「黄金比」顔?

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「美容外科医が絶賛! 世界で最も美しい"黄金比"顔はベラ・ハディッド」

「イギリスの美容外科医が"黄金比"に基づき測定した「美しい顔」トップ5は誰?」

慌ただしい一週間が終わり、ようやく週末だと思った金曜日、こんなネットニュースの見出しが目を引いた。美容外科医のはしくれとしては記事を読まないわけにはいかない。

「世界で最も美しい"黄金比"顔」とは?

記事の内容は、最も美しい比率とされる古代ギリシャの「黄金比」と最新の画像処理技術を駆使して女性セレブの顔を調査したロンドンの美容外科医による分析結果。

こう書くと高尚な響きがあるが、早い話が人気芸能人の顔立ちランキングだ。セレブの世界も栄枯盛衰があるためか、数年ごとにこの手のニュースが新たな顔ぶれで話題になるようだ。

今回、最も「完璧な顔」を持つ女性だと判定されたのはベラ・ハディッドというスーパーモデルだという。名前を読んでも写真を見ても、見覚えのない女性。それだけでなく、正直なところ「完璧な顔」と言われてもあまりピンとこない。

このモデルの顔と黄金比との適合率は94.35%だそうで、アゴの適合率が「ほかの誰よりも高い99.7%で、完璧な形からわずか0.3%ずれているだけ」らしい。掲載されている写真では、目の位置や鼻の長さと幅など、顔のパーツごとに算出した黄金比との適合率が記載されている。

記事には2位から5位までが順に「ビヨンセ、アンバー・ハード、アリアナ・グランデ、テイラー・スウィフト」とある。聞いたことのある気がする名前もあるが、やはり顔は思い浮かばない。

大元の海外記事を探してみたところ、出所はイギリスで最も古いタブロイド紙「Daily Mail」。ウィキペディアでは「Potentially unreliable sources (潜在的に信頼できない情報源)」の一つに分類されるメディアらしいが、こういう趣旨の記事であれば記事の信頼性をとやかく言う読者もあまりいないだろう。

この記事を読みながら、美容外科医の草分けともいえるある人物を思い出した。

「美の基準値」を追求することはナンセンス?

僕がアメリカでの8年間の武者修行を終えて帰国した1960年代半ば、日本では美容整形が一大ブームを迎えていた。当時から日本では国民皆保険が基本だったが、現在と同様、美容医療は保険が利かず明確な「美」や「完璧度」の判断基準もないという、開業医にとっては旨味もある分野。雨後の筍のように美容整形クリニックが乱立し、誇大広告は溢れ、専門的な知識や技術水準の低い医師が引き起こす医療トラブルも多発する無法地帯のような領域だった。

そんな中でも、主に教授をはじめとする大学病院の勤務医から成る形成外科学会から高い信頼と尊敬を得ていた開業医もいた。

その一人が、当時有楽町で開業していた千代田クリニックの古川正重氏。もともと耳鼻科医で美容外科医としては隆鼻術が得意だった氏は、顔面の計測に並ならぬ情熱をお持ちだった。ユニークな計測方法や黄金比を使った「美しい顔」の判定方法を編み出したと仰り、僕はそれについて話をお聞きする機会が何度かあった。その持論はあまりにも難解でさっぱり分からなかったことだけはよく覚えている。

ただ当時の僕でも、顔に限らず美容医療全般の話として、何らかの方法で美の基準を数値化することには意義を感じていた。

「美の基準を数値化」というと必ず出てくる議論がある。何かを美しいと感じるかどうかは主観の問題で、それを数値化した基準にするような話はナンセンスという意見だ。僕はそのような意見にはいつもこう答えるようにしている。

「ピカソの絵で描かれるような顔は、美術としては成立しても美容医療では成立しないですよね?」

フランスの詩人ボードレールは、美を「普遍的な八割と主観的、相対的な二割」という二面に分けて論じた。

二面のバランスを8:2とするのが適切かどうはともかく、美醜の基本となる「普遍的な」面に関しては、可能な限り数値化も含めた基準や範囲を見極めることには意義がある。その上で、「主観的、相対的な」面における要素の種類や程度、またそれらが生じる原因などを探求することが、究極的には美容医療における医師と患者の認識相違の排除や患者の満足度向上にもつながるはずだ。

さて、冒頭で紹介したDaily Mailの記事では、10位までのすべての顔写真にご丁寧にも顔の各パーツの黄金比適合率の数値が記載されている。残念ながら僕に見覚えのある顔は無かったが、ご興味のある向きは以下の記事を眺めて頂きたい。

Bella Hadid is the most beautiful woman in the world according to the 'Golden Ratio' equation devised in Ancient Greece
https://www.dailymail.co.uk/femail/article-7574225/Bella-Hadid-declared-beautiful-woman-world.html

[執筆/編集長 塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」