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●興味を引いたのは、「直行便志向の定着」の兆し

ボーイングがこのほど、旅客機分野に関する最新の市場予測(CMO : Commercial Market Outlook)について、報道向けの説明会を開催した。その資料を基に、当節の旅客機ビジネスというものについてあれこれ考えてみたい。

○経済成長は航空輸送需要の増加につながる

ボーイングはこうした市場予測を定期的に公表しているが、回ごとに傾向がガラリと変わることは考えにくい。近年の基本的な傾向としては、「LCC向けに単通路機の需要が大きくなっている」「FSC向けの長距離路線はワイドボディ機が主役」「リージョナル機の市場規模は比較的小さい」といったところになるだろうか。

そして、その民間輸送機の需要を下支えしているのが地域経済の伸びであることは論を待たない。経済成長は人の往来の増加につながり、地域内、あるいは他の地域との人の往来を増やす。

また、経済成長が所得の伸びにつながれば、これもまた人の往来を増やす方向に働く。結果として航空輸送の需要が伸びて、そこで使われる民間輸送機の需要を増やすという流れである。

ただ、最近のLCCの急成長は、これまで費用を理由にして旅行を躊躇していた層に対する需要喚起につながっているかも知れない。もちろん、「安い」というだけではなくて、「行きたいと思っていたところに安く行けるのなら……」という話ではあろうが。

上の図で意外に感じたのは、所得者層の分布において中国が世界平均を下回っていることだが、なにしろ分母が大きい。高所得者層が増えている一方で、そうでない層も多いということであろう。

○定着した「直行便志向」

個人的に興味を引いたのは、「直行便志向の定着」とでもいえそうな流れだった。いわゆる「ハブ&スポーク」方式よりも、地点間を直航する傾向にあるという話である。これは、機体の経済性向上とオペレーションの効率化を求める方向に働く要素と考えられる。

ただし、上の図にある「就航先の増加と機材の小型化」には、LCCの増加が影響している部分もあるはずだ。

民間輸送機の経済性に関する指標といえばシート当たりの運航経費だが、定員が半分になったからといって運航経費が半分になるとは限らない。

むしろ大型機のほうが、シート当たりの運航経費を抑えるには有利であろう。すると、幹線区間に大型機を投入してまとめて運ぶ、「ハブ&スポーク」方式のほうが有利だが、肝心の旅客が直行便志向では逆らえない。そして、経済性の高い機体が求められると、ボーイング787のような最新世代の中型機は強い。

私事だが、筆者も乗り継ぎリスクが抑えられる直行便の方が好みである。ディレイが原因でヒヤヒヤしたり、経由地の空港でスタッフに先導されて走ったり、といった経験をすると、直行便志向が強まるかも?

●日本を含む北東アジア地域の市場はどうなるのか?

○北東アジア地域の市場予測

次に、北東アジア地域の市場予測を見てみる。ここでいう市場とは、旅客輸送の市場ではなく、そこで使用する機材の市場である。

上の資料にあるように、北東アジア地域ではワールドワイドと比べるとワイドボディ機の需要が大きく、単通路機との差が少ないとの予測になっている。

需要が大きい一方で、空港のキャパシティの制約などによって運航可能な便数が限られて、1機あたりのキャパシティを多くする方向に働いているのだろうか? それとも、欧米と比べると長距離の渡洋路線が多いという意味だろうか?

ボーイングの市場予測資料で興味深かったのは、「北東アジア地域のLCCではボーイング737シリーズのオペレーターが多い」というくだりだった。確かに、日本国内のLCCではA320シリーズの姿が目立つが、韓国のLCCでは737を使用しているところがけっこう目に付く。これは成田空港で外撮りしていると容易に理解できる。

どうしてこのような違いが現れたのかはわからない。エアラインは機種選定に際して、細々した理由を明らかにしないのだから当然だ。しかし少なくとも、韓国のLCCにおいて、なにかしら「737のほうが良い」と判断させる理由があったのは確かであろう。

ワイドボディ機と比較すると単通路機の単価は低いから、数量ベースでは単通路機のほうが多くても、金額ベースでみると差は大きく縮まる。そうはいっても、民間輸送機事業における単通路機の比重は大きいので、ボーイングとしては737MAXの運航や納入が止まっている現状は辛いところだろう。

○リージョナル機の市場は小さいとの予測

ところで。ボーイングは、ブラジルのエンブラエルが手掛けているリージョナル機の事業に参画して、10月3日に「ボーイング・ブラジル−コマーシャル」という新会社を立ち上げる、と発表した。出資比率はボーイングが80%、エンブラエルが20%だから、実質的にエンブラエルE-Jetの事業をボーイングの傘下に入れるような形である。

エンブラエルはリージョナル機市場の大手で、日本でもJ-AIRやフジドリームエアラインズで使用している。ところが先の図を見ると、そのリージョナル機の市場規模は数量ベースでも金額ベースでも、あまり大きくならない、との予測になっている。ワールドワイドでも、北東アジアでも、その傾向は同じだ。

すると、ボーイングはこの分野にどこまで重点を置いて、アグレッシブに攻めてくるのだろうか。エンブラエルの競合であるボンバルディアのCシリーズを自社の製品ラインに組み込んだ、エアバスへの対抗という一面はあるのだろうが。

以上が、ボーイングの調査部門による市場予測に基づく分析となる。あくまでこれは「ボーイングの調査部門による市場予測」だが、手前味噌な市場予測を出して実情と乖離しても、自らの首を絞めるだけである。適切なデータを積み上げた上で予測を行っているのは確かだ。ただ、外的要因に影響される部分や予測不可能な要因もあるから、実際に市場が予測通りに動くかどうかはわからない。

ともあれ、民間輸送機市場の現況がどうなっていて、メーカーが市場の将来をどう見ているかを知るのに、こうした市場予測は興味深いツールとなる。

その市場予測が、発表されるごとにどう変化しているのか。その差分を見ていくのも面白いかもしれない。データが十分に積み上がったら記事にしてみたいところだ。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。