故意に眼鏡をずらす愚行【画像提供:若狭敬一】

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胸躍るドラフト取材が次第に…CBCにはメール殺到「若狭を幽閉しろ」

 ドラフト会議が迫ってきた。この時期になると、必ず「今年も滝に打たれますか」と聞かれ、「社内待機でお願いします」と懇願される。たった1回の偶然?奇跡?実績?が私の環境を変えた。

 2005年、平田良介にインタビューをしたのが最初のドラフト取材だった。2006年はドラフト会議が行われた東京都内のホテルの報道陣控室で、中日が堂上直倫の交渉権を3球団競合の末に獲得した瞬間を見届けた。2008年もドラフト会場でスタンバイ。見事に野本圭の交渉権を獲得。2011年は山梨にいた。当時の高木守道監督が高橋周平のくじを引き当てた。私にとってドラフト取材は極めてスムーズで、胸躍る、充実した仕事だった。

 雲行きが怪しくなったのは2013年。私は松井裕樹のいる桐光学園でその時を待った。しかし、テレビに映ったのは楽天の立花陽三社長のガッツポーズだった。2014年は亜細亜大学へ。中日が山崎康晃を指名するという情報を入手していたからだ。ところが、蓋を開けてみれば、三菱日立パワーシステムズ横浜の野村亮介。2015年は県立岐阜商業に出向くも、高橋純平のくじを外し、2016年は作新学院で今井達也の取材を試みるも、指名は明治大学の柳裕也。2017年は広陵の中村奨成の会見場で唇を噛んだ。この頃、誰かが名付けた。「疫病神」と。

 そして、去年。CBCラジオ「若狭敬一のスポ音」には「絶対、どこにも行くな」「若狭を幽閉しろ」というメールが山のように届いた。CBC視聴者センターにも「当日、若狭アナはどうするつもりですか」という問い合わせが殺到。世論を無視できない情勢になった。

決断した滝行と社内待機、根尾を引き当て「滝すごい!」「待機正解!」

 そこで私は2つを決断。1つは滝行だ。厄落としのために名古屋市守山区の倶利加羅不動寺で滝に打たれた。身を震わせながら、「根尾(昂)君! ドラゴンズへ来て!」と絶叫。滝行後には「与田(剛)監督がくじを当てる映像が浮かびました」と明言した。もう1つは社内待機。2005年以来、初めてドラフト当日に社内でテレビ中継を見つめた。

 結果は周知の通り。すぐさまネットは「滝すごい!」「待機正解!」と大騒ぎ。吉見一起からも「滝の効果ですね!」とLINEが来た。12月、CBCドラゴンズナイター謝恩パーティーでは与田監督が「若狭君が行かなかったから。2人で獲ったね」と発言。さらに根尾の仮契約会見では米村明チーフスカウトから「ありがとう! 来年もよろしく」と握手を求められた。滝と待機が永遠となった。

 しかし、「滝の効果もいかがなものか」と疑う声もある。実は今年3月、私は中日のAクラス進出を祈願して、倶利加羅不動寺で滝行をしていたのだ。「もうBクラスは嫌だ!」「今年はみんな打つ! みんな抑える!」と声を枯らした。その願いが通じた部分もある。今シーズンの中日は打率1位、防御率3位。大島洋平が最多安打、大野雄大が最優秀防御率、ジョエリー・ロドリゲスが最優秀中継ぎのタイトルを獲得。梅津晃大、清水達也、山本拓実など若手投手陣も台頭。終盤までCS争いを繰り広げた。大野雄は「若狭さんの滝行以来、調子がいいです。今年も早く行ってください」と期待され、2桁勝利をマークした柳からも「滝、最高です。もっと打たれてください」と喜ばれている。しかし、チームは5位。一部の視聴者は「結局、7年連続Bクラス。滝も効果なし」と手厳しいのだ。

 これには猛省している。正直、3月の滝行にはわずかな邪念があったからだ。つい映像的なインパクトを求めてしまい、修行の一環であるにも関わらず、途中で故意に眼鏡をずらすという悪事を働いていたのである。放送ではカットになったが、カメラはその愚行をとらえていた。

見えた与田監督のガッツポーズ、はにかむ星稜高校のエース

 10月3日。「もうテレビのことは考えない。ひたすら中日のドラフト成功を願うのみ」という強い決意で再び寺に向かった。境内は私とディレクターのみ。張り詰めた空気の中、砂利を踏みしめる音だけが聞こえる。ただ、住職はこの日も明るく気さくで笑顔だった。滝つぼへ移動すると、突如、我々に感謝の言葉を述べ始めた。「この通路を見てください。リフォームしたんです。CBCさんのお陰で滝行の希望者が増えましてね。ありがとうございます」。要は「儲かりました」ということ。住職はどこまでも素直だった。

 白装束に着替え、塩で身を清め、いざ滝へ。傍らでは住職が般若心経を唱えている。冷水が容赦なく頭のてっぺんに落ちてくる。私は心の底から叫んだ。「奥川(恭伸)君! ドラゴンズに来て!」「与田監督は今年もくじを当てる!」。終始、目を閉じたままだった。眼鏡にも一切触れていない。精神を統一し、神へ思いを届けた。選手名も奥川一人に絞った。

 また、見えた。与田監督のガッツポーズも、はにかむ星稜高校のエースも、歓喜に沸く中日ファンの姿も。スカウト陣の集大成であり、アマチュア選手の夢が叶うドラフト会議。最初は何の問題もなかった。しかし、5年連続で負のスパイラルに陥った。そして、滝で流れを変えた。さぁ、今年はどうなる。もう私にできることは社内待機のみ。人事を尽くし、天命を待つ。(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋
大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会
社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。
<現在の担当番組>
テレビ「サンデードラゴンズ」毎週日曜12時54分〜
「High FIVE!!」毎週土曜17時〜
ラジオ「若狭敬一のスポ音」毎週土曜12時20分〜
「ドラ魂キング」毎週金曜16時〜