機体システムが簡素になるほか、離着陸に既存の滑走路が使えることにより、大幅なコスト低減が可能となる。またジェット飛行ができるため、いつでも飛行中断ができ、着陸のやり直しや別空港への振り替えができるなど、安全性も向上する。

 しかし、限られたリソースで、この新技術を実現することが、最大の課題だ。起業後10年間は資金がなく、一人で開発に取り組んだ。エンジンや機体の開発を進めながら、ビジネスコンテストに出場し、事業計画を何度も作り直した。

 そんな中、アクセルスペース、アストロスケールなど他の国内宇宙ベンチャーが数十億円規模の資金調達を達成するなど、日本の宇宙ビジネスが大きな転換期を迎えていた。

 この動きに対応すべく、これまでのスポンサーではなく、事業投資として宇宙事業への参画を依頼する動きに変え、旅行会社のエイチ・アイ・エスと航空会社のANAホールディングスからの出資が決まった。エイチ・アイ・エスは宇宙旅行の販売、ANAは宇宙機の運航をサポートする計画だ。大手の後ろ盾を得たことで人材も確保できるようになり、開発環境を刷新し、R&Dセンターを開設した。

 現在、新たな資金調達を実施し、いよいよ宇宙へ到達させるための機体開発に着手している。無人実験機「PDAS-X06」と「PDAS-X07」だ。PDAS-X06は、機体システムの技術検証用であり、先ずは既存のジェットエンジンを2基搭載する。

 高度10キロメートル程度まで飛行させて、操縦系統や通信系統など機能確認をすると共に、飛行特性や離着陸性能の検証を行う。機体の基本特性と性能が確認できたら、2基のエンジンのうち片方のエンジンを新型エンジンに載せ換え、エンジンの性能確認を行う。

 これが成功したら2020年には全長10メートル、総重量3トンの機体で、高度100キロメートルに到達、かつ帰還し着陸させる計画だ。これは日本で初となる挑戦である。無人機で培った技術は、有人機の開発に反映させていく。「先行する米国の宇宙旅行会社から遅れること5年以内、2024年には商業運航を開始したい」(同)と意気込む。

その先に描く宇宙輸送事業
 同社が実現を目指すのは、宇宙旅行だけではない。大きく4つの宇宙輸送事業を展開する計画だ。第一段階は地上100キロメートルまで上がって戻ってくる弾道飛行(サブオービタル)で、微小重力実験や大気観測に活用する。これを無人から有人に発展させればサブオービタル宇宙旅行が可能となる。

 第二段階では、超小型衛星を地球の周回軌道へ投入する。サブオービタル機を再使用可能なロケットの1段目として活用することで、人工衛星の軌道投入コストを大幅に削減することができる。これにより宇宙太陽光発電所や宇宙ホテルなど大規模建造物を宇宙空間に建設することが経済的に現実味を帯びてくる。

 第三段階は、マッハ5.0以上という極超音速で宇宙空間を経由し、わずか数時間で地球の裏側にも到達する、「大陸間横断飛行(二地点間飛行)」と呼ばれる夢の技術にも挑戦する。

 さらに第四段階では、地球近傍にとどまらず、月や火星などの他天体への輸送(軌道間遷移飛行)も視野に入れる。火星と木星の間にある小惑星群:アステロイドベルトに浮かぶ小惑星から、レアメタルやレアアースを取得するなど可能性は無限に広がる。

 「今、立っている位置は、失敗の連続で、問題を先送りにしてきた結果。最終的に一番ハードルの高いところに身を置いている」(同)と苦笑するが、自らのテクノロジーで宇宙に着実に近づいている。革新的な次世代宇宙システムを実現し、「宇宙輸送の翼」となる。その情熱が尽きることはない。