったお客さまにもアプローチしやすいクルマと考えていますので、そういった方々のお客さまを増やすチャンスにしていきたいと思っています。

──CX-30はマツダ3よりも背が高くホイールベースは短く車重も重いながら、ロール角を許容しつつそれに近いハンドリングや乗り心地を実現したとのことですが、具体的にはどのような対策を取ったのでしょうか?

 佐賀:基本的な骨格やサスペンション形式はマツダ3と同じですが、ボディと一緒にサスペンションはCX-30独自のものにしています。具体的には、ダンパーとスプリングの長さが変わっていますがジオメトリー、ボディとサスペンションとタイヤの関係はマツダ3と同じになるようにロアアームやナックル角を調整しています。車高が高い分サスペンションストロークが大きくなりますので、それでも基本的な動きはマツダ3でできているので、それを車高が高い分だけ微調整すれば済む……という作り方ですね。

 われわれは「同体質」と呼んでいますが、モノは変わっても考え方は一緒、踏襲しなければいけない構造と関係性は修正する。あくまでも構造ありきではなく体質ありき、そういう考え方で開発しています。

──ロールスピードはむしろ抑えている?

 佐賀:そうですね、少し抑えています。

──乗り心地の面では、ストロークが大きい分、むしろ有利になっていますか?

 佐賀:じつはストローク自体は、マツダ3に対して極端に増えてはいません。タイヤの厚みもマツダ3が45偏平なのに対しCX-30は55偏平なので、そういう点で多少効いている所はあるかもしれません。ただし基本的な動かし方は一緒なので、車高の高さなどによって少しキャラクターが違うくらいのイメージですね。ほぼ同じと考えていただいていいと思います。

生産部門と徹底的にこだわったボディライン

──マツダ3と同じ3種類のパワートレインが設定されていますが、セッティングは変えていますか?

 佐賀:変えています。基本的には同じような走り・燃費を目指していますが、どうしても車重が35〜50kg重いので、最終減速比を低くして、キャリブレーションを取っています。通常SUV化すると一般的には80〜100kg重くなるのですが、35〜50kgに抑えています。そこがマツダ3と同体質になっているポイントだと思います。

──ボディやさまざまな装備の材質をより広範囲で軽量なものにしているのでしょうか?

 佐賀:軽量化に関してはマツダ3と一緒です。CX-30専用という点は正直ないのですが、マツダ3からできるだけ補強せずに済むようしっかり作ろうと。そこが今回の一括企画のポイントで、最初からマツダ3とCX-30を作ることを決めていたので、部品を決めるときに両車の質量を担保できるようにしています。逆に言えば、その範囲に抑え込むことが至上命題だったのですが(笑)。そうして上手く共通化することが軽量化につながる、そういう発想です。

──今回シャークフィンアンテナを廃止しリヤガラスアンテナとすることで、ルーフで高さを決めることができたということですが、その技術的ブレイクスルーとなったポイントは?

 佐賀:じつは新世代商品群から、電装系のプラットフォームを一新しています。今までのハッチバック車やSUVではボディが分かれているうえリヤガラスの面積が狭く、充分な受信性能を確保できなかったのですが、要素を極力少なくする「引き算の美学」に基づいたデザインを実現するため「狭面積リヤガラスアンテナ」を新たに開発しました。

 具体的には、開発初期段階からそれを前提として、各部門が連携して適切な車両構造や部品のレイアウトを決めています。あとはCAE解析を活用して狭いガラスのなかに複数のアンテナを配置できる技術を確立したり、Dピラーにラジオチューナーを全車標準で搭載してアンテナからチューナーの間のフィーダー線を可能な限り短くしたりと、これもブレイクスルーというよりは細かな作り込みの積み重ねですね。

──新世代商品群から、デザインの面構成がより一層微妙な表現になっていますが、この造形を実現するうえで苦労したポイントは?

 佐賀:技術的には、非常に彫りの深い造形になっていますので、ドアの内蔵物とのトレードオフに加え、ドアヒンジの配置にも苦労しました。

 さらに、この造形を実現するには、生産部門の協力が非常に重要です。パネル上に折れ線があればいいのですが、実際このデータはクレイモデラーがチーフデザイナーと一緒にコンマ数ミリずつ決めてきたデザインで、それをデータに起こしているんですよ。今度はそれを、金型に落とし込んでいかなければならないので、金型職人が手作業で作るんです。

 途中にデータがあっても入口と出口は人の手作業なので、今は必ずデザインと金型製作の部門とで受け渡しの儀式を行います。それで、データを渡すのではなく、クレイモデラーが粘土モデルを前に、どういう所が重要なのかを、砥石で金型を削る人たちに伝授するんですね。そういった人間味のあることをしながらデザイナーの意図を汲んで、その上で金型に起こしています。

