就職氷河期世代の年齢ながらも渡米していたため、不況のあおりにあまり影響されずにいた男性に、結婚についての考えをうかがった(東洋経済オンライン編集部撮影)

バブル経済崩壊後の超就職難期に学校を卒業した、就職氷河期世代。ロスジェネ世代ともいわれ、年齢にすると現在30代後半から40代後半ぐらいの人たちだ。今の大学生と比べて人口が多く、受験も就職も競争率が激しいうえ、社会に出る頃には不況のあおりを食らって、望まない非正規雇用の働き方を選んだ人も少なくなかった。

そしてこのタイミングで先日、政府は就職氷河期世代を対象に、3年間で集中的に就職支援を行う政策を発表した。経済的弱者は非婚の一因にもつながる。この連載は、そんな就職氷河期のロスジェネ未婚男性を追うルポだ。

氷河期時代は渡米

ロスジェネ未婚男性といっても、今回は少し特殊な人だ。この世代の多くが就職難で苦しんでいた頃、渡米して留学、1年間就職していたため、日本での氷河期を経験していないという横田正輝さん(41歳、仮名)。

現在は療育をメインに心理士として日本で開業している。いいブランドの服や小物を身に着けており、高収入であることが見るからにわかる。加えてかなり饒舌で、アメリカナイズされたポジティブさが伝わってくる。しかし、元々はネガティブ要素も強かったという。


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「生まれつき難病の持病があり、食べ物や運動の制限があったり、頻繁に入院したりしていました。学校でいじめられたこともありましたが、光GENJIに憧れて、子役として芸能界の仕事をしたら『昨日、お前テレビに出てたな』と、いじめっ子たちに一目置かれていじめられなくなったんです。

持病は成長とともによくなり、医学部へ進学してゆくゆくはアメリカで学びたいと思っていました。しかし、『日本の大学を出てから渡米するより、直接アメリカの大学に入学したほうがいいのではないか』と友人に言われ、高校卒業後、日本の語学学校に1年間通って英語を勉強した後、渡米しました。病気のこともあり、今まで抑圧されてきたのでとにかく日本から出て自由になりたかったんです」

しかし、アメリカの大学で医学部に入学しようとしたところ、留学生は医学部の奨学金が適用されず、ほかにも私立でないと留学生は入学できないことも判明。仕方なく私立の学費を見てみると日本と変わらないうえ、奨学金も出ない。

「調べていると、実習を受けて研究助手をすれば、奨学金も給与も出る大学院を見つけました。そこで、心理学の大学院に進み、就職先を探すことにしました」


渡米時の就職の様子を語ってくれた横田さん(東洋経済オンライン編集部撮影)

日本の新卒一括採用とは違い、卒業の2カ月前からレジュメを書いたりして就職したい会社に送った。就職して突然現場に放り込まれる日本とは違い、アメリカでは大学院に行くとみっちり2年間インターンがあり、卒業すると専門家として扱えるほどのスキルが身に付く。基本は面接のみでエントリーシートなどはないそうだ。

「大学院卒業後、1度、カリフォルニア州でコンサルタントとして就職したのですが、大学ではコンサルばかりやっていたのでセラピーの技術がなくて困り――。年収は日本円にすると550万円程度だったのですが、技術を身に着けるために収入は下がるものの、1度そこを辞めて、別の会社でセラピストとして雇ってもらいました。その経験が今に生きていています」

セラピーの技術を身に付けた横田さんのクライエント(心理学の分野で顧客の意味)の1人は日本人だった。そのクライエントから帰国を強く希望され、2005年、27歳のとき日本に帰国した。するとクライエントが1人また1人と増えていき、再就職を考える間もなく開業することになった。

恋愛経験は多く50人以上と交際

さて、横田さんの結婚観についてだが、これがまたかなりのこだわりがある。見るからにモテそうな風貌の彼。日本でもアメリカでも恋愛経験は多く、50人以上と交際してきたという。年齢を重ねると相手に求める理想も妥協しがちになるが、横田さんの場合、逆に理想が増していっているとのことだ。

「先日、結婚相手に求めるリストを書き出してみたら70項目を超えていました。歯がきれいだとか、肌がきれいだとか、字がきれいだとか、子どもが好きだとか。思うに、年を取るとそれだけ目が肥えていくのではないかと。1度日本の結婚相談所で、はたしてこの70以上の項目を全部クリアする女性がいるのか検索してもらったことがあります。

その相談所は20万人ほど女性が在籍していたのですが、その中に5人だけいたんです。数だけ知りたかったので会いはしませんでした。ゼロだったら諦めようと思っていましたが、5人いるならどこかに僕の理想の女性がいるのだろうなと」

婚活パーティーに参加したこともあるが、心理士という職業柄、どうしても他人の行動に目がいってしまい「この人はこうすればもっとモテるのに」と、心理分析をしてしまったという。

「婚活パーティーでは恋人ではなく友達はできました。それに、出会いっていっぱいあるじゃないですか。例えばバーに飲みに行ったら隣の人に声をかけますし。出会いがないと言っている人は外に出ていないだけなんですよね。また、年収1000万以上の人や経営者の男性のみ参加できるエグゼクティブパーティーに参加した際は、ブランド物のバッグを持っているお金が好きそうな小綺麗な女性ばかりで、パーティーの種類によって集まる層が違うことにも驚きました」

自分の子どもが欲しい

現在、横田さんは婚活をしていないが、結婚願望はある。その理由の1つは子どもが欲しいからだ。現在41歳なので、今から子どもをつくるとなると、体力的にもそろそろしんどいところだ。現在、2〜3歳前後の育児をしている同年代の友人が多いが、とにかく鬼のような体力なので、一緒に公園で遊ぶとぐったりしてしまうとよく言っている。

「子どもが大好きなんです。小さい頃入院していたとき、よく自分より小さな入院している子どもに紙芝居を読んであげていました。早く自分と血のつながっている子どもが欲しいです。もし、自分の生殖機能がダメだった場合は、里親も視野に入れています。今、仕事で生後間もない乳幼児から学童期をメインに療育をしているので、育てている感じがしてとても楽しいんです。でも、それがわが子となるとまた接し方も変わるだろうし、それを生きているうちに経験したいんです」

理想の女性のチェックリストが70以上もある横田さんは「ぴったり当てはまる人はアンドロイドだ」と自覚はしている。最後、1つだけ譲れない項目があるとしたら何かを尋ねてみた。すると、う〜んと唸った末、こんな回答が返ってきた。

「いちばんはその人が僕のことをずっと好きでい続けられるかどうかという自信が僕に伝わるかです。昔は愛されるより愛したい派だったのですが、今は愛するより愛されたいんです。あともう1つは食とお金の価値観ですね。価値観が合わないと話が合わず楽しくないし、週に1度はデートして外食したいです」

1つではなく2つ返ってきたが、交際相手もおらず婚活もしていない今、困っているかというとそうでもないらしい。それでも結婚願望があるのは、1人っ子であることと、すでに母親が他界し、父親もそれなりの年齢。もう自分しか「家族」を作ることができないからだそうだ。

「日本は結婚すると『家族』になりますが、アメリカはベビーシッターに預けて夫婦でデートするし、寝室も親子は別。子どもの前ではお父さんでいいけど、夫婦2人のときは名前で呼びます。それがめんどくさいと思う女性だと無理ですし、海外に住みたくないという人も無理です」

日本での氷河期を経験していないのとアメリカの価値観も混ざり合っているため、かなり独特の人生を歩んでいる人だった。結婚観や仕事について豪快に話す姿はまるで、帰国子女と話しているかのような濃密な時間だった。

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