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第307回で、UGV(Unmanned Ground Vehicle)を武装化する試みを取り上げた。その中で、全体状況を認識して、脅威度が高い敵を発見して交戦するプロセスについて「人間が介在して指示を出す『man-in-the-loop』である」という話を書いた。

○AIが勝手に交戦する?

実は、UGVだけでなく空の上でUAV(Unmanned Aerial Vehicle)の武装化事例が出てきているせいもあり、「ロボット兵器が勝手に交戦する」と思っている人、あるいは「そういう時代がすぐそこまで来ている」と思っている人がいるように見受けられる。

折から、人工知能(AI : Artificial Intelligence)がブーム化していて、何でも「AIで○○する」というだけでニュース種になるような御時世だ。それと軍用無人ヴィークルの話がくっつけば、「AIを活用して自律交戦する無人ヴィークル」という話につながるのは無理もない。

実は、ウェポン・システムの分野でAIを使っている(らしい)事例はすでにあって、その1つがロッキード・マーティン社製の空対艦ミサイル、AGM-158C LRASM(Long Range Anti-Ship Missile)。ただし、AIが関わっているとされる目標捕捉機能の部分は、BAEシステムズ社が手掛けている。

もちろん、その具体的な内容はマル秘だが、LRASMが電波と赤外線を対象とするパッシブ誘導を使用していることは明らかにされている。まず、パッシブ逆探知装置で敵艦のレーダー電波を探知・捕捉して、目標に接近したところで画像赤外線センサーで目標を識別する。そして、正しい目標だと確認したら、いったん上昇してから逆落としに突入する。と、そんな動作だという。

参考 : Long Range Anti-Ship Missile (LRASM)

○LRASMにおけるAIの利用について推測する

では、そこでAIがどう関わってくるか。ここで書くことはあくまで筆者の推測だが、目標識別の部分でAIを利用するのではないだろうか。

レーダー電波の逆探知であれば、電子戦装置がやっているように、受信した電波の周波数や変調などといった特性を解析して、誰が出している電波なのかを判別する必要がある。赤外線センサーであれば、シーカーは赤外線発信源をみんな捕捉してしまうから、その中から重要そうな目標を拾い出すプロセスが必要になる。当然、艦によって赤外線映像には違いが出てくるはずだ。

LRASMは対艦ミサイルだから艦船を探知するが、複数の艦が陣形を組んで行動している時に、重要度の高そうな艦はどの辺にいるか。その識別をきちんとやらないと、雑魚みたいな艦(失礼)を撃沈して重要目標はそのまま、なんていうことになってしまう。

そして、レーダーにしても赤外線にしても、贋目標が出てくる可能性は常に考えなければならない。レーダー電波反射源になるチャフや展開式の囮はあるが、LRASMはパッシブ・レーダー誘導だから、それらには騙されない。しかし、贋の電波を出す囮だってある。赤外線も事情は似ていて、フレアを初めとして赤外線を出す囮はある。単に赤外線の強弱だけに立脚して判断すれば騙される。

そんな場面で手持ちのデータをありったけ食わせて解析して、贋の電波発信源や贋の赤外線発信源に騙されず、重要性が高い目標を選び出すように調教する。そこがAIの出番ではないかと推測してみた。

実際、他社でそういう使い方をしている事例がある。それが、ドイツの防衛電子機器メーカーであるヘンゾルトが2019年5月に発表した新型のレーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)「Kalaetron」。この製品では、敵レーダーが発する電波を受信・解析して脅威を識別する際にAIを活用しているという。

○勝手に交戦できるのか

筆者の口癖の1つに「コンピュータに勝手に戦争を始めさせるわけには行かない」がある。「戦争」を「戦闘」に置き換えても良い。

この記事の冒頭で「man-in-the-loop」 という言葉を使った。業界で多用される表現で、「loop」とは交戦の意思決定に関わるループを意味する。そして、「交戦の意思決定に人間を介在させる」という場面で、この言葉が頻出する。

実のところ、ちゃんとした軍隊であれば、交戦規則(ROE : Rules of Engagement)というものが決められており、それに則って交戦の可否を判断しなければならない。「撃たれたら撃ち返して良いが、こちらから先に撃つな」と決めておくのも、一種の交戦規則といえる。

それを決めておらず、現場の人間が勝手に「撃たれたからやっちまえ」と判断すれば問題である。それでは、ちゃんとした国家の軍隊に不可欠の要素である「統制」が成立しなくなる。

時々、「領空侵犯するような飛行機は撃ち落としてしまえ」「我が国の領海に入ってきた軍艦など沈めてしまえ」といきり立つ人がいるようだが、領空あるいは領海に入ってきたというだけで攻撃して良い、なんてことになれば収拾がつかない。実際に交戦に至るかどうかを判断するには、事前にちゃんと、そのための材料や判断基準を用意している。そして、それに基づいて人間が交戦の可否を判断している。

交戦の可否を判断する場面だけでなく、探知目標の中から「どれが本物の目標か」「この探知目標は本当に敵か」と判断する場面にも似たところがあり、さまざまな材料に基づいて判断した上で、攻撃するかどうかを人間が決めている。

これは無人ヴィークルでも同じ。例えば、ジェネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズのMQ-9リーパーの武装型を飛ばす時は、操縦担当のパイロットとセンサー担当のオペレーターがペアを組み、捕捉した映像やその他の情報に基づいて、交戦の可否を決めている。ヴィークルが無人だからといって、交戦までコンピュータが勝手に決めているわけではないし、何と何を確認しなければならないか、というチェックリストもある。

ちなみに米国防総省では、人間の判断を介さない、自律的に動く兵器について2012年に開発の禁止を発令した。もっとも、すべての国がこの動きに同調しているかというと、そうとはいいきれないが。

もしもAIを駆使して自律的に、「man-in-the-loop」ではない形で交戦を始めるようなシステムが出てくるとすれば、欧米あるいは欧米と価値観を共有している国ではなく、それ以外の国からではないか、というのが個人的な見解。なぜかというと、そうした国の方が、既存のルールに縛られず、自国を相対的に有利な立場に立たせる「ゲーム・チェンジャー」を希求していると考えられるからである。

もちろん、道義的な縛りがない分野であれば、欧米あるいは欧米と価値観を共有している国であっても、AIを活用する場面は増えてくるだろう。LRASMの例にあるように。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。