関西電力幹部は、なぜ「汚れたカネ」を受け取ったのか

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※本記事は『佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」』に収録している文化放送「くにまるジャパン極」の放送内容(2019年10月4日)の一部抜粋です。野村邦丸氏は番組パーソナリティです。

クビのリスクを冒してでも…?

邦丸:関西電力の金品受領事件ですね、高浜町の助役だった森山栄治さんが3月にお亡くなりになった後、一気に問題がワーッと出てきている。裏に隠れている原発マネーとかブラックボックスが垣間見えているなかで、佐藤さんはこの件をどんなふうにご覧になりますか。

佐藤:まず、報道各社は非常に素直な見方をしているわけですね。関電が関連業者に、原発に関する大規模な発注をする。大きなおカネが動くから、関連業者のほうからリベート、キックバックがあった。そのキックバックの間に元助役さんが入っていた──と、こういうストーリーなんですよね。

一見すると、確かに「関電は汚い」と見える。「そんなところで、自分たちのフトコロを潤して」と、こういう雰囲気になっていますよね。

ただ、もう一歩考えてみると、電力会社の社員の生涯所得は大きい。キックバックを受け取っていたことがバレたら、クビですよ。そんなリスクを幹部が冒すのか?

こう考えると、外務省時代の経験を思い出すんですよ。「欲しくないカネを、取らざるを得ない」状況ってあるんですよね。

邦丸:えっ。おカネは要らないのに?

佐藤:外交官は、おカネなんて要らないんです。給与を十分もらっていますから。ところが、政治家──有力な閣僚とか与党、それから野党の有力者を、たとえばモスクワでアテンドするでしょ。そういうときには、だいたい「ありがとう」と言っておカネをくれるんですよ。

しかし、こちらは仕事でやっているわけですから、給与をもらっているわけです。それ以外に対価をもらったらいけないですよね、公務員は。

邦丸:そうですね。

佐藤:ところが、そのおカネをもらわないと「オレのカネが取れないのか。オレと付き合わないということか」と、こういうふうになっちゃうんですよ。

邦丸:はあ〜。

「ヤバい金」の流れとは

佐藤:それだから、もしそういうふうに蹴っ飛ばしたら、特に相手が外務大臣とか、あるいは総理大臣とか官房副長官とかそういう人たちだったとしたら、「どこどこの〇〇というヤツは態度が悪い」という話になって、大変なことになっちゃうんですよ。「ありがとうございます」ともらうしかないわけ。

そんなカネ、誰も欲しくないでしょ。ヤバい話じゃないですか。だから、モスクワの大使館は裏口座をつくっていた。

邦丸:裏口座!

佐藤:そう。大使館には大使、公使、その下に総括参事官というのがいる。今はたぶん総括公使になっていると思うけど、これが裏回りの仕事を全部やる。ヤバいことだけやる人がいるんですよ。企業の総務みたいなものですが、その人のところに持っていくと、「わかった」と言って預かって、プール金にしてくれる。

人に言えないような、おカネがかかる仕事がときどきありますから、そういうときにはそのプール金を使うわけですよ。

邦丸:その仕事というのは、今は時効ですか?

佐藤:たとえば、大使館員が酔ってトラブルを起こした。そういったものを処理するときに、ちょっと有力な人に口をきいてもらうために、心付けを持っていく。そういう面倒くさい仕事ですよね。

邦丸:ふむ。たとえば現地に住んでいるモスクワ市民、あるいはロシア国民──当時はソ連ですけれど──に対する工作費に使うとか?

佐藤:それはまた別途おカネがあります。

邦丸:別会計ですか。

佐藤:大使館には報償費、いわゆる機密費という別のおカネがありますから、そういうことは大丈夫なんです。

要するに、政治家と外務省の関係ってそういう感じなんですよ。今は綱紀を改めたと言っているけど、それほど変わっていないと思います。カネを取らないと、政治家との信頼関係というものがなくなってしまう。

「承認欲求」だったのかもしれない

佐藤:あとは、これは今まで話したことがなかったけれど、新聞記者。政治家は新聞記者にもカネを渡すことがありますし、官僚も新聞記者にカネを渡すことがあります。

邦丸:へえ〜。

佐藤:これはどういうことかというと、政治家が記者に何か秘密情報を流すときというのは、だいたい「自分には力がある」ということを示したいときですよね。官僚が流すときには、その政策を推進する記事を書いてほしいか、あるいは潰してほしいかのどちらかなんです。だから、「クルマ代、持っていけ」といった形でカネを掴ませるんですよ。

