高橋学(立命館大学環太平洋文明研究センター教授)

 9月9日に千葉県を中心に甚大な被害をもたらした台風15号に続き、今月12、13日にも台風19号が東海地方や関東地方を直撃する見通しとなっている(11日午後5時現在)。

 スウェーデン人の少女で、環境保護活動家のグレタ・トゥーンベリさん(16)が国連の演説で二酸化炭素(CO2)の人為的増加への懸念を訴えたことから、巨大台風が繰り返し日本列島を襲う現状を気候温暖化と関連させて考えている人が少なからずいるようだ。そこで、環境史、土地開発史、災害史に基づくリスクについて研究をしている立場から、これについて検討してみたい。

 先の台風15号は、神奈川県の三浦半島に接近した後、東京湾を抜けて千葉市に上陸したときの中心気圧が960ヘクトパスカルで、最大風速も45メートルを観測し、たしかに強い台風であった。

 これを60年前の1959年に紀伊半島から東海地方を襲った伊勢湾台風と比較してみると、伊勢湾台風は9月23〜26日に895〜910ヘクトパスカルで、最大風速は60〜75メートルを記録。26日午後6時に潮岬西方に上陸したときの気圧は929ヘクトパスカルになり、勢力のピークを少し過ぎていた。

 また、1934年9月の室戸台風は、上陸直前の中心気圧が911ヘクトパスカル、1945年9月の枕崎台風が916ヘクトパスカル、1961年9月の第2室戸台風が925ヘクトパスカルであり、今年の15号や19号が飛びぬけて強いというわけではない。

 ただ、15号と19号は、関東地方(特に首都圏)を直接襲う台風であることや、上陸直前まで勢力が増すという点が特徴だ。これまでの台風の多くは、関東地方に達したとしても、中部地方以西に上陸し勢力が衰えていた。要するに、強い勢力を維持したまま首都圏を直撃する台風は、ほとんど経験がない。しかも、台風にエネルギーを供給する太平洋の海水温が27度を超えており、上陸直前まで、勢力が衰えるどころか、勢力が強くなり続けるという点も未経験だ。

 ところで、熱帯低気圧のうち10分間の最大風速が17・2メートルに達したものを台風と呼ぶ。そして台風の近くでは気圧が低下している。1気圧は1013ヘクトパスカルだが、10ヘクトパスカル気圧が低下するごとに海水面はおよそ10センチ上昇する。すなわち、913ヘクトパスカルであれば約1メートル海面が上昇するのだ。これを「吸い上げ効果」と呼ぶ。

日本列島に近づく台風19号=2019年10月11日午前(気象庁提供)

 また、風によって海水が移動し高くなる「吹き寄せ効果」も生じる。湾口が広く、風が湾奥に吹き込み、湾奥の幅や水深が浅くなるほど吹き寄せ効果が大きくなる。伊勢湾や東京湾は吹き寄せ効果が起きやすい。さらに月の引力の関係で、一日2回の潮の干満が生じる。今回の台風19号が東京湾に進入すると考えられる時間は10月12日夕刻であり、東京港の満潮(午後4時31分)のピークにあたる。しかも、14日が満月であり、12日でも海面は193センチの上昇が考えられている。これらの総計が高潮であり5メートルを越える可能性がある。

 では、近年日本各地で甚大な被害をもたらす台風発生の背景を見てみよう。今年7月ごろ、南米赤道付近の海面水温が高くなるエルニーニョ現象が終了し、赤道付近を東から西へ吹く風により太平洋の西にあたるフィリピン沖の海水温が高くなった。これによって、フィリピン沖で熱帯低気圧が発生しやすくなり、温度の高い海水温のために熱帯低気圧はエネルギーを供給され続け、勢力を増し強く大型の台風に発達しやすい状態になっている。

 この海水温の上昇が、人為的に増加したCO2と結びつくかどうかは、そもそもよく分かっていない。日本付近の海水温の上昇は、エルニーニョ現象の終了でも説明は可能だ。気候変動は様々なスケールでとらえることができる。たとえば、更新世から完新世に氷河期と温暖期が何度も繰り返していることが分かっている。それによれば、約2万年前は最終氷河期、そして現在は温暖期にあたる。

 また、1万2700〜1万800年前は、氷期末亜間氷期(アレレード期)と呼ばれる温暖期で、1万800〜9600年前は氷期末亜氷期(ヤンガードリアス期)と呼ばれる寒冷期だった。そしてその後、温暖期となる。しかし、温暖期のピークは約7400年前ごろであり、現在は少しずつではあるが寒冷化しつつある。

 そして、最近2千年間にも気候の変動が見られる。2世紀ごろはやや寒冷、西暦600年ごろはやや温暖、700年ごろは寒冷期、750年ごろから1300年ごろまでは温暖期(ヨーロッパでは中世温暖期と呼ばれている)である。

 しかし、1300年ごろから寒冷化が始まり、1500年ごろまで断続的に続く。日本の戦国時代は、気候の寒冷化により食料が獲れないことから始まったとみることができる。そして、一時的な短い温暖期をはさみ、1600年ごろから小氷期と呼ばれる時期に入り、それは1850年ごろまで続く。それ以降、気候は温暖化する。明治時代の初めに目盛りのついた温度計が発明されたが、「観測史上」と呼ばれるのは最近150年ほどのことである。

 さらにくわしく見ると、太陽黒点の増減から、1650年ごろから1700年ごろまでに太陽活動が衰退する「マウンダー極小期」や、1800年ごろの「ダルトン極小期」の存在が明らかになっている。そして1750年ごろ以降は、約11年周期で太陽活動の盛衰が繰り返し起き、現在はその24周期目で、2019年は再び太陽活動の衰退期にあたっている。

 また、火山の大規模な噴火も気候に影響する。たとえば、フィリピンのルソン島西部にあるピナツボ火山は1991年に大噴火した。そして噴出した火山は1万メートルを越え、成層圏まで到達し地球を覆い、太陽の光をさえぎるパラソル効果をもたらした。ピナツボ火山の噴火後、波長の短い青い太陽光線が地上に到達しなくなり、数年にわたり見事な朝焼けや夕焼けが見られた。波長の長い赤い光線が地上に到達したのである。

 そして、1993年に日本でも夏の気温が上がらず、コメの大不作が生じて外国からのコメの緊急輸入が行われたのである。現在、カムチャッカ半島や千島列島のシベルチ山などが大噴火しており、フィリピンやニューギニア、あるいは、メキシコでも火山の大噴火が続いている。これらが数年後に気候に影響する可能性がある。

 このように、気候変動は地球のタイムスケールによって様々にとらえられるし、いろいろな要素が組み合わさって決まる。冒頭で触れたように、グレタさんが考えているほど単純なものではないのだ。

台風15号の影響で出た大量のがれきやごみを片付ける住民やボランティア=2019年9月、千葉県鋸南町(鴨川一也撮影)

 彼女はアスペルガー症候群を公表しており、他人を疑うことが苦手で、嘘をつくことも苦手なのだろう。他人の言説をそのまま信じて、発言したり行動したりしている可能性がある。CO2の排出規制による化石燃料を用いた発電を抑えることは、1970年代に「クリーンエネルギー」と盛んに宣伝された原子力発電の推進に利用されかねない。このことをグレタさんは理解しているのだろうか。