「トップ下+ストライカー」南野拓実はなぜゴールを量産できるのか【小宮良之の日本サッカー兵法書】

ドリブルで持ち込み、決定的なパスを繰り出し、コンビネーションからゴールに迫れる。プレースピードに優れ、前へ押し出すような凄みを持っている。シュートの形は、多彩だ。
利き足の左足で巻くようなシュートだけではない。GKとの1対1も得意。トップスピードのまま、ボールを思うままにコントロールできるだけに、意表をつける。また、右足でも、ヘディングでも、得点できる。
グリエーズマンは、ゴールに対する集中力が際立って高い。最初に、シュートの選択肢を探している。セカンドボールに対しても、怠らずにポジションを取れる。
特筆すべきは、ファーポストでのゴールが多い点か。相手のマークから逃げるような動きに長けている。スペースを認識する能力に優れ、密集地帯に飛び込まず、自分がシュートするスペースを必ず担保できている。相手を釣る動きをすることで、外側でフリーになれるのだ。
「DESMARQUE」
スペイン語で「マークを外す」という戦術的な動きに抜きん出ている。
プロデビューを飾ったレアル・ソシエダで、グリエーズマンはすでに非凡な選手だった。しかし勝気さもあって、ニアに突っ込む癖があったという。
「ファーで準備しろ」
そういうアドバイスを受けたことで、ファーポストでの得点が劇的に増えたそうだ。
森保ジャパンで最多得点を挙げているFW南野拓実(レッドブル・ザルツブルク)はグリエーズマンと、プレースタイルが似ているかもしれない。
ゴールに対する意識が高く、それに必要なスキルも持っている。利き足は右足で違うが、シュートに行くタイミングなどは通じる。反転が速く、シュートに持ち込むスピード、インテンシティーは特長的。トップ下的な選手でありながらも、同時にストライカーの匂いを漂わせる。
そしてクロスに対して、呼吸を合わせ、マークを外す術にも長ける。
10月10日に行なわれたモンゴル戦は、右サイドからのクロスに対し、ゴール前でフリーになって、ヘディングで叩き、ネットを揺らした。左右両足でシュートを打てるし、ヘディングも苦にしない。高い打点で、強い上半身を生かし、頭で打ち込める。
続くタジキスタン戦は、左からのクロスに対し、相手からファーポストに逃げる形でボールを呼び込み、頭でヒットした。2点目は、右からのグラウンダーのクロスに飛び込み、コースを変えてゴール。マークを外し、自分の前のシュートスペースを空ける、その準備動作でディフェンスに勝っていた。
南野は、欧州で能力の高いディフェンダーと対峙し、プレーが逞しく洗練された。味方に意志を伝え、味方の意思をくみ取る――。そのコミュニケーションの向上とも言える。マークを外し、ある地点にボールを呼び込めるか。
「DESMARQUE」
戦術的に質の高い動きをできるようになっていることで、その得点は必然的に増えているのだ。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。