カネを掴ませれば、お互いに悪事を働いたわけですから、運命共同体になる。で、秘密を守ってくれるわけです。

もし登場人物が普通のサラリーマンとか学校の先生とかだったら、単なるキックバックに見えるかもしれない。でも私は外務省にいたことがあるから、「おカネを取りたくないんだけれど、取らざるを得ない」という局面があるということを知っているので、今回はそういう例だなと見えるわけです。

邦丸: なるほど。

佐藤:この助役の人が辞めて以降、どうもこういうことが起きているらしい。というのは、ポストにいるときはその人の力をみんな認めているんですけれど、彼は恐らくポストから外れても、自分は有力者だということを見せつけたかった。そのためには、相手を悪事に引きずり込んで運命共同体にする。そうすれば、いつまでも言うことを聞くし、自分を軽く見ない──こういう思惑があったんじゃないか、と推定できるんですよ。

邦丸:今日、放送前の打ち合わせのときに、佐藤さんは「承認欲求」と言っていましたね。

佐藤:そう、一種の承認欲求じゃないかと思うんです。

だから、関電幹部はおカネが欲しかったとか、この助役の人は仕事を回してほしくておカネを回していた、という風に見ると、事柄の本質を見誤るんじゃないか。特に、人間って──これは政治家でも官僚でも同じなんですけれど、ポストを外れて年齢を重ねていくと、承認欲求が肥大する人が非常に多いんです。そっちの切り口なんじゃないかなと。

不可解な「修正申告」の理由

佐藤:ただ、関電にも何かやましいことがあるような気がするんです。たとえば「邦丸さん、この5000万円、取らないとどうなるかわかるか? 邦丸さん、かわいいお孫さんがいるよね」とか、「お孫さん、毎日どこを通って登校しているかなあ」とか言われると、受け取らざるを得ないでしょ。

邦丸:その菓子折りは一応、いただきますね……。

佐藤:受け取ってしまう。それで、「マズいぞ」と会社のみんなで相談して、「面倒だから、預かっておくということで金庫に入れておけ」とか、あるいは「会社の口座に入れておけ」というふうにする。

今回も、個人口座はなかったでしょう。そういうふうに対処しているならば、修正申告なんて応じるはずないんです。修正申告すると一時所得になって、これは私のおカネですと認めることになるわけだから、「確かに私がもらった」ということになっちゃう。

ここから先は推定の推定なんだけど、そうやっていくつももらっていると、たとえば現金の場合は会社の金庫、会社の口座に入れたけれども、商品券は使っちゃったとか、お仕立券で背広を作っちゃったとか、一部だけ個人的に使っちゃうことがある。しかし、少しでも汚れていれば全部真っ黒ですからね。そういう事情があったから修正申告しちゃったんじゃないか、と思うんですよ。

邦丸:これ、まだいろいろなことが明らかになっていませんが、経済産業省も全国の大きな会社には調査をすべきだと言っていますね。検察はどうでしょうか。

佐藤:検察は動くと思いますよ。ただ、どういう動き方をするかですよね。誰も指摘していないんですけど、可能性があるのは脱税です。

邦丸:脱税。

佐藤:一時所得だと認めたわけですね。もらったんだったら、なんでそのときに認めなかったんですかと。それでまず、延滞税がつきますよね。さらに、もらったことを税逃れで隠していたんじゃないですか、ということになれば重加算税がつく。そうしたら、とんでもない額になります。同時に、悪質だという認定がされれば逮捕されますからね。在宅起訴の可能性もあるので、実刑にはならないにしても前科はつきます。そういう方向に進むかもしれない。

本当の闇は解明されない

佐藤:どうして私がこうした変わった見方をするかというと、消費増税の実施直後だからです。増税直後というのは、脱税に関する摘発基準が普段よりずっと厳しくなるんです。

邦丸:過去、そうだったんですか。

佐藤:その傾向があります。「増税してうれしい」と思っている国民はいないでしょ。なんで2%上がるんだ、と思っているところに、不正にカネをもらって申告していなかった偉い人がいる、となると、みんなどう思いますか。

そこのところで、特捜が徹底的に脱税の捜査をやれば、世論は「ああ、特捜は頑張っているな。税金逃れをする人は厳しく取り立てて、正義を実現してください」というふうになるじゃないですか。仮に、森友問題で食い込めなかった大阪地検がやるとすると、「大阪地検特捜部は、よくやっている」という話になる。検察官は褒められるのが大好きですから。

邦丸:ふむ。

佐藤:いろんな形でこの問題は派生していくんだけれど、ただ、なぜこの森山さんという人がそういった承認欲求を持ったのか、いったいこの人が本当は何をしていたのかということに関しては、闇のままになるんじゃないですかね。それで、責任は全て関電の幹部が取らされて、みんなが忘れていくのを待つという、こんな流れになるんじゃないかと思っています。ミステリー小説のような世界です。