右サイドを支配して3アシストを決めるなど、圧倒的な存在感を放った伊東。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 シュート数41対0。
 
 このような試合にやる意味があるのかという疑問はある。しかし、選手たちにはやるという選択肢しかなく、意味のある試合にするべくしっかりとプレーしていた。先制点を決めるまでに22分を要したが、ゴールが決まるのは時間の問題だった。
 
 伊東純也が走れば、まず勝てる――。
 
 序盤から右サイドでたしかな感触を得た日本は、このサイドからの崩しに狙いを絞った。マッチアップでは勝てるとなると、攻撃は伊東頼みの単調なものになりかねないが、そうした悪循環には陥らなかった。
 
 酒井宏樹や南野拓実、さらには遠藤航といった周りの選手が、さまざまなアイデアを出し合うことで、伊東のはやさを効率よく活かそうと工夫したからだ。
 
 左サイドから長くはやいパスを右サイドに通し、伊東に有利な形で1対1の場面を提供する。後方から酒井がオーバーラップやインナーラップを繰り返し、敵のマークを分散させる。中央の南野が仕掛けにかかる伊東をフォローして、ワンツーの選択肢を提示する。
 
 周りのお膳立てもあって、伊東は面白いように右サイドを切り崩した。やがて自分のマークが厳しくなると、今度はフリーとなった味方を効果的に使うようになった。
 
 仲間がキーマンとなる選手の良さを引き出し、その選手が今度は仲間を活かす。時計の針が進むにつれて、右サイドを中心に相互理解が深まっていく。負ける心配のない相手だったとはいえ、こうした積み上げの作業ができたことは今後に向けての収穫といえるだろう。
 
 ちなみにこの試合では、6ゴール中5点がサイド攻撃から生まれた。右サイドの伊東が3アシストを決め、さらに中島翔哉のCKから2ゴール。実力差が明らかとはいえ、守りを固める相手に対するサイド攻撃の有効性が改めて証明された。
 
 日本のサイド攻撃が機能した理由は、大きくふたつある。ひとつは前述したように、周りのサポートにも助けられて、伊東が余裕を持ってクロスを入れることができたからだ。あれだけ空間と時間があれば、当然、精度の高いクロスを入れることができる。
 
 もうひとつ。これは当たり前のことだが、サイドから攻め込むことは守備側にとって、非常に守りにくいという理由がある。サイドにボールがあると、守備者はボールとゴール前に入ってくる敵を同時に見ることができないからだ。だからこそ、DFは首を振って確認しようとする。日本のゴールシーンを見直しても、南野の1点目や永井謙佑の4点目では、モンゴルの選手はしっかりと首を振って、後ろにいる敵を視野に入れようと努力していた。
 
 だが、それでもモンゴルは次々と失点した。それは首を振るという動作には、大きな落とし穴があるからだ。
 
 首を振って背後の敵を確認しても、視線をボールに向けた瞬間には、敵の動きが見えなくなってしまう。例えば、4点目の永井のヘッド。モンゴルの選手は首を振って永井が背後にいることを確認したが、クロスが上がった瞬間、前に身体を入られ、ほとんどフリーでヘッドを決められてしまった。
 
 首振り確認をしたところで、直後の状況は大きく変わる。モンゴル戦に限らず、サッカーではこうした形で生まれるゴールが非常に多い。Jリーグでも日常的に見かける。
 
 首振りは、実は有効な守りの手段ではない。
 
 そのことに気づき、斬新な方法で解決しようとする指導者がいる。今季からセリエAのユベントスを率いるマウリツィオ・サッリ監督だ。
 
 彼はナポリ時代、敵の位置を一切無視し、ボールの位置だけで味方の守備位置を事細かに決める「トータルゾーン」と呼ばれる戦術を確立した。サッカーというスポーツは、ボールをゴールに入れさせなければ負けない。つまり、ボールが入ってくる道筋をしっかり閉めておけばいいという考え方だ。
 
 前述したように、この戦術はゴール前に入り込んでくる敵の動きを一切考慮していない。モンゴルがそうだったように、敵の動きを見ようとすることでボールへの集中力が散漫になり、また敵の動きに釣られることで不用意なスペースを開けてしまう恐れがあるからだ。
 
 サッリはこの戦術を浸透させ、ナポリで一大旋風を巻き起こした。圧倒的な戦力を誇るユベントスを追いつめ、しかもそのサッカーは「ヨーロッパ一美しい」と評された。
 
 この「トータルゾーン」について、私はイタリアの知人から学んでいるところだが、ともあれヨーロッパのサッカーは、私たち日本人の想像を超えて、恐ろしい速さで進化している。
 
 モンゴル戦できまったサイド攻撃を、逆に次は相手にきめられてしまうかもしれない。そうならないためにも、しっかりとアンテナを張っておきたいものだ。
 
 余裕がありすぎたモンゴル戦、そんなことをついつい試合中に考えた。
 
取材・文●熊崎敬(スポーツライター)

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