──CADデータを渡して「この通りにやってね、以上」ではないんですね(笑)。

 佐賀:それでは無理ですね。とくにウチのデザインのデータは非常に微妙なので、そういった積み重ねをしています。

──とくに側面は、深い部分と緩い部分との移ろいに微妙な表現がありますよね。

 佐賀:はい、ですから「移ろい」を表現したビデオを生産部門にも見てもらって、「こういう風に移ろうのが大事なんだ」と、彼らをまず感動させて味方に引き込む、デザインと生産の両部門が共創するんですね。

 だからバンパーも同じですね。バンパーは樹脂で作りますが、金属のように忠実に金型を作ってしまうと、じつはできあがったときに膨張するので、形が変わってしまうんですよ。ですから金属部品と同じように、デザインを再現する樹脂部品を作る取り組みを、プラスチックの技術担当としています。樹脂部品の膨張率を考えながら、型を作っているんですね。

──金属はスプリングバックで縮みますが、樹脂は膨張してしまうんですね。

 佐賀:その通りです。

 柳澤 亮チーフデザイナー:われわれデザイン部門はまったく言っていないんですが、技術部門は「面のアーティスト活動」と命名して活動していますね。エンジニアが「面のアーティストにならなければならないんだ」と言う、そんな会社はほかにないと思いますね(笑)。

素材の違いにもこだわったボディカラーにも注目したい

──バックドアは上側と中央が樹脂で、下側が鋼板なんですよね。同じ部位で素材が違うものを合わせ込むのは、かなり難しいのでは?

 佐賀:色合わせがすごく大変ですね。これも塗装技術とデザインのカラーチームが何回もやります。そして、本格的に生産を開始する前に、何回もトライアルをするんですね。それで合わせ込んでいって、工場に行って、実際のボディを日の光で見たり、そういったことを繰り返しています。ウチはこの点でかなりクオリティが上がっていると思うのですが、これも飛び道具的なブレイクスルーがあったわけではなく、そういった地道な共創活動の積み重ねですね。

──サプライヤーさんも関わってくる領域となると、余計に合わせ込みが大変ですよね。

 佐賀:そうですね、とくに色に関する所は。ですがすべてのサプライヤーさんが、デザインのカラーチームのチェックを受けて、色を最後まで合わせ込んでいます。そこでチェックに通らないと量産できない、それくらい厳しい管理をしていますね。さらに、デザイナーが作ったマスターの元々の色を、見本として管理していますね。

──とくにソウルレッドクリスタルメタリックは色味が変わりやすいので、合わせるのが難しいですよね。

 柳澤:ソウルレッドクリスタルメタリックとマシーングレープレミアムメタリックはやはり難しくて、光が当たった明るい所から陰の暗い所までの変化が大きいんです。ということは、明るい所から暗い所まで全部色を合わせ込まなければならないので。具体的には、アルミフレークの粒子を揃えるのを、鋼板は鋼板、樹脂は樹脂で、塗料が異なるにも関わらず、どちらも同じようにしなければならないので、それが非常に難しいですね。

──完成形のボディをそのまま塗装プールにドブ漬けするわけではないですものね(笑)

 佐賀:それができればどんなに楽か(笑)。

──鋼板は鋼板、樹脂は樹脂で別々に塗装しなければならないんですよね。

 柳澤 バンパーは内製していますが、バックドアの樹脂などはサプライヤーさんに作ってもらっています。その色味が全然違うとなると使えませんから。

 佐賀:そういう活動を、このクルマだから取り組んでいるわけではなく、新世代商品群に向けて良くしていくなかで、共創がどんどん生まれているんですね。お付き合いの長いサプライヤーさんはその辺を理解して、トータルで同じ方向へ向かっていける環境が、以前よりも随分できたと思います。だから、サプライヤーさんとマツダとの共創もたくさん生まれているんですね。心臓の鼓動のようにウィンカーが光る「ディミングターンシグナル」も、サプライヤーさんと共同で、マツダの考える「魂動」の光り方を実現するために非常に熱心に取り組んでいただきました。

──それは、一括企画だからこそできるようになったのでしょうか?

 佐賀:それもあると思います。方向性が定まっているので、することは形が変わっても一緒ですし、あとはコンセプトによってどういう味付けをしていくかということなので、目指す方向は一緒で、概念的な所はずれていないですね。昔は「こんなのできません」と言われることが多かったのですが(苦笑)。

──それを乗り越えたからこそ、CX-30ができたのですね。ありがとうございました。